表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ArcanaReWrite  作者: 上月琴葉
第一部
5/38

第四幕 孵化(後編)

「神話にしろ物語にしろ、伝承というものには必ず真実のひとかけらが含まれているものさ」


「……そういうものなんですかね……」


 現代シルクスには現在12の区が存在している。そのひとつ、アルビオン区。


 ふたりの青年は向かい合ってアフタヌーンティーを楽しんでいた。目の前には空になったトレーが並び最後に残っていたチョコチップスコーンに金髪の青年が手を伸ばし、そのまま齧り付く。対してダークブラウンの髪の青年はポットから飴色の紅茶をカップに注いだ。


「そういうものだよ。少なくとも僕が今まで巡流と界渡りしてきた世界ではね。各世界には世界を成り立たせる【世界原理】ーー理がある。その原理は大体創世神話の中に隠されている。なのでこの現代シルクスの神話とか伝承とか伝説に関する本がないかと思ってね。知らないかい?」


 ダークブラウンの髪の青年は小さく頷くと一般的に販売されている【現代シルクス神話伝承辞典】を取り出して青年に渡す。


「どうぞ。ただ現代シルクスでは【精霊戦争】の神話が最古で、それ以前の伝承は残っていないみたいです。現在一般的なのは【区核石】の伝承というか噂でしょうか。現在現代シルクスには12の区がありますが、この区は【区核石】と呼ばれる石によって存在を保っていてこの石が壊れると区が【白紙域】に呑まれるとか」


「ふうん。僕の世界でいう【界軸石】みたいなものかな。マレモノっていう海からくる化け物は基本的にあの石目当てって言われてたな」


「海から来る化け物……」


「おや、この世界にもいるのかな」


「……いえ、どこかで聞いたことがあるような気がしただけです。ですが【石喰い】と呼ばれる存在については聞いたことがありますね。【区核石】を狙う謎の存在で、彼らに【区核石】を喰われるとその区は【白紙域】になる。ただし【区核石】の実在自体が証明されていない。【区域主】は【区核石】が選ぶなんて話もありますがあくまでも噂です」


 ポットの紅茶とテーブルの上のトレーが空になる。ティータイムは終了だ。


「なかなか面白い世界に渡ってきたようだ。この世界は僕のいた世界と似ている点が多い。もちろん決定的に違う点もあるけど、第一は君だ。君は僕の知り合いの異世界カフェの常連に雰囲気も見た目もよく似ている。眼の色は全く違うけどね。まあ他人の空似ということもあるし、マルチバースという概念もある。気にしないでくれ」


「渡里さん。お別れの前にひとつだけ。マルチバースって何ですか?」


「おや、気になるかい?解釈は人によるけど……まあ僕の解釈で言うと【別の世界の似て非なる者】かな。顔も見た目も雰囲気も、場合によっては声も似てるけど本人ではないみたいな。僕のように【界渡り】をする者は、魂と記憶が一部欠けるなり分かれたりして別の世界に渡ることは、ありうると思うけどね」


 渡里はそう言うと青年の首に光る宝石に目を留めた。


「ふーん……そのチョーカーの石はオパール?」


「オパール……だと思います。鉱物には詳しくないですがよく言われるので。そんなに特別なものではないはずですよ?宝石店でも似たものをよく見ると言っていた知り合いがいるので」


「……モザイクオパール……欠けたカケラか……」


「……あ、そろそろ失礼するよ。次は僕の世界の物語の本を持ってこよう。パフェくん」


「楽しみにしてます。渡里さんならきっと美味しいパフェのお店知ってますよね。イス区の名物らしくて。じゃ、また」


 パフェと名乗った人物と別れた渡里は、アルビオン区のホテルに戻る。


「パフェね……パルフェ……パフェの語源でその意味は【完全】……一応あいつにも伝えとこうかな。単純にパフェが好きで名乗ってる偽名かもしれないけど」


 渡里は手慣れた様子でデバイスを立ち上げ、メッセージを送信してソファにもたれる。


「渡里。ソファで寝ると風邪引く」


「巡流。この世界は色々と面白そうだよ。そもそも界渡りでここまでの長期滞在も稀だが、異世界カフェの方は」


「連絡して事情により長期休暇の張り紙をしてもらった。一応あの人たちにはこの世界のことも共有してある。似ている世界なら何かが起きても向こうの対処法が効くかもしれないから。しかしパフェさん、渡里の話を聞くとどうしてもあの人がよぎる。他人の空似……であればいいんだけど……」


