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彼の日常(入院)

ヒロイン「結局それなんの映画なの?」

玲於奈「プライベートライアン。ちなみに、この作品には日本の名カメラマン宮川一夫さんが発明した技法『銀残し』が使われているらしい」

ヒロイン「映画好きなんだ?」

玲於奈「結構好き」

ヒロイン「へえ」



評価・コメント等お待ちしておりますm(__)m

 次に目を覚ました時、彼は病院に居た。


 両親の説明によれば、急に夜中に救急車がやって来て、部屋で死にかけていた息子が発見されたらしい。高熱もあり、医者からは肺炎と診断されたそうだ。突然起こった不審な事態に何があったのかと散々問い詰められたが、もちろん正直に答えられるわけもなく、元からちょっと風邪気味であり、夜中にそれが急激に悪化したので自分で救急車を呼んだと答えた。


 かなり際どいところまで行っていたため、様子を見るためにも二、三日入院だそうだ。


「あんたはいつも理想の彼女とか言って変な子だったけど、危ないことだけはしなかったのにね」

「だから、肺炎だって」


 我が子が違法な薬物に手を出して急激に体調を崩したのではないかと疑っている母親を受け流しつつ、玲於奈はDCW内で起きたことを考えていた。


 圧倒的な力で荒神を叩きのめした存在。あの時自分の身体を動かしたのは何だったのだろうか。そもそもあの世界はどこにあるのだろうか。現実に起きていることなのだろうか。

 そして何よりも、最後に現れた理想の彼女。あの娘にまた会いたい。きっと救急車も彼女が呼んでくれたのだろう。

 スマホが電話帳のページを開いていた。彼の電話帳の自分のページには、確かに住所が登録してある。


「調子はどう、秋山氏?」


 昼になると母親が帰り、入れ替わるように小野寺がお見舞いに来てくれた。


「急に入院だなんて驚いたよ。何があったの?」

「そんなことよりも聞いてくれ! 俺、ついに理想の彼女に会ったんだ!」


 彼は勢い込んで話し始めた。


「ああ、あの声。とろけるような声って本当にあるんだな。やべっ、思い出すだけで鼻血が出そうになってきた。それに来ている服もさ、まあよく分かんなかったんだけど、でも感触としては」


 しばらく話し続けた後、彼は小野寺の目を見て一旦口を閉ざした。


「う、噓じゃないぞ。本当だ。そんな目で俺を見るな。俺は薬物なんかやってない! 尿検査だって受けたけど反応は出なかった」


 小野寺は数秒の沈黙を守った後、やっと口を開いてこう言った。


「秋山氏、本当に何があったの? なんか、別人みたいになってるけど」

「え?」


 驚いて訊き返す。

 そういえば親からも似たようなことを言われた。目つきがヤバいとかなんとか。薬物を疑ってそう見えているだけだろうと聞き流していたが、友人からも言われるとは思っていなかった。


「具体的にはどの辺が?」

「何て言うか、まずは顔つきが違うね。別の戦場で兄たちを失った二等兵とか救出しに行きそうだよ」

「死なない役がいいなあ」


 冗談を交わしつつ、顔をペタペタと触る。まったく自覚は無かったが、死線をくぐると本当に風貌に出るのかもしれない。


「あとはやっぱり、オーラみたいな全体的な雰囲気が変わったよね。弱小チームの高校野球児から、メジャーリーガーくらいにまでランクアップした」

「変わりすぎじゃない!?」


 さすがにそれは言い過ぎだろうと思ったが、小野寺は「冗談じゃないって」とあくまでも真面目な顔で主張した。


「本当に何があったの? 一晩でライザップでも受けた?」


 親友に尋ねられ、玲於奈はついに昨晩の出来事を教えることにした。

 親はどうせ薬物で頭がやられたと思うだけだが、彼なら信じてくれるかもしれない。


「実は、昨日また例のアプリを使ったんだ」

「え、アプリってこの間言ってたあの?」

「ああ、そこででかいミミズみたいなのに襲われて、食われかけたんだ」


 小野寺は驚いた顔をしながら、「正直錯乱しているのかなって思っている」と言った。

 それもそうだろう。玲於奈だって逆の立場ならやっぱり薬物を疑うだけだ。


「本当なんだよ。それで俺の身体はこんな風になったし」


 彼が大口を発動し、両腕を口に変えて見せると、ガッシャーンという音を立てて小野寺が椅子から転げ落ちた。


「ごめん、大丈夫か。急にこんなん見せられたら驚くよな」

「え、え、ちょっと待って。それ本物?」


 玲於奈の手を借りながら立ち上がり、小野寺は尋ねてくる。


「ああ、好きなだけ調べてもらって構わない。俺の腕が口に変わったものなんだ」


 彼は見やすいように両腕をベッドに横たわらせた。

 じっくりと時間をかけて大口の歯や喉の奥を丹念に観察した後、小野寺ははぁっと深いため息を吐いた。


「確かにこれは証拠になりうる。秋山氏の言葉を信じるよ。今まで疑ってごめんね」

「誰だってすぐには信じられないだろ。でも、これで俺が理想の彼女に会ったって話も信じる気になっただろ?」

「それも信じるよ。しかし凄いな、そのアプリは本物なんだ」


 それから玲於奈は向こうであったことを事細かに話し、スキルが使えるようになった原理やゲームの世界に飛ばされる仕組みなどについて話し合った。



 小野寺とは金曜日に話したばかりだが、なんだかずいぶんと久しぶりな気がした。玲於奈は、友人との対話を通じて日常の空気に浸った。


「小野寺もアプリを持ってたらな。一緒に居てくれると助かるのに」

「いや、僕はそういう危険なことからは極力距離を置くようにしているから」

「そこはドライなんだ……」



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