彼女から見る彼の三回目、終了! (一緒の布団で寝るイベントもあるよ!)
罠にかかった荒魂を全匹刺し殺した後、玲於奈が休憩を申し出たてきた。
無理もないことだった。詳しい時間は観ていなかったが、四、五時間はずっとやっていた。これから歩くのは辛いだろう。時間がかかれば叔母さんを心配させてしまうが、それも仕方があるまい。
ただ一つ問題があった。
「休憩は別にいいけど、休んでいる間にも余っている罠にかかって荒魂が集まって来るよ」
「もういいだろ。無視しちゃえば」
「ヨリイト虫はすぐに仲間を呼ぶ習性があるから、放っておくと罠の数以上が集まって来るかも」
この近くで休んでいると襲われる可能性があった。
だから少し遠くに移動してから休もうと提案したつもりだったのだが、玲於奈は予想外の解を導き出してきた。
「じゃあ、胃袋の中で休んだらいいんじゃないか? その辺の荒魂にはどうせ破れないし」
そう言ってすぐ近くに口を作り出した。
巴はなるほどと感心させられた。
彼女が前回、美玖と歩いた時は交代で見張りをしながら休んでいたのだが、彼のスキルならその必要もないのだ。便利なものである。
中に入ると、意外と広かった。
「へえ、中はこんな風になっているんだ」
しかし巴が中を見渡している間に、玲於奈が彼女の布団に横になり始めた。
「ああ! それわたしのなんだけど!」
「勘弁してよ。今だけだから貸してください」
「ええ~!?」
彼女は抗議しようと思ったが、結局諦めた。
せっかく持ってきた布団ではあるが、布団ぐらいもう一個持ってくればいいのである。ケチケチすることはない。
「しょうがない、もう一個持ってくるか」
この時、巴は自分が平常心を保てていると感じていた。ナエドコも、前は美玖と歩いた時のことも、それほど強く意識していなかった。
しかしやはり思い出してしまったのだろう。
新たに持ってきた布団で仮眠をとっていると、悪夢に襲われた。
夢の中で巴が家でお茶を飲んでいると、「そんなことでいいのか」と美玖が詰め寄ってくるのだ。巴は必死に謝るのだが、美玖の怒りはどんどん激しさを増すばかりで、留まることを知らない。怖くなって外に飛び出したら今度は玲於奈がナエドコに襲われていた。助けなきゃと思ったはずなのに、恐怖に手が震えていつものように力が出ない。そして彼女が黙って見ている間に玲於奈も食べられた。嫌な「シハハハハ」という笑い声と美玖の声が耳元でこだました。
耐えきれなくなって目を覚ますと、そこは静かで暗い、寝る前と同じ胃の中だった。離れた場所で玲於奈が寝ている。
普段だったら絶対にこんなことはしないのだが、悪夢で心が不安に染められていたせいだろう。
彼女は玲於奈の布団に入り込み、そっと背中を掴んだ。
こうしていないと、知らない間に玲於奈が殺されてしまう気がした。
彼は大丈夫だ。死ぬはずがない。今では自分と同じレベル8のスキルを持っており、この回でレベル10を目指している。
(でも、スキルだけで戦いに勝てるほど甘くはないから……)
レベル10にもなればもしかしたら勝てるのかもしれないが、少なくとも彼女のこれまでの経験によれば、荒神に勝つには運や精神力も必要だった。玲於奈の全力をまだ見ていない巴には、彼がそれらを備えているのか分からない。スキルだけで偶然勝ってきたのではないかというような気がする。
心配だった。
結局そのまま、また浅い眠りに入り、悪夢を見た。ただし、今度の夢は起きた時にほとんど忘れてしまったが、少しだけ玲於奈が頑張っていたような気がした。
彼女は玲於奈が起きる前に布団を抜け出し、外の空気を吸いに出た。
次に起きると、玲於奈が焦り始めていた。遅くなると親がうるさくなることが理由らしい。
彼もDCWで怪我をするたびに心配させているのかと思うと、なんだか意外に思えた。毎回ケロリとした表情で現れるから、そういう問題は無いのかと勝手に思っていた。
それなのにある所で、急に玲於奈の方から寄り道を提案してきた。
「あ、ちょっと寄り道をしてもいいか?」
「いいけど、何かあったの?」
「いいものがあったんだよ」
