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ArcanaReWrite  作者: 上月琴葉
第四部 嵐は黄昏を連れて
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第二十三幕 祝祭前夜、龍の目覚め

東華区での夜無月祭前日。龍の子は地上に降り立つ。


各勢力の思惑が交わる中、祭りが始まる。

 知らせは急だった。


 トリチェッロ区のアクト・フィグメント本拠地で負った傷から紡がようやく回復し、シレーナと勇陽も無事に目を覚ました翌日。


  紡くんたちへ


  東華区に戻ったユエです。


  緊急の連絡です。


  莱人くんが行方不明になったの。


  使い魔もつけていたんだけど見失ったみたいで。


  他にもお願いしたいことがあるので東華区に来てください。


  東雲さんに話は通してあるから人数分の飛空艇チケットを送ります。


「莱人が.......」


「びっくりすると同時に納得でもあるっす。莱人さん、最近様子がおかしかった.....」


 紡は元アクト・フィグメントのグーフォに見せた莱人の様子を思い出す。普段どちらかといえば明るくノリの軽い彼からは考えられないほど冷たい瞳だった。


「急いだ方がいいぞ。ああいうタイプはひとりで抱え込むから何をするかわからない」


「私たちはもう大丈夫。紡のこともあの戦いのことも覚えている。奇跡って起こるのね?」


「ふたりが大丈夫なら、キラリティにお礼を言って今日の夕方の東華区行きに乗ろう」


 四人は頷くと旅支度を始め、夕方にトリチェッロ区を発った。


 夕陽に照らされた海が少しずつ遠ざかっていく。その様子をシレーナはきらきらした瞳で見つめていた。


「綺麗....空から見たトリチェッロ区ってこんなにきらきらしているのね。東華区ってどんなところなのかしら?私はトリチェッロ区からでたことがないから」


「僕も東華料理ぐらいしか知らないっすね。現代シルクス最大の面積を持つ区であるってことぐらいしか。一応ガイドブックは買っておいたけど」


「俺もよくわからないな。研究所が壊滅したあと各地を彷徨っていたから立ち寄ったこともあるのかもしれないが、記憶の一部は炎に焼かれてしまった。俺はまあ、紡のことと大切な記憶が残っていればそれでいいんだが」


「とりあえず東華区に着いたらユエさんが迎えに来てくれるはずだからそれまではゆっくりしてて大丈夫そう」


 **


「.....ふむ」


 東華区のとある場所。


 未来を見ると言われる神獣麒麟の神子は水鏡に波紋を見た。


「アルカナ保持者、嵐、黄昏に訪れる結末....龍、魔女、世界の理.....アクト・フィグメントの計画」


「はあ。華やかな夜無月祭の時期はトラブルも多いものじゃが、今年は格別な予感がするのう、なあユエ」


 神子は溜息を吐きながら、でもどこか面白そうに彼女を見つめる。


「面白がっている場合ではありませんよ、神子様。ずっと城にいて退屈なのはわかりますが、区主としての責務をお忘れなきよう」


「区主としての責務というならお前の呼んだ者たちを見極めつつ、夜無月祭を案内しよう。彼らがアルビオン区やトリチェッロ区で活躍したことは知っておる。だが、東華区は事情が違う。もちろん戦力も重要じゃが、信頼できるかどうかが最も重要になる。止めてくれるなよ?」


「わかりました。ですが私の使い魔だけはつけさせてもらいますよ」


「シマエナガ型のみ許可する」


「わかりました」


 ユエが呪文を唱えると折り紙は一羽のシマエナガに変わり、神子の肩に止まった。


「かわいい。なに、心配は要らぬ。四神の神子もいるのじゃ。東華区は簡単にアクト・フィグメントには屈さぬ。区核石の守りもあるのじゃから」


 **


「......流れ星」


「そうだね。現代シルクスでは流れ星は珍しい」


「別の世界から何かが来た時に降る?」


「もしくは、龍が目覚めた時だっけ。東華区ではだけど」


 金色の髪の少年と黒髪の少年は空から降る星を見上げる。


「ユエ師匠、最近忙しそう」


「夜無月祭の時期はどんな退魔道士も忙しい。ユエ師匠はああ見えて神子様の懐刀だしーー」


 金色の少年は気づく。空から何かが真っ直ぐに落ちてくることに。遅れて気づいた黒髪の少年はすぐに結界を張った。


 何かは淡く煌めきながら、ふわりとふたりの少年の前に降り立った。見た目は人型。ただその頭に生えた鉱物の角と結晶の羽が目の前にいるものが人では無いことを示していた。


「龍....」


「敵意はなさそうだけど、捕獲するか?」


「……敵じゃない。呼ばれたから、きたんだ」


 龍はきょろきょろと周囲を見回す。


「呼ばれた?」


「うん。声を、きいた」


 ふたりの少年は顔を見合わせる。


「その人を探すなら協力するね」


「ああ。だが角は隠した方がいい。夜無月祭の時期は外部からの観光客を狙う者もだが、紙魚種や文字喰いも活発化する。この区にとって龍は特別な存在だしな」


「特別?」


 龍は首を傾げる。


「とりあえず俺たちの家に行こう。その辺の伝説も話してやるよ」


 **


「……龍が目覚めた、か」


 照眞はベランダで満月を見上げる。


 そういえば東華区では夜無月祭の時期だったか。一度も行ったことはないけれど、古い友人が話してくれたから知っている。


 ーー「東華区の夜無月祭はすごいんだ!都市全部が華やかに飾り付けられて美しい月の季節を祝う。何でも昔、美しい月の夜に空から龍が降りてきたことに由来するらしいよ。食べ物もたくさんあって美味しいし、いつかボクとキミとで屋台の食べ歩きがしたい」


