決着! 及び理想の彼女登場(笑)!
玲於奈が待ち構えているも、なかなか新しい首が入って来なかった。警戒しているのかもしれない。
望遠と併用して入り口の方を覗く。そこで彼は驚きの場面を目撃した。
敵がレーザーをこちらに放とうとしていた。胃袋の中では逃げ場がない。
(とにかくあれを食らったらヤバイ!)
彼は咄嗟に最初に作った場所に口を開口すると、同時に閉口で敵がいる場所を消した。
まず開口を使用したのは、胃袋の中に人が居る間は常に口を一つは作っておかなければいけないためである。
空間を切り離したおかげで、敵の攻撃の影響は一切受けずに済んだ。
「あそこから出るか」
それでも胃袋の中に隠れていることに限界を感じた彼は、新たな口に向かって移動し始めた。
このまま隠れていれば、大量に居るちびチヒモ虫が新たに作った口を発見するかもしれない。見つかった時、二つの口で開口・閉口を繰り返して逃げることは体力的に無理だ。すでに二回も使わされている。
彼は這うようにして口にたどり着くと、外に出た。
「ハァ、きっつ」
もう動くことも辛い。周囲を見渡せば、右の首を失い、首が二つになった三ツ首チヒモ虫は、五十メートルほど離れたところに居た。
これだけの距離があれば、逃げられるかもしれない。
しかし彼がそう思った直後、二つの頭が玲於奈の方を向いた。かなり怒っているようで、大きな声を張り上げて威嚇してくる。
「なんで分かるんだよ!」
彼は思わず泣きそうになった。もう走って逃げる元気は残っていない。
玲於奈は知らないことだったが、最初にちびチヒモ虫に血を吸われ、それを届けられたことでチヒモ虫全体にその匂いと味を覚えられているのだ。嗅覚の鋭い彼らはそれを感知し、どこまでも追いかけてくる。
玲於奈を見つけた三ツ首チヒモ虫は家々を踏み越えてこちらに走ってやってきた。よく見れば敵も二度の破壊光線の影響で疲れているようで、どことなく肌の色が黒ずんでいるように思える。
「これならやれる。首も一個落とした。勝てるぞ」
玲於奈はそう言い聞かせ、自らを鼓舞した。
だが決してそんなことで油断してはいけない。彼らはあくまでも神の名を冠した化け物なのだから。
「ギャアアアアアア!」
本気になった敵は、突っ込んできた勢いのまま左の頭を振り回し、大きく地面を薙ぎ払った。容赦のない攻撃だ。巨大な質量を前に玲於奈は躱すことなど到底できない。太い首が玲於奈の身体に当たる。瞬間、「ぐえっ」という悲鳴が腹の底から漏れた。そのまま吹き飛ばされ、家の中へ突き抜ける。
「……んっ」
髪の毛の濡れる感触に目を覚ます。一瞬血かと思ったが、どうやら違うらしい。ただの水のようだ。ほっと一息ついてから彼は辺りを見回した。
赤いじゅうたんに木の低いテーブル。そこは家屋のリビングのようだった。テーブルを囲むようにソファが並べられており、彼はそのうちの一つに持たれかけていた。
「うっ」
意識がはっきりとしてくると、頭がずきずきと痛んだ。どこかにぶつけてしまったのかもしれない。顔全体が熱を帯びて、脱水状態になったように割れるような頭痛を起こした。尋常でない痛みだ。
無理もない。休憩なしでレベル7のスキルを立て続けに二回。それに加えてスキル各種を先ほどから使い続けている。体力の限界だ。
しかし、今はそれさえも気にしている場合ではない。逃げなければ。
玲於奈が頭を押さえてよろよろと立ち上がった直後、家の屋根を壊して三ツ首チヒモ虫が頭を突っ込んできた。
「ギャアア!」
カラスのような鳴き声を上げ、口を広げて玲於奈に迫ってくる。
彼は一度はソファの上を転がり、すんでのところでそれを避けた。だが狭い屋内ではそれ以上逃げられない。口が首を伸ばして彼の後を追ってくる。開口を、と思ったけれど、もうそれだけの体力が残っていなかった。
そうして、玲於奈は敵の大きな口に捉われた。
玲於奈は戦いを繰り返す中で、生きることは上から垂れた綱にしがみつくことに似ているという感想を抱くようになっていった。落ちれば死ぬだけだ。硬い地面に叩きつけられるのが怖くて、必死に綱にしがみついている。
荒神の口に食われた時、彼は綱から手が離れるのを感じた。誰かに切られると言うよりも、これ以上は体力が続かずに掴んでいられなかった感覚だった。
そうやって自分が落ちたのをはっきりと感じたのだ。
だからここからのことを、彼は夢だと思っている。彼自身、何が起こったのかよく分かっていない。
朦朧とした意識の中で、力強い誰かの腕が彼の綱を握るのを感じた。
左の首に食われた直後、彼の身体は勝手に動き出し、大口を発動した。左腕を全て口に変える。腕が真ん中で上下に割け、一つの大きな口に変わったのだ。
玲於奈は傍らでテレビでも見ているような感覚で、こういう使い方もあるのかと感心していた。
自動で動く身体は素早く腕を振るい、敵の頭部を内側からえぐり取った。下顎だけとなった敵の首に立つ。
「ギャアアアアアア!」
もう一つの頭が驚いたように玲於奈を見て吠えた。そして口を白く光らせ始める。