そう言って一人で歩きだしてしまう。
何があるんだと思ってついて行くと、ゴゴ草があった。懐かしい。
「ほら、これ。ゴゴ草。綺麗だろ」
「ああ、これか」
綺麗だろと言われても。
「見たことあるし」
「あ、そうですか」
ゴゴ草を初めて見たのは一回目のDCWに参加した時だった。
あの時はまだ信二さんと美玖が居て、今よりもっと気安い環境だった。思えばあれから随分と遠くに来たものだ。高いレベルのスキルを得て、荒神を何匹も倒すようになった。そして一人になった。
しかしこの光を見ていると、あの頃に戻った気がする。
「でも、そうか。こんなに綺麗だったんだね」
しばし彼女は感傷に浸った。
その後メインミッションをクリアしてからもしばらく罠を張る作業を続け、水と食料が尽きたところで解散となった。
玲於奈はまだ続けたい素振りを見せたが、最終的に首を縦に振った。
今回のDCWは楽にポイントを稼げるだけでなく、玲於奈という青年についてもよく分かるゲームになった。
玲於奈は真面目な性格で、純真で、唯一叶う願いに恋人を願うなど少し気が抜けている坊ちゃん気質な気もするが、終始こちらを気遣ってくれる優しい奴だった。
DCWから家に戻った時はひどく疲れていたが、それも一晩寝たらばっちり元気になり、巴は翌日には店で働いていた。
叔母さんは二、三日留守にしていたことについて何も言わなかった。父親が死んだ思春期にはいろいろあるのだろうと放任してくれている。
しかしその日、客席から空いた皿を下げて持ってくると、叔母さんが巴の顔を見つめて言った。
「あんた、元気になったね」
「それ前も言わなかった?」
「そうだっけ?」
叔母さんは首を傾げた。
店内にお客さんの姿は無かった。平日の昼過ぎに、個人経営のカフェなどそれほど客が来るわけでもない。話していても問題ないだろう。
「確かに言ってたよ。わたし覚えてるもん」
「じゃあその時よりもっと明るくなったってこと。一人旅してた間に何かいいことあった?」
叔母さんは巴がいなかった間、一人旅していたと思っている。危ないゲームに参加して化け物と戦っていましたと言うよりも心配させなさそうなので巴も訂正していない。
「う~ん、別にないかな」
「本当? イイ男でも見つけたんじゃない?」
巴は思わず吹き出してしまった。
男には会っていたが、あれをイイ男と呼べるだろうか。玲於奈ではないが、彼女の理想としてはもう少し筋肉と頼りがいが欲しいところだ。
巴の反応を見て叔母さんはさらに詰め寄ってくる。
「なになに? まさか本当にいたの? どんなの? バンドマン?」
「違うよ。いないってば、そんなの」
急激に高まった圧を抑えるように否定するが、叔母さんは止まらなかった。
「いたんじゃないの? お互い一目で恋に落ちて、そのバンドマンにあんたを基にした曲とか作ってもらったんじゃないの? それで海沿いを散歩しながらその曲を歌ってもらったりしたんじゃないの?」
「何そのストーリー。本当にいないから。海も行ってないし」
「え~、なんで~。じゃあ今から行ってきてよ」
「嫌だよ、面倒くさい。バンドマンの恋人も欲しくないし」
「お願い。今まで隠していたけど実はおばさん、十代の恋愛成分を吸って生きているの」
知らんがなと言いたくなった。
しかし叔母さんが恋愛話が好きなのは事実だ。家には少女漫画や恋愛小説がところ狭しと置かれており、彼女はそれを巴より読み込んでいる。
最後に叔母さんは「なんにせよ、元気になってよかった」と言って巴の頭を撫でた。
照れ臭さを誤魔化すように彼女は「髪がくしゃくしゃになる」と言ってその手を押さえた。
叔母さんの家に戻り、巴は久しぶりに平穏と幸せを享受していた。父が他界して以来、初めてだったかもしれない。
しかしDCWをやって居る限り、脅威からは逃れられない。平和でいられるなどと、決して思ってはいけない。参加者たちに与えられるのは、クリアするまで終わることのない地獄だ。
叔母さんみたいなキャラ、いいと思います。
評価・コメント等お待ちしておりますm(__)m




