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三回目のスタート

 次にアプリのローディングが完了したのは二週間後の学校の帰り道だった。


 ここで重大な問題が生じてくる。駅でゲームに参加するわけにはいかないのだ。入院してからしばらくの間、親からの監視がうるさかった。色々と心配していたのだろう。最近になってようやくそれが緩和されてきたのに、また夜遅くまで帰らなかったりしたら面倒なことになる。まだ定期的に肺炎になる方が、急に病弱になったと言って誤魔化すことができる。


(また少し待たせることになるな)


 スマホの画面を見つめて、玲於奈は前回のことを思い出した。


 家についてから部屋でDCWの世界に飛ぶと、予想通り少女は先に来て待っていた。前回同様に、家の壁に背を預けてしゃがんでいる。しかしイヤホンはしていなかった。

 今回の天候は晴れだ。しかし空に太陽が見えず、肌寒いくらいに気温が低いので、早朝だろう。清々しい空気がしっとりと髪を濡らす。

 少女は彼を見つけると片手を挙げた。


「久しぶり」


 珍しく向こうから声をかけてくる。平坦な、感情の色を窺わせない口調だった。


「調子はどう?」

「ちょ、調子はどう? あんまり使わなくないか、その挨拶」


 聞き慣れない挨拶に思わず訊き返すと、少女の頬がさっと赤く染まった。


「うるさい! 調子はどうかって訊いてんの!」


 急に話しかけてきたと思ったら今度は怒っている。相手の意図がまったく分からず、玲於奈はとりあえず適当に答えた。


「調子は良好だよ。ありがとう」


 すると少女は「そう、よかったね」と言った。何気ないが、思いやりを感じさせる声だった。それから彼女は立ち上がって服についた砂を払うと、ニコッと笑いながら道端の看板を指さした。


「やったね、今回は当たりだよ」

「当たり?」


 見ると看板に二重丸が書かれている。バツが荒神、三角形が上級荒魂を表していると聞いたが、二重丸はどういうことだろうか。


「その印がある時は荒神も上級も居ない。メインミッションもただその辺を歩くだけって決まってる」

「へえ、そうなのか」


 上級荒魂が居ないとスキルのレベル上げ効率が下がるなと一瞬考えてから、玲於奈は自分を疑った。

 何を言っているのだろう。上級荒魂も荒神も居なくて一般の荒神だけを倒していた方が安全で楽なはずではないか。


「安全で良いな!」


 自分の誤りを正すように大きな声を出すと、少女から奇異な目で見られた。不審な行動はお互い様じゃないかと思う。

 彼は眼鏡に触れて気を取り直すと、少女に尋ねた。


「それで、急に手のひらを返してどうしたんだ? この前までは徹底して邪魔者扱いだったのに」


 彼女は髪を触わりながら答えた。


「それは、まあ、荒神を倒せるなら滅多なことじゃ死なないだろうし、認めてやってもいいかなと思って」

「認めてやるって、ずいぶん上からだな」

「別に、認めるとか認めないとか関係なく、もともと三回生き残ったら声をかけるつもりだったよ。今回が当たり回だったからそれを一回前倒しにしただけ」


 確かに、三回も生き残ればスキルのレベル的にも初心者から抜け出すことができるだろう。ということは、初心者と一緒に行動すると足手まといになるから邪険に扱っていたのだろうか。

 少女がスマホを振って言った。


「残りは歩きながら話すとして、まずはぼちぼちミッションを始めようか」


 ミッションを確認すると、本当にメインミッションはマップ上を歩き回るだけのようだった。ただ、その距離が尋常じゃなかった。



メインミッション


『4-1へ行け』

『1-30へ行け』

『25-30へ行け』


サブミッション


『五種類以上の荒魂を倒せ』

『荒魂を30匹倒せ』

『異物を排除せよ』



 マップを確認すると、今回のステージは30×30のステージだった。今までは10×10で、それでもかなり広かったのだ。二時間歩いても端から端までたどり着けなかったことから十キロあったと考えて間違いないだろう。つまり30×30の場合、この正方形の一辺が三十キロということになってしまう。

 メインミッションを達成するには、一〇〇キロ近く歩くことになる。


「これ、日付が変わる前に帰れるか?」

「どう考えても無理でしょ」

「だよな……」


 親からまたうるさく言われるのを想像して肩を落としていると、少女が焦れたように言った。


「ほら、早く行くぞ。玲於奈」

「あ、名前……」


 今までお前呼びだったのに、今度はちゃんと名前で呼んでくれるらしい。

 彼女は少し照れたようにまた髪を触った。


「秋山玲於奈でしょ。何度も言うから覚えたよ」

「そうか。俺はそっちのこと何て呼んだらいいんだ?」

「春原巴。春原さんって呼べよ」

「じゃあ巴で」

「春原さん」

「そっちが名前呼びするなら俺だってそうするわ!」


 当然だろと彼が主張すると、巴はやれやれと子供のわがままを聞く親のように首を振った。


「しょうがないなあ。特別に巴さまって呼ばせてやるよ」

「呼ばねーよ!」


 玲於奈のツッコミに彼女は愉快そうに笑った。その笑顔は、今までのイメージと百八十度変わって、普通の女の子にしか見えなかった。


玲於奈「ようやく名前を教えてもらえたな」

巴「惜しいなあ。この時、巴さまって呼ばせられていたらなあ」

玲於奈「呼ばんわww」


評価・コメント等お待ちしておりますm(__)m

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