幕間 追想
第四部 嵐は黄昏を連れて 序
――夢見が悪い。
夜無月祭を待ちわびて、人々がざわめく華やかな東華区のホテルの一室で、宝 莱人は飛び起きた。
「はあ……紡たちと一緒にいた頃は見なかったのにな」
起き上がり、ぬるい水を口に運ぶ。強い酒でも飲めば眠れるのかもしれないが、彼はあいにく酒には弱かった。
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燃えている。辺り一面を埋め尽くす火。
熱にあぶられながら、傷を負い必死で駆けていくふたりの子ども。
走って走って、もうすぐ出口というところで立ちふさがった黒い影。
「大丈夫だから」
少女はその背に双子の弟を庇い、
「あなたは逃げて!」
自身はその影へ向かって歩いて行った。
――そのあと、少女がどうなったのかを知る者はいない。
少年は走り続けて、近くの村に保護された。
翌日、大人たちとその場所を見に行ったときにはその場所には瓦礫以外残っているものは何もなかった。
「あれから、忘れたことはなかった。大事な片割れ。双子の姉……」
炎が刻んだのは消えない傷と、研究所への深い恨みと憎しみ。
任務の間を縫って、アクト・フィグメントやmYtHに関係のある研究所跡を訪ね歩いた。
だから、あくまでも紡を見つけたのは調査のついでのただの偶然だった。
「……楽しくて賑やかな日々で忘れかけていたけど、目的は変わらない。姉さんを見つけて連れ戻す。そのためならどんなことでもしよう」
莱人は色あせた写真を取り出す。研究所に来た時からずっと持っていたという姉と両親の写った写真。
もう二度と戻らない穏やかな日々の欠片。
「……これから先はもう感傷はいらない」
色あせた写真は、ちぎられて紙屑に変わる。
「師匠ごめんなさい。これは、俺の問題だ。だから、この先はひとりでいい」
最低限の荷物だけを持ち、莱人は宿を抜け出した。
静まり返った世界で、月だけがすべてを見ていた。




