新スキルお披露目
部屋に戻ると外は昼だった。先ほどまでも早朝の空間に居たので奇妙な違和感に襲われたが、もしかしたらそれも疲れが出ただけかもしれない。日付を確認すると、出発してから三日間ほど向こうに居たと分かった。
(なんて言われるかな……)
両親への対応を考えて憂鬱な気持ちになりつつ、玲於奈はベッドに横になる。
向こうでも寝ていたはずなのだが、自室で横になると急に眠気が襲ってきて、彼は瞼を下ろした。
「ああ、秋山氏。生きて帰って来れたんだ。死んじゃったのかと心配してたんだよ」
学校に行ったのはDCWから戻った次の日のことだった。
ベッドで寝ていたところを起きてきた母に見つかり、何をしているんだとひどく問い詰められたため、弁明として「自立したくて家出したが無理だったので戻って来た」と事前に考えていた嘘を言った。ひどく呆れられたが、やはりこの頃おかしいということで、その日は念のため病院に連れて行かれていたのだ。
当然、検査の結果は異状なしとなり、翌日は学校に行かされていた。あと数日自宅で様子を見てもらっても構わなかったのだが、両親の教育方針でサボりは許されないらしい。
「実は今回は楽なゲームだったんだけどな」
玲於奈が苦笑いで言うと、小野寺は「そうなの?」と不思議そうな顔をした。
昼休みに詳しく教えると言って自分の席へ向かう。
教室の中を歩くとクラスメイトの視線が刺さった。しかし普段から交流が無いため話しかけて来る人間は居ない。こういう時、ぼっちで良かったと感じる。何をしていても、とやかく言われないのは結構なことだ。
(あいつもそのために友達を作らないのかもな……)
そうふと思った。
DCWは無関係な人間から見て異常な行動を取らされるため、社会から切り離されがちになる。つくづくと大変なゲームだ。
昼休みになると、昼食を食べながら玲於奈はあったとことをざっと説明した。
「そういうわけで、今回はかなりスキルのレベルが上がった、レベル上げ回だったんだ」
「へえ。今スキルとかって使えるの?」
「ああ、できるぞ。まだ全部試したわけじゃないけど」
新スキルもあり、いろいろと試したいのだが、諸事情により一部使用ができない状況だった。
「まだなの? じゃあ今ここでいろいろ試してみようよ」
「い、今ここで!? それはちょっとな……」
彼は小野寺の提案に難色を示した。
スキルを使うことはできる。効果も判明している。アプリはロード中のため開くことができなくなっているが、そうなる前にDCW内でスクショを取っておいた。巴のアドバイスによるものである。
小野寺が期待に満ちた眼差しで玲於奈を見た。
「もしかして校舎を破壊するような大技だったりするの?」
「いや、残念ながらそういうのはなさそうだな」
これは玲於奈にとっても非常に残念な話なのだが、運が悪いのかまたしても攻撃に特化していないスキルばかりなのである。彼がポイントでスキルを取っていたらとっくにキレていた。
結局、玲於奈は少しだけだと前置きし、スキルを見せることにした。
「糸スキルの説明はこんな感じだな」
スマホのアルバムを開き、小野寺にも見せる。
【糸Lv10】
・粘着糸:指先から粘性の糸を出すことができる
・鋼糸:鋼のように硬い糸を出すことができる
・操糸:出した糸を自在に動かすことができる
・無限糸:触れたものを全て糸に変えることができる
正直に言って、レベル4で獲得した技でも荒神を倒せる巴の刀スキルと比べて、性能が悪すぎる。玲於奈が独自に所有しているナイフが無ければ明らかに外れスキルだ。見れば見るほどがっかりさせられる。
「上の二つは確か前にも見せたよな。まず新しい無限糸はこんな感じで、物を糸に変えることができるんだ」
彼は説明しながら手品のように、食べ終わったパンの包装を手で包み、開いてみせた。すると包装は一瞬で糸の束に変わる。
「それで、操糸を使うとそれを自在に動かすことができる」
玲於奈の手の上で、彼が動かしているわけでもないのに糸が意志を持ったように動き始めた。うねうねと重力に逆らって立ち上がり始める。
「これだけだよ。せっかく頑張ったのにつまらない技だろ」
玲於奈は若干ふてくされていたが、小野寺は瞳を少年のように輝かせてそれを否定した。
「そんなことないよ! だってこれ、触れば何でも意のままに操れるわけでしょう? 何でもできるじゃん!」
「例えば?」
「例えば、どんなに分厚い壁でも糸に変えて掘り進めていけば楽々で開通できるんでしょう? トンネル掘りとかもそうだけど、どんな頑丈な金庫だって開けられるよ!」
