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ArcanaReWrite  作者: 上月琴葉
第三部ステラ・マリス
20/32

第十七幕 偽りが守るモノ

明らかになる怪盗の目的と正体。


そして事態は急変する。

 ーー俺の祖父は、贋作師だった。


 誤解されて欲しくないから言っておくけど、祖父はそれらを悪事に使ったりはしていない。彼はあくまで博物館や美術館の依頼を受けて、精巧な展示用レプリカを作って納品していただけだ。


 幼い頃、口喧嘩をした時に勢いで言ったことがある。


「ニセモノばっかり作って何になるんだ!」


 祖父は少し悲しそうな顔をして、静かに告げた。


「じいちゃんはね、ニセモノを作ることで本物を守っているんだよ。世の中には有名だけど、現物を展示できないモノたちがある。それはたとえば、本体が失われてしまったモノ、あまりにもぼろぼろになったモノ、価値が高すぎるモノ。少なくともじいちゃんはこの仕事に誇りを持っているよ」


「ニセモノで本物を、守る」


 ーーその時の衝撃はよく覚えている。


 その数年後、俺は思い知ることになる。


 ーー嘘で守れる真実があるということを。


**


「怪盗ヴェネレって資料にあったっけ?最近の話?」


「怪盗が【鏡像】事件に関わるとは誰も思っていなかったから資料も作っていなかったのだろう」


「紫穂は現場に先に行って。私はこれからネットワークを漁って情報を探してくる。ついでに東雲さんにも連絡しておくから」


「ああ」


 現場へ急ぐユエと紫穂を横目に緋弦は【栞】を起動する。


「東雲さん、緋弦です。トリチェッロ区で怪盗が出ているようですが、調査対象に加えますか?」


 東雲は意外な言葉を口にした。


「その怪盗は美術品を....絵画を盗むと予告状を出しているかい?もしくは宝飾品を」


「ええ、そのようですが。ええとメディアによるネットワーク上の記事には速報で予告状が全文載っていて....今回のターゲットは絵画です」


「ならば調査対象に加えてくれ。その怪盗ヴェネレは数年前からトリチェッロ区で有名になった【花弁の怪盗】だ。だが、彼のターゲットには不可解な点が多い。彼はね【贋作】しか盗まないんだ」


「贋作しか盗まない怪盗?」


 緋弦は首を傾げる。


「ああ。なので金目当てではない。そのため被害者も被害がないどころか、家庭問題や健康問題が急に解決する事例が多くて、【贋作】を盗んでくれてありがとう!という声の方が多いんだよ」


「それって、まさか....」


「ああ。だからキミとユエをトリチェッロ区に送り込んだのさ。【贋作】にはある種の呪いが刻まれているのではないかとね」


**


「......」


 現場に着いたユエはじっと狙われているらしい絵を見つめた。驚くほどに警備は手薄で、その上に私設美術館の館長は驚くべきことを口にした。


「いやー【贋作】ばかりを狙う【花弁の怪盗】がうちにも来ましたか。どうぞ盗んで行ってください。彼が狙うなら確実に【贋作】ですからね!」


「どういうことだ?怪盗というのは基本的に金目のものを狙う。小説ではそうだ。現実では違うのか?」


「いえいえ。怪盗ですから普通は金目のものを狙うでしょう。ただ【花弁の怪盗】だけは別なんですよ」


 館長はトリチェッロ区で数年前突如現れた【花弁の怪盗】について話してくれた。


 彼は絶対に人を傷つけず、極力建物も傷つけずに確実にターゲットだけを盗む。


 犯行現場に【頂戴いたしました】のカードと薔薇の花びらが落ちているだけで姿を見たものはおらず男か女かもよくわからないが、ある現場に残っていた靴跡やカードの筆跡から現在は男性だろうと言われている。


「初めての犯行は実は私の知人の家でした。急に知人は体調を崩してしまい、お見舞いに向かった日のことでした」


 深夜、控えめにガラスが割れる音がした。


 高熱の知人を起こさないように気をつけて現場に向かうと月明かりの中に人影が立っていた。


「【贋作】は頂戴します。災難でしたね……数日すればおそらくあなたのご友人は元気になるでしょう」


「それは、どういう……」


 次の瞬間にはもう人影はどこにもおらず、深夜だったので夢かと疑った。


 だが事実、ガラスは割れていて一枚の絵が無くなっていた。


 そして数日後、嘘のように知人は回復した。


「絵を盗まれて……元気に……」


「ええ。わけがわからないでしょう?でも、知人は昔から一度も風邪を引いたことがないような人でした。ですが、ひょんな縁からその絵を手に入れた翌日、急に倒れたと連絡が来て……」


「偶然じゃないのか?絵が誰かを傷つけるなど聞いたことがない」


 冷静に否定する紫穂とは対象的に、ユエは静かに首を横に振った。


「……いいえ。絵が人を……傷つけることはありうるのよ」


「……ユエさん?」


「……館長さん、落ち着いて聞いて欲しいけど……今回のターゲットになっている絵からは……【呪術】の気配がするわ」


「……なるほど、確かな眼をお持ちのようですね」


 静かな声が告げるとともに、空間が揺らぐ。


 次の瞬間、【贋作】を抱えた怪盗が部屋の中心にいた。


「……あなたが……【花弁の怪盗】……ヴェネレ」


 刀を構える紫穂を、ユエは手で制した。


「ご心配なく。私は誰も傷つけません。私が傷つけるのは【贋作】のみ。もっと正確に言えば【呪術】を仕込まれた【贋作】のみとなっております。


しかし、まさか東華区の道士が出てくるとは……言っておきますが【鏡像】と私は無関係ですよ」


「そうだと思っているから安心して。お姉さんもあなたを傷つける気はないの。そしてあなた、ただの怪盗ではないわね。……トリチェッロ区の【魔女】の加護を感じるわ」


「……本物の館長は今日の夕方に倒れました。下見に来ていた時に……ですので今は病院です。私の正体を探るつもりなら、ここの監視カメラの記録に残っています。……もっとも、もう気づいている人があなたの仲間の中にいますよ。ああ、もうすぐ来ますね」