顔を曇らせた巡流の頭を渡里はわしゃわしゃと撫でた。


「まあ協力者はいるし、大丈夫さ。僕はとりあえず巡流を補給したい」


「はいはい」


**


「よく寝た……」


 見知らぬ天井で紡は目を覚ました。


 ここは、高天区の高天神社の結界内、京の屋敷の客間。


「……」


 体を起こし、はだけた浴衣の隙間から胸に現れたしるしが見えた。


【護りの証】。古代から密かに受け継がれてきた秘術。心を繋げた相手を一度だけどんな災厄からも護る絶対防御。吸血鬼と蔑まれ、迫害された【月の子ども】たちの悲しくて優しい魔法。共に生きられなくても、それでも愛する者だけには生きていて欲しいと。


「……ありがとう、宵霧」


 夜まで目覚めない彼を残して、紡は静かに客間の襖を閉めた。


「……わあ」


 縁側の硝子戸を通じて見える庭は朝露できらきらと輝き、どこからか薄紅色の花びらが舞い落ちてくる。惹かれるままに硝子戸を開き、草履を履いて庭に出た。風は暖かく、空はどこか朧で、太陽の光は柔らかく。時折姿の見えない鳥がぴちち、とさえずる。


「おはようございます。早いのですね」


「おはようございます。楓さん」


 ふわり、と風が舞って、紡の髪に花びらが留まる。


「おや、此花桜ですか。今年は開花が早いんですね」


 楓はそっと指を伸ばして、紡の髪から花びらを解放する。


「此花桜。高天区に自生する植物でしたっけ。高天神社の御神木とも」


「そうです。しかし、結界内の庭にまで舞い落ちてくるのは珍しいですね。高天区の此花桜には【神さま】が宿っていると言われているので何かを伝えたいのでしょうか?」


 ふわりと風が舞い、花吹雪。


 その中で紡は声を聞く。


 ーーたすけて。まもって。【石喰い】の蛸が、根をかじっている。【翡翠】は、桜の下に眠っている。


「……今のは……」


 花吹雪が止み、声も止んだ。


「紡さん、もしかして何か」


「……聞きました。【石喰い】の蛸が根をかじっている……【翡翠】は桜の下に眠っている」


**


「紡の言ってることは間違ってへん。うちも今朝おんなじ神託を受けたんよ。【区核石】……言うて実在するかは微妙やったけど……高天神社の御神木は確かに【翡翠桜】って名前なんよ。何で薄紅の花を咲かせるのに緑色の翡翠の名前が付いとるんかずっと不思議に思っとったけど……そういうことやったんやね……」


 京は静かに頷くと地図を広げた。


「翡翠桜の根の上に高天区は作られとる。なので蛸が齧ってるっていうなら湾岸地域……綿津見地区の辺やね。舟屋の住人に連絡取って、数人送って状況を確認してもらう。紡と宵霧は神域の社に。翡翠桜の声を聞いたんなら道に迷わずにいけるはずや。楓、宵霧を運ぶのと案内は頼む。終わったらうちと合流して。月が昇ったら巨大蛸を叩きます」


「……わかりました。けど大丈夫なんですか?神木に何かあったりしたら……」


 不安そうな紡に、


「大丈夫。翡翠桜に宿ってる神さまは、強くて優しい方。それに紡に助けて欲しいって言わはったなら、信じてるんよ、きっと。だから紡も宵霧も出来るって勝てるって信じなさい」


