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ヒロインですが放っておいてください。  作者: 樹りょう
第一章 救国のアリス
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筆記試験対策(1)

「これは……なかなか……うん……とても簡潔だね……」

「……そんなにダメでした?」

「ダメっていうか……あぁ本当に平民なんだなぁって思って……」


 昨日ハーヴィと行った過去問の解答を見せるや否や、ヴィアーノさんは笑顔を引きつらせて固まった。

 それでもなんとか言葉を選んでいるといったご様子。

 やんわり言おうがハッキリ言おうがダメなものはダメなんでしょ、知ってる……。


「どうせダメならいっそ一思いに……!」

「じゃあお言葉に甘えて。…………論外だね。これじゃ特待生どころか入学も難しいと思うよ」

「えっ」


 論外――。

 サーッとどころかヒュンッと全身の血が一気に失せる。

 もし入学出来ないなんてことになったら……領主様や……神父様……神父様が……私がやばい……。

 どうしよう、椅子に座ってるのに立ちくらみがしてきた……。


「まぁまぁそんなに落ち込まないで。こんなの教えられなきゃ分からないんだから。アリスちゃんなら書き方のコツさえマスターすれば大丈夫だって。計算問題の方は満点だし大丈夫!」


 必死でフォローするヴィアーノさんには申し訳ないが、ありえる未来に戦々恐々としてるだけで別に落ち込んでるわけじゃないんだけどな……。

 けど、書き方? てことは解答自体は間違いじゃないってこと?


「書き方のコツ……ですか?」

「そ。例えばこの『出身地の特産品とその理由を述べろ』ね。大抵は王国で唯一栽培されてる香木を挙げると思うんだけど、どうしてアリスちゃんは騎士にしたの?」


 私の解答は『特産品は騎士、理由は王国の盾だから』だ。


 エリオットはエスカーダとの最前線であると同時に、豊かな森林と美しい湖の数々で王国民を魅了してやまないリゾート地のひとつ。

 作られたというか『出来ちゃった』湖もあるのがエリオットらしいっちゃらしいんだけど……。

 …………ま、まぁ夏は避暑地として、冬は雪化粧、春と秋は食い気で王国民の目と腹をガッツリ掴んで離さない。

 ただ、自然豊かな地ゆえに、どうしてもお肉こと野生動物や魔物に悩まされる土地でもある。


 魔物っていうのは魔力を持った動物のこと。人間に魔力のあるなしがあるように、動物にも魔力のあるなしがある。

 こいつらは普通の動物よりも大きかったり賢かったりするから駆除するのがちょっと大変なのだ。生態も普通のお肉とはちょっと違ってたりするし。

 ただ味は抜群です。

 大抵は目の色変えた猟師たちが文字通り『お肉』にしてしまうんだけど、それでも季節ごとの間引きを逃れて大物に育ってしまうナイスガッツな個体がたまに出る。


 こういう猟師の手に余る魔物が出てきた場合は我らがエリオット騎士団の登場だ。

 討伐時は危ないから外に出るなと厳命されているが、そこは悪ガキ。言うことなんか聞きやしない。こっそり抜け出して度胸試しがてら離れた場所から騎士様たちの戦いっぷりを観戦する。

 その騎士様たちの戦いっぷりたるや凄まじく、後ろから石を投げてもひょいひょい避ける猟師連中ですら手が出せない魔物をあっという間に倒してしまうのだ。憧れない方がどうかしてる。

 実際、騎士様の中にも子どもの頃に見た姿に憧れて騎士団の門を叩いたという元・悪ガキが結構いた。


 なので香木なんていう私たちにはほぼ一生縁のないものよりも、よほど身近な存在なんだよね。

 それに…………。


「私たち平民には香木よりも騎士様の方が身近な存在だからですね。それに王都に来て分かったんですけど、王都の騎士……様は私でも倒せそうな人たちばっかじゃないですか。大丈夫なんですかね、色々と」


 神父様に連れられて王都散策をしていた時、土産物や甘味の類よりも目に付いたのがこの騎士たちだ。

 もちろん良い意味でじゃない。悪い意味でだ。


 見回りの騎士なので新人かそれに近い立場だとは思うんだけど、それにしたって一目で練度不足だって分かる奴を現場に立たせるのってどうよ。エリオットなら剣すら持たせてもらえてないぞ。

