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番外編 或る邂逅
時間軸 トリチェッロ区に行く前
依頼先に着くと、先客がいた。
薄暗い路地、飛び散ったインクの沼は先程までここに沢山の文字喰いが発生したことを示している。
「遅いから全部ぶっ倒した。安心しろ。別に依頼料横取りしたりしないから」
黒い髪をひとつに束ねた少年は現場に着いた紡を赤い瞳でじっと見つめた。
「え、でも流石に何もせずに報酬をもらうのは」
青年は深いため息を吐き、一段低い声で冷たく言い放つ。
「真面目だね。さすがは【可能性】と言われる天乃 紡。ああ、だけど覚えておいたほうがいい。【可能性】ということは例外。そして例外であるものは等しく【災厄】にもなる。せいぜい【災厄】にならないように」
「え、どうして名前……」
次の瞬間、彼の姿は消えていた。
「……【可能性】は【災厄】でも、ある……」
その言葉は紡の心に消えない棘となって残り続ける事になる。
「……【災厄】にはなりたくない。そうならないように強くならないと」
拳を握りしめて紡はひとり呟く。
遠雷が聴こえる。まもなく雨が降り出すだろう。




