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強くなろうと決めたから


 DCWから脱出した巴は、気を失っているところを家に遊びに来た叔母さんに発見された。彼女はもともと近所に店を構えており、小さい頃から巴の面倒も見てくれていた。この日も、巴を家まで迎えに来ていたらしい。


 そのまま病院に運ばれ、ようやく目を覚ましたのは三日三晩彼岸を彷徨った後だった。


 入院している間、いろいろと尋ねられたが、巴は何一つ答えることができなかった。ただずっと美玖が自分の名前を耳元で叫んでいる気がして、それに怯えていた。

 きっと美玖は仇を取り損ねた不甲斐ない自分を責めているんだと思った。

 昔誕生日に買ってもらったミュージックプレイヤーで耳を塞ぐことを覚えたのはこの時だ。アップテンポの曲を聴いていると、脳の思考リソースをそちらに割くことができ、辛いことも思い出さずに済んだ。


 唯一彼女が大音量で音楽を聴かなくていいのは、父親の見舞いに行っている時間だけだった。大好きな父と一緒に居る間は心が安らぐからだ。父親に「なんでお前まで入院しているんだ」と笑われ、「お父さんともっと一緒にいたくて」と笑い返し、楽しい時間を過ごした。



 信二さんに続いて美玖までもが帰らぬ人となり、巴にはもう父親しか残されていなかった。しかし運命は残酷だ。その父親さえも、あっさりと彼女の手から奪っていってしまった。

 父親の病気を治すという彼女の願いは、間に合わなかったのだ。


 父親が死ぬと目まぐるしく自体が動き出した。大人たちがたくさん集まって話し合いをするようになり、気が付くと彼女は叔母さんに引き取られることとなっていた。

 その決定に対し、巴に異存は無かった。叔母さんは独身でもともと気が知れており、誰かの知らない家族に入って暮らすよりずっとよかった。


 そんなことより、彼女には父が死んでも誰も大して悲しんでいないように見えることの方が重大だった。

 彼女は叔母さんの家に移ってからも毎日暗い部屋に引きこもり、こんな世の中はめちゃくちゃになってしまえばいいと考えていた。信二さんから聞いた話の中にそれに似たうわさ話があった。


 曰く、DCWの主催者は荒魂を封印している神様であり、その神様は寿命が尽きかけているらしい。神様が死ぬと荒魂たちの封印が解け、世界は混沌に包まれるそうだ。その時に備えて人間たちに自衛する力を渡そうとして、神様はDCWを作り出したと言うのだ。

 これはかつて熱心なオカルトマニアが報酬にDCWの真相を求めることで得た情報らしい。

 そして、近年参加者が減っていることから、いよいよ神様のご臨終の時が近づいているという話だった。

 ただずいぶん前のことなのでいずれも真偽のほどは不明であり、結局はありがちなうわさ話の一つとして数えられていた。



 巴は四回目のDCWもがむしゃらにこなした。もう願いのない彼女が参加した理由の一つは死に場所を求めて、そしてもう一つは、自分にはもうこれしかないと感じていたからだった。

 ある意味でストレス発散の一つだったのだろう。DCWは、何もかも忘れて獣のように、全力で残虐性をぶつけられる最適な舞台だった。


 荒神の倒し方はすでに理解していた。重ねることだ。同じ場所に何度も残切を重ねれば、それだけで威力が二倍、三倍になる。荒神を倒すには最低でも十回の斬撃を重ねる必要があったが、スキルのレベルが上がったことでそれも可能になった。

 ぼろぼろになりながらも荒神に勝った後、彼女は道端に座り込み、ある決心をした。それは強くなることだ。この先何があっても、自分だけは平気でいられるように、人に頼らずに強くなろうと決めた。



 短期間にまた怪我を負ったことで叔母にはずいぶん心配されたが、今度の怪我はそれほどひどいものではなく、軽い手当てを受けて点滴を打ったらすぐに出られた。

 叔母さんに言われたことがある。


「あんた、元気になったね」

「そうかな?」


 元気になったという言葉が適切かどうかは不明だが、確かに部屋に閉じこもっていたころより活動的になった。

 毎朝十キロのランニングをするようになり、学校にもぼちぼち行くようになった。これは叔母さんを心配させないためだ。叔母さんの家はぎりぎり前の学校とは別の学区にあったため巴は隣の中学に転校しており、友達は居なかったが、今さらそんなことは特に構わなかった。前の学校の友人たちからはメールが来ていたが、落ち込んでいる間無視し続けていたら来なくなった。


 昼間の店の手伝をするようになったのもこの頃だ。前から叔母に熱心に頼まれており、お金も欲しかったのでやっていた。

 巴は照れたように髪を触りながら叔母さんに言った。


「強くなろうって決めたから」


 まだ美玖の声は聞こえる。復讐を遂げるまでこの声は響き続けるのだろう。巴も復讐を諦めたつもりはない。だがそれとは別に周囲に迷惑をかけず、一人で生きていける力も身につけたかった。



評価・コメント等お待ちしておりますm(__)m

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