 人材不足なの? んなことないよね。人数自体は結構いたし。

 あの様子じゃ素振りもただ剣振って終わりなんだろうなぁ。もう騎士団全体の質が悪いかレベルが低いとしか思えん。


 たった二ヶ月とはいえ、エリオット騎士団のしかも領主様が直接指揮する精鋭部隊へと放り込まれて揉まれに揉まれたのだ。だからこそ断言できる。王都の騎士は弱い。

 まだちゃんとした訓練を受けてないハーヴィですら実力を一目で見抜き「あいつらその辺のゴロツキにも負けるんじゃねぇの?」と呆れていたくらいだ。神父様なんか不機嫌そうにニコニコしてたし。

 仮にも王都の騎士がアレなら他領の騎士も正直お察し。なら『騎士』はエリオットの立派な特産品だ。こんな形で『王国の盾』を実感したかねぇな。


 ところがエリオットと王都の騎士を比較して憤り気味な私とは裏腹に、ヴィアーノさんは…………頭痛が痛いとばかりに頭を抱えていた。


「最後の絶対騎士たちに言わないでね。決闘騒ぎになるから。しかもアリスちゃんならケロッと勝ちそうだし」

「負けは許されません」

「そこまで洗脳されてる……⁉」


 ふん、決闘上等。その腑抜けた根性叩き直してやるわ。こんな幼女まがいにフルボッコにされりゃ少しは危機感も出るだろ。

 ……っと、いかんいかん。今は筆記試験の方が優先だ。これに落ちたらフルボッコにされるのは私の方だ。


「や、まぁ着眼点自体はいいんだよ。ボクらには到底思いつかない解答だからね。いやホント。……逆に言えば、この筆記試験ってよっぽど的外れな解答してない限り不正解がないんだよ」

「…………? どういうことですか?」

「解答そのものよりも『どうしてそう考えたか』が重要だからさ。筆記試験では思考力と表現力をテストしてるんだ」

「思考力と表現力?」

「うん。知識を活用できるかどうか。それを正しく伝えられるかどうか。出題者はそれを知りたいんだ」


 ということは……どういうことだい? ヴィアーノさん。


「知識や技術と違って思考力や表現力はそうそう身に付くものじゃないから論外を入学前に落とすんだよ。ベストはこの設問の仕方から気づくことだけど……これは試験を受けた経験がないと出て来ない発想だよねぇ。貴族はちっちゃいころから家庭教師がべったりついて嫌ってほど試験を受けるから慣れたもんだけど。手紙の書き方にも試験があるんだよ。嫌になるよね。でも、平民は読み書きが出来ればそれでいいもん。出来なくて当たり前だよ。ボクがアリスちゃんを平民なんだなぁって感じたのはそういうこと。ハーヴィくんがアレンに一発合格もらったのはきっと商人の息子だからじゃないかな。商人は商品を売り込まなきゃいけないでしょ。設問から『需要』を読み取って、彼なりの『商品の提案』をしたんだろうね。ちょっと視点は違うけど、求められる思考力と表現力に似てない?」

「ふ、ふーん?」


 さっきの例題で言うなら、エリオットは『王国の盾』だから騎士が強いっていう知識を活用してそう書いた。けどダメだって言われた。

 なら行商のお兄ちゃんみたいに新商品のご案内で~すとかやればいいの? 違うよね?

 なんだか益々分からなくなってきたぞ……あれ、私大丈夫かな……。


「ふっふふふふ。…………ごめん。そんなに睨まないで。ごめんってば。……まだピンときてないね? アリスちゃんならもう出来るはずだよ。そうだなぁ。例の件についてボクにカマかけたよね。邪推したって言うけど、どうやってあの国までたどり着いたの?」

「えぇっと……一般常識に王都の人の噂と子爵家の評判を加えた感じですかね。あ、子爵家の副業と商材は領主様に教えてもらいました」

「は⁉ たったそれだけ……⁉ やっぱり怖いわこの……子…………あれ? それってヤバくない?」

「何がです?」


 急に真剣な顔になったヴィアーノさんは、普段よりワントーン低い声で私を諭すように言った。


「例の件についてだけどね。邪推の内容やその過程。……アレンと教官以外には絶対しゃべっちゃダメだよ。匂わせるのもナシ。それ本気で命にかかわるから」

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