京は力強く告げた。


**


 陽が落ちる。昇ってきた満月を漁火と高天区中に灯された赤提灯の光が迎える。


「いよいよですね。しかしさながらここは洋上廃都のようですね……高天区沖合の無人島を母体とした廃港ですか」


 潮風に白い髪を靡かせながら京、楓、莱人の三人は廃港の土を踏んだ。崩れて光を灯さなくなった灯台だけがこれからの戦いの証人となる。


「さて、鳴神陣を起動する準備に入ります。楓は補助を。莱人、任せますよ」


「はーい」


 陣を書き始めるふたりを残して、莱人は海岸へ向かう。


「【石喰い】にはご馳走だろうね。何せ【双子のピアス】の片割れの血だ」


 海に向けて引き金を引く。莱人の血を詰めたカプセルが海上で弾けると同時に海が赤く染まりーー


「来た」


 深紅の体を持つ巨大な蛸の姿をした【石喰い】が現れた。


**


「【石喰い】……渡里さんも俺も伝説だと思ってたけど出現したか」


 現代シルクス、高天区上空、視認不可の高度上空。満月を避けるようにしてペンギン型の艦が旋回していた。


「で、どうするんだ。パフェ。高みの見物か手を貸すのか」


「基本的には高みの見物かな。【高天祓穢】の鳴神陣で仕留められないとは思えない。ただ、世の中に絶対はない。旗色がまずそうならソルベ、君の水の力で海に干渉してサポートを。俺はどっちかっていうと【可能性】の方が気になるし、本当に何かあるとまずいのは圧倒的に【区核石】の方だからそっちを見守りに行く。コスモとシトラスはついてきて。艦はフランボワーズに任せる」


「はーい。じゃあソルベとともに戦況と艦を見守っとくわね」


**


「……でけえなぁ……ま、だからって引く気もないんだけど!」


 莱人はひとり海岸で巨大蛸と睨み合っていた。あまりの大きさに月が隠れ、彼から確認できるのは化け蛸の眼だけだ。


 暗闇でも怪しく光る眼をめがけて


「……氷柩【コフィン・リオート】」


 莱人は絶対零度の呪文弾を撃ち込む。


 化け蛸の眼を撃ち抜いた弾はそのまま絶対零度の冷気を纏いながら蛸の体内を巡り始める。だが、片眼が使えないぐらいで化け蛸は止まらない。


「うおっと!」


 8本の触手のうち六本があやしくゆらめき、莱人めがけて叩きつけられた。


 咄嗟に地面に向けて風弾を撃ち、空中での跳躍回避。地面に落ちる前にすかさず触手に飛び乗り、化け蛸の頭上を目指す。


「京さんまだかなー……雷棘【パラライズ】」


 襲ってくる触手には雷の呪文弾を乱射し麻痺を狙う。


 が、相手の触手が大きいので効果が低い。麻痺の解けた触手がついに莱人の足を捕らえた。


「っうわ!」


 そしてそのまま全身に巻きつき、締め上げる。


「ぐうっ……!」


 触手はゆっくりと莱人の身体を本体の口へと運んでいく。


 (気を失ったら……負ける……逆に気を失わなければ俺たちの勝ちだ……)