 ドアが開き、現れたのは緋弦だった。


「……変わってないね。あなたは昔から優しくて、自分のことを簡単に犠牲にするんだから」


「……緋弦?」


 彼女は静かに【花弁の怪盗】の前に歩を進め、その名前を呼ぶ。


「……久しぶり、フィオレ」


「……久しぶり、ヒヅル」


「……私の眼は誤魔化せないよ。……また会えて、嬉しい」


「え」


 そのまま緋弦はフィオレを抱きしめる。当のフィオレは突然のことで眼を白黒させて、顔を赤くしている。


「……ユエさん、紫穂。ここは、見逃してあげて。本物の館長さんに聞きたいことがあるから、早く回復してもらいたいの」


「……そうね。戻りましょう、紫穂」


 ユエは何かを察したように紫穂を促して先に美術館を出た。


「……ありがとう。でも、俺と関わるべきじゃない……だってヒヅルは」


「……ううん」


 緋弦は静かに首を横に振り、ある事実をフィオレに伝えた。


「ありがとう、気をつけるよ」


「……私も私にできることをするから……また、明日のお昼にね」


「ああ」


 怪盗は姿を消し、【贋作】の回収は無事に成功した。


 全てが終わり、静かになった室内で緋弦は咳き込み、うずくまる。


「……痛い……」


 彼女がこぼした涙は宝石に変わった。薔薇の色のようなルビーが一粒落ちた。


「……フィオレの身体にはケガレが溜まってる……私の呪いが、やっと誰かの役に立ったのは嬉しいけど……このままじゃ……」


 深呼吸をして息を整え、緋弦は何事も無かったようにホテルへと戻った。


**


 そして翌日、事態は急変する。


 フィオレは、広場に現れずーー


 ーー紡は【鏡像】に襲われたのだった。


「……ユエさんがいるから紡はきっと大丈夫。私たちは、フィオレの行方を探すよ」


「緋弦の望みなら。それにユエさんや東雲さんの推測が正しいなら傍観するわけにはいかない」


「うん。紡の襲撃とフィオレの行方不明。一見関係なく思えるけど……なんだろう、どこかで繋がりがある気がするの。とりあえず館長さんに話を聞きに行こう」


 病院で面会した館長は、盗まれた【贋作】についての情報を怪盗への感謝とともに共有してくれた。


 館長によれば、その【贋作】は美術館の倉庫にいつのまにか紛れ込んでおり、目録を作って展示したのは数日前、その日からすぐに体調不良が出たのだという。


「知人の例もあるのですぐに【水鏡の館】に連絡を取りましたが呪術は専門外とのことで。占い通りに焼こうとしたのですが火がつかず、ゴミ捨て場に捨てても美術館の玄関に戻ってきて」


「……なるほど。話を変えますが、トリチェッロ区でアクト・フィグメントの名前を聞いたことは?」


「アクト・フィグメント……どこかで、聞いたような。ああ、思い出した。知人があの【贋作】を飾るときに見た箱のラベルだ。知人に話を聞くといい。私の名を出せば情報収集に協力してくれるはずだ」


「ありがとうございます」


 面会終了とともに病院を後にし、その足で向かった館長の知人の家では言葉通り贋作が入っていた箱を見ることができた。ちなみに箱には緋弦が調べても呪術などは仕込まれていなかったが、


「アクト・フィグメント……間違いない。だけどもっとマズイこともわかった……」


緋弦は箱のスタンプのマークを見て顔を曇らせる。


「……最悪だ。あの男……アクト・フィグメントと組んでる。すみません。箱のラベルとスタンプの写真を撮ってもいいですか?」


 館長の知人は快諾し、緋弦はすぐに撮影した画像をrOMaN本部へ送った。


「緋弦、写真を見たがこれは……」


 すぐに【栞】が振動し、東雲から連絡がくる。そこにもうひとりの声が割り込んだ。


「初めまして緋弦さん。私はmytHの長、東雲の兄にあたる。こちらにも大問題が起こって動かざるをえない事態になり、東雲とともに調査をしていたんだ。同盟の件は聞いていると思うけれど、念のため誓約をしよう。mytH はrOMaN とも童話とも魔女達とも敵対せず、必要に応じて相互協力をする。君たちに危害を加えることは決してない。単刀直入に聞こう。あのスタンプのマークは……【金山財閥】の社長専用印だね?」


「はい」


 緋弦ははっきりと頷いた。


「……酷な確認ですまない。だが、これからの方針を決める上で敵の素性を知っておく必要があったんだ。これでこちらも動ける。なお、こちらの大問題とは、【アルカナ資格者】が失踪したことだ」


「アルカナ……資格者?」


「ああ。アルカナシステムに適合した者は【アルカナ保持者】と呼ばれるが、まだ覚醒していない者のことだ。実はこの段階が一番難しい。彼らはアルカナの力を振るうことができない一般人だから」


「……その人の、名前は」


 緋弦の心配は的中することになる。


「ひとりは暁 勇陽。【太陽】のアルカナ資格者。どうも紡くんと因縁があるらしい。そしてもうひとりは、フィオレ。【贋作】のみを盗む【花弁の怪盗】ヴェネレの正体にして【正義】のアルカナ資格者だ」



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