巴の過去 DCW一回目と二回目
美玖は巴の同期だった。
「あなたもドリームキャッチワンダーランドに願いを叶えに来たの?」
急に見知らぬ世界に飛ばされて混乱するばかりだった巴に、彼女の方から声をかけてくれた。
後から知ったことだが、美玖もこの時初めてだったらしい。二人は全く同じタイミングでDCWに飛び込んでいたのだ。
美玖は茶色がかかったロングヘアーで、なぜだか巴はその髪を見るたびに小鹿を連想した。いつも甘い匂いを漂わせていて、可愛らしい童顔だった(本人は大人っぽいと言われたがっていたが)ので、その辺りからもファンシーな雰囲気を感じ取っていたのかもしれない。
アプリは参加者待ちという画面を表示しており、何が起きているのか分からなかった。しかしじっとしていても始まらないという美玖の提案によって、二人で周囲を散策した。
思えば巴はこの時からずっと、いつだって彼女に引っ張られるように行動していた。
周囲を散策しているうちに、信二さんという三人目の参加者がやって来た。
二人で彼からに多くのことを教わった。信二さんはそういった知識を前に居た別の人から教えてもらったらしい。
アプリの説明、判明しているスキルの効果、DCWにおける各種ルール、覚えることは沢山あったが、信二さんは一つひとつを丁寧に教えてくれた。
その教えの中には初心者を保護するべきという考えも含まれており、最初のうちは自分が一人で荒神を倒すと彼は言った。
「危なくないんですか?」と巴が心配して尋ねると、「前の人から繋がれてきたバトンを次の人に渡すことで、みんなが安全に願いを叶えられるようにするべきなんだよ。それがここの受け継がれて来た伝統でもあるしね」と彼は笑って答えた。
この言葉からも分かるように、信二さんはとても優しい人だった。
ルーレットで巴がシークレットを引いた時は大げさなくらいにお祝いし、美玖が5ポイントを引いた時は自分も5ポイントだったと励ましてくれた。
二人が危なくないように十分に配慮し、サブミッションもクリアさせてくれた。
しかしその回で信二さんは死んでしまった。
二人にはレベル8から荒神に挑むべきだと教えたくせに、彼はレベル7のスキルしかまだ持っていなかった。
レベル7とレベル8の大きな違いは、消費する体力もそうだが威力も違う。レベル7では硬い外皮を貫けなかったりして、荒神を殺しきることができない。
その時の荒神は傷つけた端から傷が治っていく能力を持った奴で、信二さんはレベル6までのスキルで奮戦したがじりじりと追い込まれていった。そして起死回生の一手を打つためにレベル7を使用し、相打ちのような形で倒れた。
二人が駆け寄った時、荒神は信二さんの一撃で弱点の黒球を露出させていたが、その傷も治ろうとしていた。
巴は咄嗟に駆け寄り、荒神にとどめを刺した。
だから最初のゲームで彼女は18ポイントを獲得している。
その後二人で信二さんのスマホを探り、急いで彼をDCWから脱出させたが、次の回に彼はやって来なかった。
二回目のDCWが始まり、美玖と巴がそろった時点で待機中の画面が解除されてメインミッションが開示された時、巴は思わず泣いてしまった。
あんなに優しい人が死んでしまった。自分もいつか死ぬのだろうか。恐怖と悲しみで心がぐちゃぐちゃになっていった。
そんな巴を奮い立たせたのは美玖だった。
彼女は地面に座り込む巴をひっぱたき、しっかりするように言い聞かせた。
「信二さんが居なくなった以上、シークレットを引いていて、18ポイントも持っている春原さんが今一番戦力になるの! 貴女がしっかりしなかったら私だってどうしたらいいの?」
巧妙な手だった。美玖は巴を頼りにすることで、自分が矢面に立っていることを自覚させたのだ。美玖だって巴以上に矢面に立っていたくせに。
信二さんの教えに基づけば、シークレットを引いた巴が5ポイントしか引けなかった美玖を護る立場にあった。しかし美玖は戦闘において、必ず前に出た。巴はそんな美玖に遅れまいと引きずられるように前に出ていっていたが、一人だったら絶対にそんな戦い方はしなかっただろう。
どれほど彼女の存在に救われていたか。美玖が居なければ、巴は早くも二回目で脱落していたに違いない。
幸運にも、その回は道を歩くだけの回だったので、二人はたっぷりと時間をかけて取るべきスキルを検討し、出会った荒魂を相手に戦闘の訓練することができた。
準備不足だったせいで飲まず食わずで百キロ近く歩かされることになり、それはそれで大変だったが、この経験が今の巴の力に繋がっている。
一度ヨリイト虫の大群に囲まれた時は本当に危なかった。この時、巴は16ポイントを消費して刀Lv3と生命Lv3を獲得しており、短い刀で振り払うだけでは押し寄せる大群に押しつぶされそうだった。美玖が取った風スキルもまだレベル2でしかなく、しかも巴と同じく狭い射程距離しかなかった。
結局二人は長距離を走って逃げ、メインミッションを完了したところで脱出して事なきを得た。
体力的にも精神的も厳しい二回目だったが、思いがけず多くの訓練を経たことで二人とも大量のDCWの経験値を得ることができた。それは戦闘というものに対する気構えから始まり、周囲を警戒する術やしっかりととどめを刺すことなど多岐にわたっていた。
早くも初心者の枠を抜け出し、中級者へ足を踏み入れ始めていたと言えるだろう。
しかし多くの参加者と同じように、二人に圧倒的に足りないものがあった。スキルのレベルだ。その高く分厚い壁が二人に迫ってきていた。
ちなみに美玖は巴と同じ15歳です。
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