 不意に月の光が遮られ、目の前に一匹の黒猫が現れる。


「おや」


 照眞はその猫をよく知っていたから、黒猫が急に人の形に変わっても驚かなかった。


 漆黒の夜色の髪に月色の金色と緑色のオッドアイ。


 男装の麗人という言葉がその人には相応しい。


「やあ、ボスくん。ボクだよ⭐︎」


「久しぶりだね、モネ。キミは初めて会った時から神出鬼没だけど」


「猫だからね。これはお土産だ。夜無月祭に行ってちょっと買ってきたんだ。気になる話も聞いたしね」


 モネはどこからかテーブルと椅子を呼び出してベランダに置く。東華茶が注がれ、月美団子が照眞とモネの前にことん、と置かれた。


「気になる話?」


「キミも龍が目覚めたことは感じとっているだろう?【童話】の長が愛情たっぷりに育てた龍の子は【呼び声】に答えて東華区に降り立った。東華区で龍は特別な存在だから、少なくとも東華区民が龍の子に手を出すことはない。だが、東華区民以外なら話は別だ」


「アクト・フィグメントか。それに関してこちらも共有しておくことがある。トリチェッロ区での戦いの後、グーフォさんから聞いた話だ」


 **


「去る前に、照眞さんにはひとつだけ情報を共有しよう。アクト・フィグメントの【金貨】についてだ」


 あの日。紡が勇陽と戦っていた時、私は【金貨】と戦い、確かにあいつを倒した。獲物は間違いなく敵の体に突き刺さり、致命傷を与えて【金貨】はその場に倒れた。だがーー翌日、ひとりであの場所を見に行ったが落ちていたのは金貨一枚だけだった。


「金貨一枚だけ?」


 首を傾げる照眞にグーフォは続ける。


「ああ。術の類が無いことは確認済みだ。念の為アルカナの力も使ってある」


 グーフォはその金貨を照眞に渡した。


「この金貨が実際に流通しているものかなども私より照眞さんの方が詳しく調べられるだろう。とりあえず現時点での推測だが、あの場にいた【金貨】は本体ではない」


「ありがとうございます。グーフォさん。こちらも新情報がわかれば共有しましょう」


「感謝する。アクト・フィグメントの擬似アルカナである小アルカナも、アルカナの能力自体にもまだ謎が多い。味方はひとりでも多い方がいいのは間違いない。私は引き続き【金貨】を追う。それがシレーナや紡たちに影からできる最大限の手助けだ。最後に警告しよう。


 ――宝 莱人から目を離さないほうがいい。最悪彼が失踪したとしても絶対にアクト・フィグメントの手に渡してはならない」


 **


「ふむふむ。キミが思い悩んでいることから考えると宝 莱人は既に失踪したんだね?」


 照眞は頷く。


「じゃあボクはしばらく東華区でキミの調査を手伝おう!お代はそうだなあ。一緒に祭りを見て回るでどうかな?現地でしか得られない手がかりってあると思うし、思い悩むよりはずっといい」


 モネは目を輝かせる。


「だけど今は緋弦たちを預かっていて」


「大丈夫、その辺りは把握済みさ⭐︎知り合いの魔女が快く留守番を快諾してくれた。ってわけで行こう!今すぐ!」


 **


「さて、龍の話だったな」


「とはいえ俺らもあんまり詳しくはないけどーー」


 ふたりの少年は龍の子に東華区に伝わる伝説を語った。


 この世界を作ったのは、龍である。


 そののち仙人がこの世の理を定めた。


 八の【童話仙】、彼らの従える仙人や退魔道士は世界の各地で楔石と均衡を護っている。


 目覚めた龍は流星とともに降る。


 東華区の夜無月祭は龍の降臨を祝ったのがそのはじまり。


 或る夜、満月を背に翼を持つ龍が桃華都に降り立った。


 時の支配者は吉兆ととらえ、龍を手厚くもてなした。


 龍が降り立った地には桃の樹が生え、今も東華区を見守っている。


 龍は美しい石を遺し、眠りについた。


 その石は今も楔石となり、首都を結界で守っている。


「……ぼくは、竜の子。呼ばれた気がしたから目覚めた。声がするの。ふたりに、お願い。声のするところへつれていって」


 **


「……嵐がくる」


 夜無月祭の前夜。黒髪に緋の瞳を持つ少女は晴れた空で眩しく輝く満月を見上げて呟く。


 その手には夜無月祭名物の月美団子があった。


「この力はあまり役に立ってほしくはないが、これも定めか」


 少女はそうつぶやくと、腰につけられた得物にそっと手をやった。


 月は静かに輝きを失い、夜は明ける。


 現代シルクスで最も華やかと言われる東華区の夜無月祭。


 様々な思惑を持ち、人々はこの一夜、桃華都に集う。


 ーー時は来た。祭りが、始まる。



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