 化け蛸は気づかない。莱人にとってチャンスを与えたということに。


 口が開く。その瞬間ーー


「かかったな」


 空中に銃が浮き上がり、銃口に高天神社の桜の紋が現れ、撃ち出されたのはーー


「穿て!」


 雷撃を纏った銃弾が跳びながら真の姿を構築する。それすなわち退魔の神剣を模したものーー擬似剣弾アメノムラクモノツルギ。


 化け蛸は悶絶する。同時に上空に巨大な陣が展開され、無数の雷撃が化け蛸に襲いかかった。


「受けよ……穢れを祓う神雷……鳴神陣!」


 剣から解き放たれた雲が雨を降らし続けて化け蛸の全身を濡らし、鳴神陣の威力を引き上げる。


「莱人さん!」


「とどめだ」


 触手を振り解いた莱人は蛸の頭上に跳躍しーー京から借り受けた本物の退魔の剣をその脳に突き刺した。


 化け蛸は断末魔の悲鳴のように触手をばたつかせ、霧になって消えた。


「やった……」


 海岸に着地した莱人は、白い月の光に包まれて満身創痍で海を見つめる。


「勝ったよ……今度は護れたよ……」


 どさり、と音がして月明かりに砂が舞った。


「莱人さん!京様、撤退を。傷と穢れの治療を」


「ああ。よくやったわ莱人はん。……けどここまで無理せんでもええ……大丈夫。すぐ助けるから」


**


 時は少し遡る。


 巨大蛸が廃港に姿を現すと同時に、蛸の分身である触手は木の影を巧みに通り翡翠桜の鳥居の前に辿り着いていた。


「……来たっすね。紡、準備はいいっすか」


「うん。頑張ろうね宵霧」


 月が昇る。満月の光に照らされて、宵霧の本能が目覚める。


「……血を……血が……欲しい……」


「……いいよ。宵霧の力にして」


 衝動のまま、宵霧は紡の首筋に噛み付く。甘い蜜が彼を満たした時、宵霧の姿が変わった。茶色だった髪は月を映したような金に。瞳は赤い薔薇のような深紅に。長く伸びた髪と漆黒のマントを夜風に靡かせ、彼は優雅に一礼をする。


「……我が眷属に礼を。これより【月の子ども】の裔としてこの地に害をなすものを……殲滅する」


 赤薔薇の細工がついたレイピアが月光に煌めく。


「……雪の女王、僕に力を貸して。高天区の【区核石】を護りたいんだ」


 紡の声に応えるように氷の剣が現れて紡の手に収まる。


 同時に片方の瞳の色がアイスブルーに変わり、白い髪の一部が青に染まった。


 服装はさながら女王を護る騎士。


「参る」「いくぞ!」


 紡は鳥居を抜け、翡翠桜の前に現れた分体蛸へ。


 宵霧は鳥居の外に現れた分体蛸へ。


 ふたりは互いの前に現れた化け蛸分体との決戦に挑む。


**


「月棘」


 襲いかかってくる触手全てを満月の光の棘が突き刺して地面に縫い止める。


 満月の夜の月の子どもの戦闘力は圧倒的だ。


「この程度か。しかし倒しても倒しても触手が再生するのは面倒だな。核は……脳か」


 ならば、と宵霧は空中に浮き上がり、背に生えた満月の光の羽根で真っ直ぐに分体蛸の頭を目指す。


 その時、異変が起こった。


「なに?」


 ーー月が雨雲と雷鳴に遮られ、満月の光が消える。京たちが発動した鳴神陣の思いもよらない悪影響だった。


「あ……」


 力が抜ける。背から羽が消える。落ちていく。


 月の子どもは満月をその力の源とする。反対にその力が失われれば。


(本来の僕は……戦闘なんて……)


 分体蛸の触手が宵霧の身体を捉える。


「あ……」


 どろり、とした消化液が吸盤から放たれる。捕食される。


「嫌だ……こんなところで負けるなんて……」


 (無理だったんだ。やっぱり……紡に無理させてまで頑張ってもらったのに。純血じゃないからダメなんすかね……リヒトさんの血……引いてるってのに)


「宵霧!」


「……紡!来ちゃダメっす……!見ないで……こんな弱い僕を見ないで……」


「……大丈夫、僕が助けるから!諦めないで!」


 駆ける紡の瞳に見えないはずの月が映る。


 赤い月。本来の宵霧の瞳と同じ月の子どもを見守る優しい色。


 そして声が届く。


 ーーねえ、君、僕の力を受け入れる気はある?あの子さ、僕らの末裔なんでしょ?君もあの子を助けたいなら利害一致してるし。そもそもマナリンクしてる時点で運命共同体だし、多分僕の力を受け入れても君なら大丈夫と思うんだよね。


