Act4 瑞穂学園__潜入の果てに
23:30__帰還
汚れた服のまま、龍輝はボロアパートの軋む階段を上がっていく。
かび臭い旧講堂から持ち出したデータは、既に航聖のサーバーへ転送済みだ。手首のウォッチがバイタルの正常化を告げる。
「……終わったぞ。もう寝る」
通信の切れたインカムを投げ出し、龍輝は布団に潜り込む。彼にとって、今日の瑞穂学園潜入は「二度と関りたくない、ただの危ない仕事」に過ぎなかった。
00:10__動き出す「保険」
学園近くの暗い車内。航聖はモニターを見つめたまま、一通の未送信ファイルを生成していた。
『加納 龍輝:瑞穂学園編入(予約)申請書」
それは、今すぐ使うためのものではない。加納の本家が龍輝の居場所を突き止め、このアパートが「使えなくなった」時にだけ発動する、航聖なりのバックアップ(保険)だった。
薫が窓の外を見つめながら、静かに問いかける。
「……加納家は、いつ気付くかしら」
航聖は表情を変えずに答える。
「時間の問題でしょう。……樹 厳三郎様へ、龍輝を「仕込む」件で打診したのは、あくまでヒメの個人的なコネクションとしてです。加納の本家が動けば、ここも危ない」
薫はフッと、皮肉な笑みを浮かべた。
「その時は、このファイルを送信して。龍輝が自力で逃げられないなら、私が『瑞穂学園』という新しい居場所を、彼に提供するわ」
龍輝はこの先、通うこととなる学園のデータを、航聖が「念のため」に捏造し始めていることなど、露ほども知らない。
彼にとって、アパートが燃やされるのは「不運な偶然」なのだ。
だが、その偶然すらも、薫と航聖という二人の天才にとっては「織り込み済みのシナリオ」の一つに過ぎなかった。
「……攪乱……かくらん、……懐柔……かいじゅう……」
龍輝の寝言が、静かな夜の闇に消えていく。
それから、彼は深く、穏やかな眠りへと落ちていったのだった。
やっとこの話のスタート地点まで繋がりました。




