予期せぬ再会
「そういえば玲於奈はどんな願いを叶えるためにここに来たの? 別に言いたくなければ言わなくていいけど」
不意に思いついた巴は玲於奈に質問してみた。言いたくないと断れるかと思ったが、案外あっさりと玲於奈は教えてくれた。
「ああ、まだ言ってなかったか。俺は『頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても平等に思いやりを持って接するが、まだキスもしたことが無いほど初心で年下の彼女』を探すためにここに来たんだ。なぜなら『頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても平等に思いやりを持って接するが、まだキスもしたことが無いほど初心で年下の彼女』と結ばれることが俺の人生の最終目標だからな」
「……」
予想外の回答に巴は呆れてしまった。いや、異性からモテないというのは個人の人生にとって非常に大きな問題かもしれないが、その内容があまりにもあれだ。
「……なんか、キモオタの夢って感じ」
恋人が欲しいじゃ駄目だったのだろうか。
すると玲於奈はさらに巴の予想を超えた発言を繰り出した。
「キモオタ言うな。それに、俺はすでに一度会ったんだぞ!」
「は? 噓でしょ。いつ?」
そんなわけがない。願いが叶うのは二十回をクリアした後。そう決まっているのだ。
「俺が荒神を倒した直後だったな。俺を抱きかかえ、優しく介抱してくれた。顔は良く見えなかったが間違いない。魂が共鳴していた」
笑顔で語る玲於奈を前に、巴はしばらく何も言えなかった。まさかそんな勘違いをしているとは思わなかった。今からでもそれは自分だと教えてやろうかと思ったが、そうすることに大きな意味はない。夢は好きに見させてやればいい。
「……まあ、いいや。お前の気持ち悪い夢に巻き込まれたくないし」
「なんで俺が巻き込むんだよ。言っておくけど、あの娘は世界で一番かわいいからな!」
「へー、そいつぁすげー」
そりゃ妄想が一番だろうよとは言わないでおいてやった。
4-1に着くと、玲於奈は罠を設置すると言って地味な作業に従事し始めたので、巴は手持ち無沙汰になってしまった。そこでこれからの行軍に備えて良い寝具を確保しようと周囲の家々を回り始めた。一軒一軒を見て回り、最良の布団を探す。
しかしやっと厚さがあり、弾力に富んだ良い布団を見つけて玲於奈のところに戻った時、信じられないものを目にした。
トカゲが喋っている。あの卑しい風貌には見覚えがある。あいつだ。
それが分体であり、倒しても本体にダメージはないことは分かっていたが、感情のコントロールが利かなかった。
怒りに任せて刀を投擲する。
刀は真っ直ぐにトカゲに向かって飛んで行った。直前で玲於奈がしゃがみ、トカゲに直撃する。残切を使っていたのでどのみち通り抜けただろうが。
死体を確認しに近寄ると、玲於奈が非難めいた目で見てきた。
「トカゲ、嫌いなんだ」
それ以上説明する気にはなれなかった。
「トカゲが嫌いだからって、刃物を投げないでくれよ。俺が避けられなかったらどうするつもりだったんだ」
確かに刃物を投げられたら誰だって怒りたくはなるだろう。しかし彼女は一刻も早くあいつを殺したかったのだ。
「玲於奈を通り抜けるまでは残切を使ってたって。危なくないよ」
「それは本当だろうな?」
「なに、わたしの腕を疑ってるの?」
玲於奈に危険が無かったことは自信を持って言える。あのままでも彼女の刀は間違いなく玲於奈をすり抜けただろう。
すると玲於奈に真剣な表情で尋ねられた。
「さっきのトカゲから色々と聞いたんだが、神の力が弱くなっているというのは本当なのか?」
「……どこまで聞いたの?」
その話は久しぶりに聞いた。しかしあれはうわさ話だったはずだ。まさか真実なのだろうか。
「そう言うってことは、あの話は本当なんだな?」
そんなの巴にも分からない。しかし、荒魂サイドのナエドコが言うということは真実なのかもしれない。逆に相手がそこで嘘を言う理由が分からない。
考えている最中に「どうなんだ」と詰め寄られ、彼女は思わず苛立った。
「どうせ玲於奈には関係のない話だよ。それに敵の話を真に受けて動揺させられるなんて危機感低すぎ。荒魂も知能が高くなってくると平気で嘘を吐いて油断させてくる奴とか居るから、気を付けないと」
頭にあったのはナエドコとの一戦だった。思い出したように美玖の声が聞こえ始め、頭の中がわあわあと騒がしくなる。
「なんだよ、それ。関係ないってどういうことだよ!」
「うるさいっ!!」
彼女は全ての声をかき消すように叫んだ。
巴は玲於奈から少し離れたところで膝を抱えて座っていた。
玲於奈と気まずくなったので距離を取ったのだ。イヤホンをして一人になりたかったというのもあった。
しかし怒鳴ったのは悪かった。謝らなければいけないだろう。
彼女は玲於奈の方をちらりと盗み見た。彼は熱心に罠を作っている。
どう声をかけたものかと彼女がため息をついた時、
「どうしたんだ、その毛布?」
玲於奈の方から話しかけてきた。
彼女はイヤホンを外して答えた。
「寝る時に使おうと思って」
「向こうにある奴で良くないか?」
「寝心地が良いのをわざわざ探してきたの」
「荷物になるだろ」
「だから玲於奈の胃袋に入れてもらおうと思って」
我ながら都合がいいことを言っていると思ったが、玲於奈は「まあ、いいけど」と言って開口を使って胃袋への道を開けてくれた。巴は彼に近づいたついでに小さな声で「ごめん、さっきは怒鳴っちゃって」と謝った。
「ちゃんと謝れるんだ」
「馬鹿にしてる?」
「ごめん」
巴は思わず笑みを漏らした。
こういうところが彼の優しさなのだろう。自分はそれに甘えているのだ。
そのことを自覚しながら、彼女はついでに訊いてみた。
「さっきの力が弱まっている話だけど、あのトカゲは正確には何て言っていたの?」
「ええっと確か、神が願いを叶えるにもスキルを与えるにも使う力の残りが少なくなっていて、俺より後には一人も参加者が居ないとか」
「そっか」
玲於奈の後に参加者が一人も居ないということは、いよいよ神様の力と寿命の話が真実味を帯びてきた。
もし世界中に荒魂や荒神が溢れかえったら、どうしたらいいのだろう。
(でもまだそうと決まった訳じゃない。全部がでたらめだって可能性もある)
不確定の情報をばらまいて玲於奈を混乱させる必要もないだろう。
また悩み事が増えて唸っている彼女に玲於奈が尋ねた。
「一つだけ答えてくれ。さっきのトカゲに、今のDCW参加者は少なくなった神の力を巡って争いが起きているから、俺も背後には気を付けるように言われたんだが、それは本当か?」
「何それ。わたしが玲於奈を殺すわけないじゃん」
少なくなったパイの取り合いの話をしているのだろうか。それにしても自分が誰かを殺すなどありえない。そんなことができるほど、心が強くない。
「殺すなら背後からじゃなくて正面からやってるよ」
「怖いから止めて」
100%妄想かどうかは議論が分かれるところじゃないですかね?
評価・コメント等お待ちしておりますm(__)m




