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三回目、終了

「何かやたらと張り切ってない?」


 次に玲於奈が起きた時、巴は何事もなかったかのように遠くの布団で寝ていた。そして再度出発してからもこのように気軽に質問してくる。そのため彼も布団の中で見たことはすべて忘れることにした。


「あんまり遅れるわけにもいかないだろ。親も心配するし」


 二か所目でとる予定だった睡眠を一か所目でとってしまったことで、二人の道行は大幅に後れを取っていた。

 玲於奈は巴を置き去りにする速さでどんどんと歩いて行く。それは別に親が心配していることとは関係ないが。

 不意に気になって彼は巴に訊いてみた。


「そっちの親は子供が長期間行方不明になって、場合によっては大怪我負ったりするのに心配したりしないのか?」

「わたしは小さい頃に親が離婚して、引き取った父親もこの間癌で死んだからさ」

「そうなのか……」


 また不味いことを訊いたと彼は声をすぼめた。


「嫌になっちゃうよね。DCWにだって、父親の癌を治してやろうと思ってきたのに、先に死なれたら意味ないじゃん」

「そう、なのか……」


 わざと明るい声で話す彼女に胸が締め付けられる思いがして、玲於奈はまたその言葉を繰り返した。

 こういう時に何と言ったらいいのか分からない。


(元気出せよ、はちょっと違うよな)


