軋轢を生む彼女
「これで上級荒魂は始末したし、あとは荒神だけだろ」
改めて今回の各ミッションを確認すると、今回もメインは荒神の討伐のようだった。
メインミッション
『荒神 ナエドコを退治しろ』
サブミッション
無し 全員に2ポイントが配布されます。
「なあ、サブミッションが無しってどういうことだと思う?」
「さあ、メインに集中しろってことじゃない?」
巴は再びふさぎ込んでしまったようで、こちらを見もせずに答えた。未だに刀もしまっていない。その姿は情緒不安定な殺人鬼にも見えた。今にも爆発しそうな危うさを秘めている。
(いったいどうしたんだ)
その態度に玲於奈は困惑し、頭を掻いた。
トカゲが嫌いなのは理解できるが、だからと言って彼女の場合は反応が過剰だ。ストレスが溜まっているのを感じる。
「とりあえず落ち着いて、お茶でも飲まないか」
玲於奈が巴にそう声をかけた時だった。
「お~い!」
遠くから若い男の声が聞こえてきた。
「え、人!?」
玲於奈が驚いてそちらを見ると、二人組の男性が走って来ていた。一人は長い髪を赤く染めているバンドマンのような風貌で、もう一人は坊主頭で強面の男だ。バンドマンは洒落たコートを着たやせ型で、坊主頭はタンクトップ姿をしていて非常にガタイが良い。
「よかった無事だったんだな」
二人組の内の一人、赤髪の男がにこやかに話しかけてくる。
気が立っているらしい巴はイヤホンをつけて目を逸らしているので、玲於奈が代わりに前に出て尋ねた。
「えっと、どちら様? 俺たち以外に人間が居るなんて聞いてないけど」
「じゃあ、こういうの初めてかな? DCWは時々複数チーム合同のミッションをさせるんだ。俺は赤城。よろしく」
手を差し出され、思わず握り返す。後ろから舌打ちが聞こえた。
関わらないのは構わないが、初対面の人間にまで当たるのは止めて欲しいと思った。
「こっちは黒澤。無口だけど良い奴だから」
巴の舌打ちが聞こえたのか聞こえていないのか、赤城は変わらぬ調子で後ろの男を紹介した。順番で玲於奈も自己紹介を始める。
「俺は秋山玲於奈で、こっちは春原巴です。こっちはちょっと今虫の居所が悪いみたいだけど、普段は普通なんで、今だけ勘弁してやってください」
玲於奈が後ろを振り返ると、巴がきつく睨み返してきた。刀を握る手に力が入っている。
(何が気に入らないんだよ)
今機嫌が悪いのは明らかな事実であり、彼はその点についてフォローを入れたつもりなのだが、なぜ睨まれなければいけないのか。
玲於奈は巴がどこかで苛立ちを爆発させてとんでもないことをしでかすのではないかと不安になった。
その予感は間違っていなかった。ただしそれは、予想外の形で現れる。
赤城は巴の不愛想な態度を気にした様子もなく、快活に笑った。
「虫の居所が悪いんだ。さっきからものすごい睨まれているから何かと思ったよ」
「はは、すいませんね」
玲於奈は愛想笑いを浮かべて平謝りする。
互いの自己紹介が済んだ所で、赤城が二人を促して言った。
「じゃあ、そろそろ行こうか。実はまだレベルの低い仲間が一人、あっちで隠れているんだ」
「そうなんですか。それだったら急いだ方が良いですね」
玲於奈が二人と歩き出そうとした直後のことだった。
突如肩を掴まれ、後ろに引き倒された。巴がやったことだった。彼女は玲於奈を後ろに引いて自分が前に出たのだ。
「何するんだよ!」
彼が声を張り上げると、胸の上を水平に刀が振られた。それだけで彼は勢いを失ってしまう。
感覚的に理解する。いつかのように残切を使った誤魔化しではない。今、一歩間違えれば身体を斬られていた。
「どういうつもりだよ……」
ただ問うつもりが、思わず声に怒気がにじんだ。
しかしそんなものはどこ吹く風。巴は玲於奈に切っ先を突き付けて言った。
「お前はここに残れ」
「お前って言うんじゃねえよ。だいたいなんでそんなこと言われなきゃいけねえんだよ」
なぜ急にそんなことを言われなければいけないのか理解できなかった。先ほどまでそれなりに仲良くしていたと思っていたのに、裏切られた気持ちだった。
「DCWはレベルの高いスキルがあればいいってわけでもない。それを使う技術が本人に必要なんだよ。今までは他に人が居なかったから一緒にいたけど、もうその必要も無いし」
「なんだよ、それ。俺が弱いって言うつもりかよ。それで新しい仲間ができたらお払い箱かよ」
「そうだよ。なんだったらわたしと今ここでやろうか? お前がどれだけ軟弱な奴か教えてやるよ」
「上等だッ……!」
玲於奈が立ち上がり、巴に糸を伸ばそうとしたところで間に人が入った。
「まあまあまあ、落ち着いて。急にどうしたの、二人とも。仲良くしてくれって。みんなで一緒に行動しようじゃないか」
赤城が二人を仲裁する。
しかし荒ぶる巴の刃は赤城にまで及んだ。
彼女は赤城にさえも切りかかり、危うく肩を切り落とすところだった。
「文句があるんだったら、お前もここで殺すぞ」
「……」
巴の傍若無人さに誰もが動けなくなった。
玲於奈も間が入った以上は今すぐに殴りかかるようなことをするつもりはないが、この暴挙に腹を立てており、フォローするつもりは無かった。
その沈黙を破ったのはまたしても赤城だった。彼はため息をついてから、ゆっくりと落ち着かせるように巴に話しかけた。
「分かった。じゃあ、秋山君は置いて行く。ただ一人で放り出すわけにもいかないから、俺も一緒に残る。君は黒澤と一緒に僕たちのチームメイトのところへ行ってくれ。二チームに別れて行動するんだ。それでいいかな?」
「……好きにしたら」
巴はようやく刀を収めると、黒澤と一緒に歩き出した。
玲於奈は、その後ろ姿を眺めるだけだった。
傍若無人系ヒロイン、良いと思います。
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