りくとの出会い
アンソーネが目覚めるとそこは知らない部屋だった。
「目が覚めたのか……」
知らない青年が暖炉に火をくべていた。
「貴方は?」
青年はその質問にぶっきらぼうに答えた。
「オレはりくだ。猟師をやってる。」
「はっ!お父様とお母様は?!」
「……オレが行った時にはもう……。」
「そんなっ……。」
アンソーネは泣き崩れた。
「あんた、名前は?」
「……何よ!なんのつもり?!どうせ助けるふりなんでしょ?!答えなさいよ!何が目的なの?!身体?それとも財産?!」
「……あんた、金持ってなさそうだし身体も特に欲しくない。」
「嘘よ!なんの目的もなく私を助けるわけないわ!!」
「…………あのさ、あんたがどこの誰で、どんな事してたかとか、興味ないぞ?」
「は?」
「あー、めんどくせぇ。つまりだ。あんたから何か巻き上げようってんじゃないってことだ。」
「…………本当?」
「ああ、ほぼ無一文そうなあんたに見返りなんて期待してねーよ。」
「じゃあ、どうして?」
どうして?そんなの決まっている。何か利用しようとしているに決まっている。アンソーネはそう思わざる負えなかった。
「オレが言うのも変だが……人が人を助けるのに理由なんざいるのか?」
「!?」
アンソーネは絶句した。そんな高僧のような人物がこの世にいるのかと。少なくとも、アンソーネの周りにはいなかったのだ。
「…………アンソーネ。」
「?」
「私はアンソーネよ。」
「そうか、アンソーネ。」
「ええ、助けてくれて、その、ありが……とう。」
「ところでコレ、なんだ?」
りくはポケットからスマホを取りだした。
「か、返して!!」
アンソーネはりくからスマホを無理やり奪い返した。その弾みでそのまま床へと2人はダイブする。
「きゃっ?!」
「!」
「大丈夫か?」
「ええ……?!」
気がつくとアンソーネの上にりくが重なる形になっていた。アンソーネは赤面する。気が動転していて気づかなかったがりくは、近くで見ると整った顔立ちをしていた。
「顔、赤いぞ?熱でもあるのか?」
りくの手がアンソーネの頬を掴む。
「きゃっ?!」
アンソーネは思わず手を払い除けた。
「すまん。」
そう言ってりくはアンソーネから退けた。
「全く!無礼にも程がありましてよ!」
アンソーネはそう言いながらも口元は自然と綻んでいた。
「熱はないみたいで何よりだ。」
「ご心配どうもありがとう。あと、女性には軽々しく触るものではなくてよ?」
「そうか……すまないな。オレはこの森に1人で住んでいて、あまり女と話した事がないんだよ。」
「そ、そうなのね。」
アンソーネは憎まれ口こそ叩くが、りくを気に入った。
「……女性扱い……いや、人間扱いされたのは久しぶりかもしれないわ……。」
「そうなのか?」
「ええ、ありがとう。りくと呼んでも?」
「ああ、よろしくアンソーネ。」
それからアンソーネはりくと共に住むことになった。しかし、相変わらず引きこもりのままである。それ以外の生き方をしてこなかった。楽をすることが身についてしまっていたのだ。
「ただいま。」
「りく!遅いわよ!食事は?」
「……すぐにつくる。」
りくが料理を作る間、アンソーネはずっと部屋に籠ってスマホをいじっていた。最近のブームは占いである。
「ふふふ、恋愛運が最高……と!」
しばらくしてりくが部屋に顔を出した。
「アンソーネ、めし、できたぞ!」
「ええ!ありがとう!」
アンソーネは部屋から相変わらずでない。出不精である。
そんなある日の事だった。その日はりくの帰りが遅かったのだ。
「りく、まだかしら……お腹すいたわ。」
しばらくして玄関の扉が開いた。
「りく?」
りくが心配になったアンソーネは部屋から出てみる事にした。
「りく……り……」
「来るなっ!!」
玄関で見たもの、それは……兵士達にリンチされてボコボコになったりくだった。
「おやおや、これはこれはアンソーネ元公爵令嬢ではないか?」
「!……お前はっ!」
そこにいたのはハクトだった。
「ハクトっ!!」
「そう、俺だよ。狼に食われて死んでるかと思ってたのによぉ?なんだ?男と幸せに暮らしてるだとぉ?許せねぇなぁ?」
「貴方には何も関係なっ……」
「ある!……関係おおありだ!」
「!?」
「お前みたいなゲスは狼に食われて死ぬのがお似合いだったってのによぉ!」
「ぐはっ?!」
ハクトはりくの腹部を蹴った。
「りく!やめて!その人は関係ないの!」
「あ?兄貴の次はこの男か?随分都合のいいこったなぁ!」
ハクトはりくを更に蹴ろうとする。
「やめて!!大体何しに来たのよ!」
「何しに?そんなのお前を地獄に突き落としにに決まってだろ?ムカつくんだよ!!俺を処刑しておきながら幸せになんてなれると思うな!!……おい、やれ!」
「はっ!」
王子の命令で兵士の1人がりくを斬った。
「り……」
アンソーネは言葉を失った。
りくはアンソーネの目の前で斬り殺されたのだ。
「いやぁあああっ!!りくっ!!」
アンソーネはりくに駆け寄る。
「りく!りく!しっかりして!!しっかりしてよ!!りく!!」
「…………あんたに、」
「へ?」
「あんたに、出会わなければ良かった……」
そう言ってりくは絶命した。
「…………………………」
死体はアンソーネに持たれかかるように崩れ落ちる。
「ふんっ!いいざまだ!また、親しい人間を作ったらこうなると思っておけよ?じゃあなっ!はははははははっ!」
「………………」
ハクトはそういうと兵士達と共に去っていった。
「……………………」
りくの目にはもう何も写っていなかった。アンソーネはただただもう動かないりくを空虚な目で見ていた。