それに対して彼は、身投げするようにあっさりと首から飛び降りた。
数秒後、上方で破壊光線が放たれる。光線は自らの死んだ首を焼き切りながら、玲於奈へと迫ってきた。
空中では逃げ場がないと玲於奈は焦った。このままでは焼き死んでしまうと思うと目を瞑りたかった。
けれど彼の身体は、思いもよらない方法でそれを解決した。
腕を伸ばし、広げた口で光線を飲み込んだのだ。
以前述べたように、大口の場合は強胃酸の入った胃袋に繋がっている。丈夫にできているとは言え、光線なんか飲み込めば恐らく胃袋も無事ではないのだが、確かに自分が死んでは元も子もないので合理的な判断かもしれない。
敵の光線が途切れると同時に、彼は地面に着地した。それも普段の玲於奈にはまずできない華麗な着地だった。
荒神を見上げると、かつては三本あったが、今は一本しかない真ん中の首が見えた。
「ギョアアアアア!」
二つの首をつぶされ激怒した敵は、首を打ちおろしてきた。
しかしこれにも玲於奈の身体は鮮やかな反応をして見せた。巨大な首が降ってくるまでのわずかな間に、両手で十本の鋼糸を地面に垂直に立ててから横に転がって逃げる。
打ち下ろされた敵の喉に突き立てた鋼糸が刺さるのが見えた。相手は痛みの影響で一瞬、首を持ち上げるのが遅れる。
オートモードの玲於奈は、全て計算通りかのようにその一瞬を逃さなかった。両腕を大口に変換すると、先刻同様その口で敵の頭部に食いついた。
太い首が大きくえぐれ、体液が飛び出る。
一方的だった。荒神を相手にしている困難を微塵もうかがわせず、淡々と敵を追い詰めていく。
「ギャアアアアアア!」
真ん中の首はそれ以上自分が食われることを嫌がり、すぐさま首を持ち上げた。
いや、持ち上げようとした。
ただ冷酷な彼の身体がそれを許さなかった。
敵が首を持ち上げる直前、彼の身体は食いちぎった傷口にナイフを突き立てると、それを思い切り脚で押し込んだ。
ガッと何かを貫いた感触がして、敵の身体が動きを止める。徐々に体が白く変わり、そして砂になっていった。
勝利だ。敵に何もさせない、まさに完封だった。
荒神が倒れると同時に、彼の身体も糸が切れたみたいに力を失った。気が付けば身体の主導権が戻って来ている気がする。石でできているようにピクリとも動かないが。
いったいあれは何だったのだろうか。勝手に体を動かされるのは不気味だ。
(まあ、どうにか生きてるし……)
玲於奈は一先ず生き延びたことを安堵することにした。疲れ切っており、もう目もろくに見えないのだ。
だが、まだ一つ忘れていることがある。敵は荒神だけではない。
「二ィイイイ」
そんな低い声が玲於奈の後ろから聞こえてきた。不吉な姿が背後に忍び寄る。
それは三ツ首チヒモ虫が連れていた、お化けチヒモ虫である。まだ奴が残っていた。
玲於奈は身体を動かさなければいけない、死にたくなければ。けれども彼の身体はもう指一本分も動かなかった。
もう、彼の手はとっくに綱から離れているのだ。
のそのそと緩慢な動きでお化けチヒモ虫が近づいてくる気配を感じた。影が彼の身体に覆いかぶさる。
「ニィイイイ」
微妙に嬉しそうな声を出して、お化けチヒモ虫の影が頭を下げた。手に興奮した息が吹きかけられる。手が持ち上げられる。徐々に喉の奥まで吸い込まれる。そして─
─再び彼の手は地面に下ろされた。
「大丈夫!?」
柔らかな水色が肌に触れた。ふわりといい匂いが漂う。
「ねえ、生きてる!? お願い、返事して!」
ずっと聞いていたくなるような声だ。誰だろうか。
そっと首筋に手を当てられ、脈を取られる。相手は玲於奈が生きていることを確認すると、安心したようにぎゅっと抱きしめてきた。耳元で「よかった」と呟く声が聞こえる。
(そうか、あの娘が助けに来てくれたのか……)
温かな腕の中、玲於奈は理解した。
ついに、死の間際になって、ゲームの運営が約束を守り、理想の彼女に会わせてくれたのだ。死ぬ直前に願いを叶えるとはずいぶんな嫌がらせだが、理想の彼女に抱かれて逝けるのなら幸運かもしれない。
「お願い、しっかりして。まだ終わってないの!」
玲於奈は今すぐにも意識を手放したかったが、もう少し彼女の快い声を聞いていたい気もして、なんとか踏ん張っていた。
その間にポケットをまさぐられる感じがした。ポケットからスマホが抜き取られる。
「寝たら駄目! お願いだから起きてて! あとほんの少しの間でいいから!」
理想の彼女はそう言いながら玲於奈の手を取った。小さな彼女の手が人差し指をつまみ、何やら動かしている。
彼女に触れられているだけで幸せな気持ちになってくる。
しばらくして彼女の気配が消え、玲於奈は眠りに落ちた。
玲於奈「めちゃくちゃ可愛い声だったし、ふわふわしてやわらかかったし、また会いたいな」
ヒロイン「へえー」
玲於奈「顔赤くなってるけど、どうしたの?」
ヒロイン「べつに」
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