ショー
玲於奈は帽子を頭にかぶるとステージへと向かった。
ステージから見た店内はいつもより何倍も広く感じた。中央に座る女子生徒の影が精神を圧迫してくる。玲於奈は努めて明るく演目を始めた。
「はじめまして。ご紹介に預かりました、秋山玲於奈です。今回僕がやるのは人体取り外しマジックということで、まずは親指から取っていこうと思います」
最初に見せるのは誰にでもできる手品だ。右手の親指を使って左手の親指が取れたように見せかける。
「はい、指が取れちゃったー。ということでね。もしもお金貰ってやるような本当の舞台でこれが芸だなんて言ったら怒られちゃいますね。ゴミとか投げられます。はい、すぐに引っ付きました。ご存知の通り、こんなものは単なるトリックです。でもですね、ほら」
今度は彼はDCWを通して手に入れた特殊能力、空間の接手を使用して親指を外した。
あくまでも自然な形で、ペットボトルのキャップを外すような気軽さで親指を取る。
「あれれ? 親指はきちんと二本見えていますね。でも、左手にはついてません。なんででしょう?」
この時点で彼は何か妙な空気を感じていた。冷や汗が頬を流れる。しかし今さら止めるわけにはいかない。始めてしまった以上は、やり切るしかないのだ。
「便利でしょう、この能力。小指も簡単に取れちゃいますんでね、これがあったらヤクザを相手にケジメを付ける時とかにも痛い思いをしなくて済みますよ」
親指を付けてから小指を取る。一度に一か所しか取れないというわけではないのだが、こうした制限があった方がタネがあるように見えるのでやっている。
「しかし相手が現代の平和なヤクザなら小指で済みますけどね、戦国時代だったらこうはいきませんよ。首を置いて行けなんて言われてしまいますから。そんな時はどうしたらいいんでしょう。ちょっと僕でも困っちゃいます。首を取るのは大変なので。でも今日は特別に取ってみようと思います。よいしょっ!」
彼は両手で首に手をかけ、頭を取り外した。別に体の部位によって着脱の難易度が変わることはない。大変だと言ったのはやはりその方がもっともらしいからだ。
玲於奈は取った自分の首をそのままバスケットボールのように小脇に抱えて、話し続けた。
「はい。これにてショーを終わろうと思います。ありがとうございました」
パチパチパチと、簡素な拍手が起こった。
玲於奈は苦笑しながら、舞台を後にした。暗闇の中で首を元に戻し、巴と目を合わせる。彼女もまた、苦々しい笑みを浮かべていた。
原因は観客の須藤の反応だ。二人とも大盛り上がりすることはないにしても、それなりには驚かすことができると思っていた。
目の前で実際に刀を飲み込み、首を取っているのだ。道具に頼った偽物とはわけが違う。何度やったって仕掛けがバレることは決してない。
それなのに彼女の反応は無だった。
無表情のまま、背筋を伸ばして微動だにせず、置物のようにそこに座っているだけだった。
驚くのでなくても、タネを見破ろうとするのでもいいから、反応してもらえれば嬉しかった。打てど響かないショーがこれほど怖いものだとは思わなかった。
玲於奈は肩をすくめて言った。
「途中で心折れそうになった」
「分かる。わたしは尺が短くて本当に良かったって思った」
舞台上では小野寺が締めの挨拶をしている。
玲於奈はその姿を見て、彼は何を考えて挨拶をしているのだろうかと思った。小野寺とてあの鋼鉄のような無愛想を理解しているだろう。落胆だろうか。それとも彼もまた無感情で仕事をしているのだろうか。
今日やったことを報告すれば、一応、努力はしたということで許してもらえるだろう。元はと言えば教師が解決すべき問題なのだから、結果を出せなくても評価を著しく下げられることはないはずだ。
巴が客席の須藤を見つめて言った。
「あの人から悩みを聞き出すのは無理でしょう」
玲於奈もそれには同感だった。