「犯罪じゃねーか」
嬉々として犯罪に転用できることを語られるとは想像していなかった。
「別にそれだけじゃなくて、他にもいろいろあるって」
「まあ、そうかもしれないけど」
頭を使わなくて済む、シンプルにかっこいいのが良かったとやはり玲於奈は思った。
小野寺は俄然興味を抱いたように訊いてくる。
「それに他のスキルと合わせればもっと効果を発揮するかもよ。大口とかが典型的じゃない。他のスキルにはどんなものがあるの?」
「次の探知はマジで地味だぞ。これは名前からして攻撃に使えるようなものじゃないし」
スキル元の目玉が宙を飛ぶせいで罠にかからず、あまりレベルが上がらなかったスキルでもある。
【探知Lv6】
・望遠:意識を集中することで遠くを見ることができる
・覗魔:目を飛ばすことができる
玲於奈は二つ目の覗魔を実演してみせた。
彼が念じると空中に黒い砂が集まり、一匹の目玉が生まれる。荒魂と同じ姿形をしているが、サイズが少し小さい。荒魂がバスケットボールサイズだったのに対して、スキルで生まれたものはテニスボールサイズだ。
「これは俺の新しい目になって見た情報を届けてくれる。使うと新しい視界が急に一つ増えた感じがしてものすごい違和感があるし、慣れないうちは一つ以上は使えないな」
小野寺は物珍しそうに眼玉を見つめた。
「秋山氏、どんどん人間離れしていくよね。第三の目じゃん。これは触っても痛くないの?」
「ああ。視界だけで痛覚はないから、眼球むき出しで乾燥していてもまばたきしたくなったりしない」
玲於奈は実際に目玉を掴み、むにむにと触ってみせた。
小野寺は嬉しそうに言った。
「これで誰の私生活でも覗くことができるね!」
「犯罪だよ!」
それについては彼も十分気を付けるつもりだ。
続いて回復スキルの説明をする。しかし実は彼もこれを使ったことが無かった。
【回復Lv8】
・治癒 傷を塞ぐ
・範囲治癒 一度に複数人の傷を塞ぐ
・治療 身体の重大な傷をも治療する
「治癒は使ったことがあるし、小さな傷を止血する程度だって分かっているんだ。だから範囲治癒はそれを複数人に使うものだと思う。でも最後のがな……」
「重大な傷の定義が分からないよね」
小野寺がうなずいて言った。
「そうなんだよな。だからって試しに骨折してみて治らなかったら困るだろ?」
「それこそ本当に頭がおかしくなったと思われると思うよ」
実際、玲於奈は同級生から半ば本気で疑われているのだが、小野寺はそのことを伏せておいた。
知らない方がいいことだってある。
「俺も痛いのは嫌だし、これは実験できないままだな」
何も知らない玲於奈はそう呟いて、次のスキルの説明を見た。
【生命Lv4】
・生命 体力を回復する。(0/2) 使用しますか? [はい/いいえ]
生命は巴から聞いてレベル4でも使用できる数が増えるだけだと知っていた。
レベルを上げても恐らくこのまま数が増えていくだけだろう。しかし非常に有用なスキルなので、別の効果を足されるよりも有難かったかもしれない。
使用回数がゼロになっているのはDCW内で使用していたからである。
二十四時間で一回使用できるようになるらしいが、アプリを使用できないのでこのスキルをDCW以外で使うことはできない。
これは飛ばしてもいいかと思い、玲於奈は次の空間を説明することにした。
空間はレベルが一気に上がり、今回だけで三つも技を獲得したスキルだ。空間という名前からしてテレポートができるのかと期待したが、そういうものはないらしい。
【空間Lv8】
・四方結界 安全地帯を作り出す
・障壁 透明の盾を作り出す
・接手 触れたものを外すことができる
「四方結界は使うと透明な膜でできた立方体が現れるんだが、荒魂はその中に入ることができないらしい。作ろうとした場所に最初から荒魂がいると作ることができない。一度に生成できるサイズは一立方キロメートルまでだけど、二回使えばつなげることもできるから実質制限はないな」
「これだけやたらと詳しく調べてない?」
早口で話す玲於奈に対し、小野寺が尋ねた。
実際、この技だけDCW内でも繰り返し使っていた。
「いろいろと向こうでも実験していたんだよ。チームのメンバーがやたらと興味を示してさ。レベル1の技だからどうせ上級荒魂とか荒神には破られると思うんだけど」
「ああ。あの秋山氏の理想の彼女だっけ?」
「え?」
「え?」
いや、そこでそれ言うんかーい!
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