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ArcanaReWrite  作者: 上月琴葉
第二部アルビオン区編
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第9.5幕 導きの星を求めて

 「笹を買ってこい、かあ」


 アルビオン区の一件が終わって一週間が経った。


 【人魚の涙】は無事に取り戻されたが、アーサーは博物館に戻すのではなくロビンに託すことを選んだ。


 遊戯大会が閉幕したあと、【特別遊戯】の招待客にのみ送られたメール。


 ペルラの正体はそもそも【蛍石】の妖精であり、【人魚の涙】の正当な継承者は彼女である。ゆえにアルビオン区立博物館長と話し合い、保護の観点からレプリカの展示を今後も継続する合意を取り付けた。


 アクト・フィグメントについてはアルビオン・ヤードなどとも協力しつつ今後も動向を追う。何かあれば今後も情報提供をお願いしたい。


 最後に。


 【特別招待客】の皆さまへ感謝を。


 機会があればまた、アルビオン区へお越しください。


 その際はアフタヌーンティーをご用意してお待ちしております。


                                             アルビオン区主 アーサー


「それにしてもアーサーが区主だったなんて……」


 流石に気づかなかったな、と思ったところで目的地に着いた。


「えっと、フラワーショップ ネリー」


「おや、お客様かな。もしかして笹を買いに?」


「はい、そうなんです」


 店長であろう男は一瞬紡をじっと見たあと、笹の特設コーナーに彼を案内する。


「はい、ここだよ。だいぶ重いけど何本いる?」


「一本で大丈夫です。rOMaNの身内でええと、七夕、というのをやるらしくて」


「おや、君は七夕を知らない?」


 紡は頷く。


「七夕というのは、東華区が発祥と言われる季節行事です。元々の由来は、天の川に由来したもの。離れ離れになった恋人が年に一度だけ会える日。今日は晴れていますから、きっと再会して楽しい時間を過ごしているでしょう」


「再会かあ……あ、ありがとうございました」


 ネリーは代金を受け取って紡に笹を渡す。そして、笹を引きずっている紡を見て、【CLOSED】に看板を変えた。


「笹があなたの身長よりだいぶ長いようですね。運ぶのを手伝いましょう。rOMaNの本部までで構いませんか?」


 ネリーは軽々と笹を持ち上げる。見た目よりもずっと力があるようだ。


「ありがとうございます。助かります」


「いえいえ。今後ともぜひフラワーショップネリーをご贔屓に」


**


 こうして無事に笹は本部に届けられ、今、中庭に飾られている。


 そうめんを食べた後で紡は莱人から紙の短冊を渡された。


「これ、どうするんですか?」


「この短冊に願い事を書いて笹に吊るすんだ。そういうイベントなんだよ」


「願い事……かあ……」


 紡はペンを手に考え込む。思えば自分自身の願いについて考えたことがなかった。


「僕の願い事ってなんなんだろう……」


 迷った末に紡は、「rOMaNのみんなの願いが叶いますように」と書いて短冊に吊るす。


 珍しく晴れた頭上には天の川が広がっている。屋上で仲間たちと共に笑いながら、紡の心はどこか晴れなかった。


**


「……眠れないな」


 夜中に目が覚めた紡は、再び屋上に来ていた。


 空は変わらずに快晴で、天の川もはっきりと見える。


「……僕は今まであまり、僕というものについて考えたことがなかったなあ……」


 そもそも目覚めるまでは培養槽の中で眠り続けていて、この名前をくれたのも莱人だった。紡が天乃 紡としてこの世界に生まれてからはまだわずか数ヶ月しか経っていない。


「【可能性】か【災厄】かと言われて、rOMaNの一員として恥じないように必死で頑張ってきたけど、そもそも僕はなんなんだろう。どうして生まれたんだろう。そして……何を目標にしていけばいいんだろう……」


 莱人たちは皆短冊に書く願いや目標、夢があるようだった。緋鶴には食べたいものとか欲しいものとか書けばええんやで!と言われたものの、考えても思い浮かばなかったのだ。


「……人生という海をいくならば、導きの星【ステラ・マリス】は必要、かと」


「……誰?」


 聞き覚えのない声に振り返ると、見覚えのない少年が立っていた。シマエナガのような謎の鳥を連れている。


「僕の名前はステラ。星を読む星導者。アルカナは星座と強く結びついている、かと。あなたが迷っているのなら、きっと僕は助けになれる、かと……」


「ステラ。……今の僕に何かアドバイスはある?」


「……星よ、彼の者を照らし、導け」


 ステラが不思議な天球儀を取り出すと、淡く輝き回転した天球儀が空中に文字を浮かび上がらせた。


「……あなたは、運河と鏡、アクアマリンに護られた地で、再び過去と巡り合う、かと」


「過去……?僕に……?」


 戸惑う紡に、


「忘れていても生きているならば過去は存在する、かと。そして、いずれあなたが向き合った時、あなたの進むべき道も……開ける」


 言葉を残してステラは消える。


 紡の手の中に残るのはモルダバイトのペンダントだけだった。



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