Act3 瑞穂学園潜入:一年前の記録
22:00__陽動の幕開け
瑞穂学園のメインホールでは、深夜まで続く理事会主催の懇親会が行われていた。
薫は、豪奢なドレスを纏い、父・正雄の代理として出席している。
「……先生。先ほど、あちらの噴水庭園に不審な光が見えましたけれど?私……怖くって……」
薫は、警備責任者の教師に不安げな微笑みを向けた。彼女の可憐な仕草に、教師は血相を変えて数人の警備員を連れ、現場__北側の旧講堂とは真逆の方向へと向かう。
これは薫の「囮」だ。学園の令嬢という盾を使い、警備の網に意図的な「穴」を開ける。
その間に、彼女は、扇子で口元を隠しながら、耳元の隠しマイクに低く命じた。
「……開いたわ。行って、龍輝」
22:15__侵入とノイズ
学園の北門付近。龍輝は泥にまみれたパーカーのフードを深く被り、警備が手薄になった瞬間を見逃さず、高さ三メートルの作を音もなく飛び越えた。
『龍輝のバイタル……安定。そのまま旧講堂の非常階段へ。監視カメラの制御権は奪った……十秒だけ死角を作る。……よし、今だ』
脳内に直接響く航聖の声。龍輝は錆びついた鉄の階段を駆け上がる。
「……いちいち指示すんじゃねえ。分かっている」
「……龍輝。私のドレスを汚さないうちに終わらせなさい」
インカムから流れる薫の冷徹な声。華やかなパーティ会場にいるはずの彼女が、龍輝のすぐ隣で囁いているかのような錯覚を覚える。
22:45__旧講堂、裏帳簿の奪還
龍輝は旧講堂の隠し金庫に辿り着いた。手慣れた手つきでピッキングを行い、目的の「裏帳簿(機密データ)」を回収する。だが、その瞬間、廊下から複数の足音が聞こえてきた。
「おい、航聖!誰か来たぞ!」
『……想定外だ。教師の一人が忘れ物を取りに行ったらしい』
「……私が片づけるわ。龍輝、そのまま待機して」
薫は素早く会場を抜け出し、廊下で教師と「偶然」を装って鉢合わせた。
「あら……先生、こんなところで……実は、少し気分が悪くて。……手をお借りしても?」
薫の優雅な足止め。その間に、龍輝は窓から闇の中へと身を投げ出した。
23:30__密室の再構築
任務を終えた龍輝は、ボロアパートへと帰還した。
埃だらけの服のままで布団に蹲る彼を見届け、薫と航聖は車内で端末を並べる。
航聖の画面には、回収したデータとは別に、瑞穂学園の学籍システムが開かれていた。
「……龍輝の潜入ルートのログを消去。同時に、奴がいつでもこの学園に潜り込めるように「加納家」からの正式な申請としてシステムに挿入しましたよ」
薫はそれを見つめ、静かに頷く。
「ええ。……樹 厳三郎様への『預かりもの』の連絡も済んでいるわ。……計画はぬかりのないようにね」
24:00__嵐の前の静寂
アパートの部屋。龍輝は、航聖から送られてきた「覚えるべき単語リスト」をインカム越しに聞き流しながら、浅い眠りに落ちていた。