「……うん。僕は宵霧のこと親友だって思ってる。失いたくないんだ。お願い、力を貸して!」


 ーー契約成立。あの子のことよろしくね。


「……紡……?」


 宵霧の目に赤い月の光が映る。


 次の瞬間、分体蛸は袈裟斬りにされ、塵になって消えた。


「……大丈夫?宵霧」


「……なんとか……その姿は……一体?」


 黒と金の混ざった瞳に深紅の両目。手に持つのは三日月を模したかのような蒼月の鎌。吸血鬼を思わせるような黒いマントに薔薇細工のついたネクタイ。


「……吸血鬼……ううん、月の子どもの精霊が力を貸してくれたんだ。宵霧をよろしくって。僕の方は早めに分体蛸を倒せたんだけど……間に合って本当に良かった……」


 紡はそっと宵霧を抱きしめる。


「……ありがとう。あと本当ごめん……僕はやっぱり戦力外でしかないっす。満月なら戦えるかもって思ったけど、月が雲に隠れただけでこの体たらくっす。紡のがよっぽど強いっすよ……」


「ううん。宵霧は強いよ。だって怖くても戦ってくれたし、力に呑まれてもなかった。宵霧がいたから僕も分体蛸と戦うのに集中できたんだし。これからも一歩ずつゆっくり歩いていこうよ。一緒に、ね?」


「……紡……本当にいいんすか。こんな弱くて純血でもない夜しか動けないヘタレゲーマーでもいいんすか……」


「宵霧だから親友でいたいんだよ。それをいうなら僕だってそもそも何者かもわからないし……世界にとってもどうなるかわからない【可能性】だし……そんな僕に優しくしてくれて、ありがとう」


「……お言葉に甘えるっすよ……」


宵霧の瞳から涙が静かに一雫こぼれ落ちた。


**


「……青春だね」


「青春だな……」


 パフェとシトラスは翡翠桜の影から帰っていくふたりをそっと見守っていた。


「とりあえず現状維持でいいかなあ。紡くんの力は確かに未知数だし異分子だけど誰かを傷つけるためじゃなく護るために使うなら問題はなさそう。宵霧くんもあの戦闘力は圧倒的だね」


「戦い慣れてなくてあれだからなあ。しかし正直意外だったんじゃないか?紡がまともな性格だったのは。だって助け出される前の境遇はーー」


 シトラスとパフェは顔を曇らせる。


「それは本当にね……とはいえ、心は正の方向に壊れる場合もある。油断はできないけど……とりあえずはゆっくり休んで欲しいかなあ。……君もね」


 パフェは翡翠桜を見上げる。


「封印は強化しておいたから翡翠はもう【石喰い】には狙われないよ。じゃ、帰ろうかシトラス。今晩はステーキにしよう」


**


「【石喰い】が動き出しましたか。厄介なのは基本的に区域主であっても【区核石】の所在を知らないことと、基本的に出るまで相手の情報がないことですね」


 高天区での【石喰い】に関する記事を読み終わり、mYThの長はため息をついた。


「高天区の区域主は神職ですから神託という形で対策を取れましたが……せめて次にどこの【区核石】が狙われるか手がかりがあればいいのですが……残った12区も【区核石】も喪われるのはよろしくない。【計画】にも影響が出るでしょうから」


 長の憂いをよそに、ドアが壊れそうな勢いで開き、いかにも元気系という感じの少女がフリルスカートを揺らして駆け込んできた。


「朗報!朗報ですよ長さま!実はですねえ、以前も今回も異常を示した【区核石】の近くで謎の人物を見かけたって情報がつかめちゃったんです」


「ドアは大切に扱いましょうね……謎の人物?」


「ええ。男だそうです」


「もう少しなにかないですか」


「男で……金髪説と茶髪説があります」


「ふむ……引き続きアイドル活動権諜報をよろしくお願いします」


「はーい!では明日からツアーなのでお先に失礼しちゃいます!」


 激しい音を立ててドアは閉じられた。


「金髪か茶髪……の男といっても範囲が広いですが」


 心当たりがないわけではない。だが、確信も持てなかった。


「……まさか、ね……」


 長はソファに寝転がると、書類の山から目を背けるように寝息を立て始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