 迷った末に結局彼は当たり障りのない質問をすることにした。


「じゃあ、今は誰と暮らしているんだ? 離婚したお母さん?」

「いや、あの人はもう別の家庭を築いていたから、父親の方の親せきの叔母さん」

「ああ、あのカフェやってる叔母さんか」


 つまり、保護者が自営業を営んでおり、彼女はそれの手伝いをしているということだと、玲於奈はようやく合点がいった。


「そうそう。夜はバーをやっていて、なぜかバーでもオムライスが出るくらい叔母さんのオムライスはおいしいんだよ」


 大まかにだが彼女の一日のサイクルが見えてきた。午前中から学校に行き、放課後にカフェを手伝い、夜は一人で過ごして寝るのだろう。わびしいと言えばわびしい生活である。

 当たり障りのない質問をと思って彼はもう一つ尋ねてみた。


「学校の友達と遊んだりしないのか?」

「友達いないから」


 巴は自嘲するように笑って答えた。

 その点に関しては彼も特別友達が多い方ではない(というか一人しかいない)ので、あまり偉そうなことは言えない。


「あ、そう。確かに別に友達がいなくても生きていける奴は生きていけるからな」

「逆に友達がいた方が生きていけないみたいなこともあるし」


 また何か含みのある様子で放たれた言葉に、唐突に玲於奈は慌てさせられた。死んだ仲間とはそれなりに親しかったのかもしれない。

 友達の話なんかするんじゃなかったと急いで話題を変える。彼はあるものを見つけ、そちらを指さした。


「あ、ちょっと寄り道をしてもいいか?」

「いいけど、何かあったの?」

「いいものがあったんだよ」


 彼は隣の道に移り、うっすらと見えた光を目指した。


「ほら、これ。ゴゴ草。綺麗だろ」


 そこにはかつて見つけたゴゴ草が空き地一面に広がっていた。明るいので始めて見た時ほどの感動は無いが、黄金色に輝く草たちは幻想的な世界観を作り出している。

 本当なら理想の彼女とくるはずだった場所に違う女の子と来ているのは少し残念だが、綺麗なものを見て少しでも気分を変えてもらえたらという意図があった。


「ああ、これか」


 しかし巴は何でもないように言った。


「見たことあるし」

「あ、そうですか」


 確かに巴の方がDCWに参加した回数は多いのだから、サブミッションで指定されたか、そうでなければ偶然見つけたこともあり得るだろう。

 ただちょっと綺麗な景色で喜ばせようという考えが甘かったのかもしれない。


 玲於奈の内心をよそに巴は一本のゴゴ草を摘み取ると呟いた。


「でも、そうか。こんなに綺麗だったんだね」


 最終的に喜んでくれたらしい。彼女はそれからしばらく黙ってゴゴ草を見つめていた。


 今回のDCWはスキルのレベルを一気に上げられるだけでなく、巴という少女についてもよく分かるゲームになった。

 長距離を二人で歩くというのは仲を深めるにはいい機会だったと言える。


 彼女は年上でも平気で呼び捨てにするし、人懐っこい性格のくせに友達はいないし、生意気で、夜は泣いて過ごす女の子だった。



 その後も玲於奈はひたすらに歩き続け、目的地に着くと今度は粘着糸をまき散らし、それからまた仮眠や休憩を取るのを二回繰り返した。

 休んでいる間に荒魂が集まるので、起きてからそいつらを退治し、そこで休憩せずに再出発するのだ。

 急ぐ理由は親を気にしない限り特にないのだが、気持ちが急いていた。スキルレベル10が目前に迫っているからかもしれない。


 そうしてメインミッションに記された全ての場所を回った結果、ヨリイト虫三五二匹、ヤツメ(ネズミ)一三四匹、積み木の人形一一四匹、カエル八匹、途中で襲ってきた目玉三十二匹。合計で六四〇匹という成果になった。


 しかし、


「まだまだか……」


 玲於奈はプロフィールを見て呟いた。

 糸スキルはまだレベル9だった。分かっていたことだが、レベル8から先がずいぶんと遠い。仲間を呼び集める習性のせいで毎回百五十匹以上捕まっているヨリイト虫でさえ、まったくもって数が足りていないのだ。百五十匹ではレベル10にたどり着くまでに罠設置を三回以上繰り返さなければいけない。

 そのうえ糸スキルの次にレベルが高い回復スキルにおいては、あと八百以上の経験値が必要だった。糸スキルをレベル10まで達成したところでヨリイト虫たちが居なくなるわけではない。彼らはその後も罠にかかり続け、枠を埋めるだろう。その場合、毎回のヤツメの数は五十と少しということになり、回復スキルをレベル10まで上げるには六百の罠を仕掛ける重労働をだいたい十五回は繰り返さなければいけなくなる。


 このような長丁場になることはまったく予想しておらず、食糧のお菓子も魚肉ソーセージも飲み水もすでに底をつき始めていた。


 それでも彼は諦めるつもりなどなかった。熱心なコレクターのように異様な執念に憑りつかれ、敵をいかに効率的に退治してスキルを獲得することができるかに注視した。

 メインミッションをクリアしてからは移動する必要がなくなり、よりスピードが上がった。三時間ほどで罠を張り、一時間胃袋の中で眠り、四時間かけて敵を倒す。このサイクルを繰り返していると、まるで自分が本当に蜘蛛になった気分だった。


 玲於奈の熱を冷ましたのは、巴の一言だった。


「おい、玲於奈。聞いてんのか?」

「あ、ああ、悪い。今何て言った?」


 彼は疲労で限界の頭を振ってどうにか意識を覚醒させ、巴に向き直る。

 彼女は玲於奈を心配するような目で見つめた。


「確かにスキルレベルは大事だし、そのためになら多少無理してでも残って続ければいいと思っていたけど、今、限界を超えて死にかけていることに気がついてる?」

「え、そうか?」


 彼は急に頭が痛くなってきてこめかみを押さえた。

 この頭痛は脱水かもしれないと経験的に思ったが、水も食料ももう尽きてしまった。


「とにかくわたしは帰るし、玲於奈も帰った方が良いと思う」


 その一言で彼は、そもそもメインミッションをクリアした巴がいつまでも残る意味が無いことに気が付かされた。サブミッションの異常はトカゲを退治したら達成されたため、すでに全て完了している。彼女は付き合いで一緒に居てくれたのだ。


「糸はレベル10になったわけだし、もういいんじゃない?」

「そうか……。そうだな」


 熱がゆっくりと冷えていくのを感じた。これ以上頑張るのは難しいだろうというのが、冷静な頭で判断できた。大きく息を吸い込む。


「見通しが甘かったか……」


 こうして彼の三回目のDCWは終了した。

 最終的な彼のプロフィール欄は以下である。



『プロフィール』

名前 秋山玲於奈 ☆☆

性別 男

武器 ナイフ

保有ポイント 28P

スキル 糸Lv10(Max)up、探知Lv6(21/64)up、水Lv1(0/2)、回復Lv8(160/256)up、生命Lv4(14/16)up、悪食Lv8(80/256)、空間Lv8(103/256)up



「おい、玲於奈。聞いてんのか?」はこの作品の中でトップ3に好きなセリフの一つ。


評価・コメント等お待ちしておりますm(__)m

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