断章――第ニ夜
――いずれ嵐は訪れる。
――ああ、また同じ場所だ。
薄暗い洞窟の中、白い蓮のような花が咲き乱れる地底湖。
「こんばんは。今日は現実世界ではいい月なのかしら。そういえば、高天区や東華区は九月の満月を中秋の名月と呼んで愛でるのですって」
「九月。あと一か月後ぐらいかな?東華区のことなら莱人に聞いてみようかな」
ツムギの言葉にヒバナは微笑む。
「お月様においしい月見団子をおそなえしたあとで、みんなで食べるそうよ。穏やかな時間を大切にしてね、ツムギ」
「……トリチェッロ区の事件は解決に向かっていっている。でも、どうしてだろう。どこか、胸の奥底に不安が渦巻いているんだ」
ヒバナは、静かに告げる。
「……うん。ツムギの予感は間違ってないよ。そろそろ【紅鏡】が動き出す。夏が終わり、秋は実り、朽ちていく」
風もないのにふわりと白い花びらが舞う。
「……もうすぐ、嵐がくるよ。【星】の試練が訪れる。アルカナを持つ者たちは運命の壁に挑むことになる」
「……運命の、壁……」
不安そうなツムギの手にヒバナの細い指がそっと触れる。
「忘れないで。ツムギ。あなたはひとりじゃない。知っている?トリチェッロ区の船乗りたちに残る言い伝えでは嵐の終わりを告げる青い稲妻の精霊がいて、精霊が歌うと、導きの星――ステラ・マリスが現れるんですって。嵐は爪痕を残すけど、いつか必ず去っていくもの」
世界がぼやける。
夜明けが近い。
「願わくば、また次の……夢で……」
そしてツムギは夢から醒める。
「……【星の試練】、運命の壁……未来に不安がないと言ったら嘘になるけど、とりあえず今は、目の前の問題を解決して進んでいくしかないんだ」




