第8章 星空のひらめき
アビの研究区画は、静まり返っていた。
セレ・テックの装置が失敗してから、誰もが言葉を失っている。
太陽の揺らぎは依然として強く、人工太陽灯は弱い光を震わせていた。
その静寂を破るように、
通信端末が鋭い音を鳴らした。
「ジオ・フォルツァ。地球本部ソウルへの帰還を命じる。出発は48時間後。」研究員たちが顔を上げる。
ジオは端末を握りしめたまま、動けなかった。
「……今、戻れっていうのか。」
太陽は揺らぎ続けている。
セレは不安に包まれている。
マナとジュリーは、あの広場で泣きそうな顔をしていた。
そして──自分の研究はまだ完成していない。
胸の奥が、強く締め付けられた。
ジオは研究端末を閉じ、研究区画を出た。
アビの外気は冷たく、どこか乾いていた。
向かった先は──ジンの農場。
ジンは畑の整備をしていたが、ジオの顔を見るなり眉をひそめた。
「おいおい、どうしたジオ。
そんな顔して来るなんて珍しいぞ。」
ジオは苦笑した。「……ちょっと、限界で。」
ジンは何も言わず、農場裏の丘へ案内した。
そこは、昔からジンが悩むと訪れていた場所だった。満天の星空夜。
丘の上には、人工灯ではなく本物の星々が広がっていた。
アビの空は薄い大気の向こうに、宇宙の光をそのまま見せてくれる。ジンが空を見上げながら言った。
「覚えてるか?昔、3人で見た映画……
『フレアマン』。」ジオは静かに笑った。
「……ああ。太陽のフレアを操るヒーローのやつ。」ジンは続ける。
「ピンチの時、味方の冷凍レーザーが反射して
フレアマンのコアに当たるんだよな。
絶命するかと思いきや──逆に復活する。」
ジオは星空を見つめたまま、動けなくなった。
胸の奥で、何かがつながる音がした。
ジンが言う。「お前、あのシーン好きだったよな。
“冷却でコアが安定する”ってやつ。」
その瞬間──
ジオの心に雷が落ちたような感覚が走った。
「……そうだ。
太陽の表面は“過熱”で乱れている。
揺らぎを乗せるなら……
加熱レーザーじゃなくて……」ジンが息を呑む。
「冷凍レーザー……?」ジオは立ち上がった。
「冷凍レーザーに揺らぎパルスを乗せるんだ!
太陽を“冷却”して安定させる……
フレアマンのコアと同じだ!」星空が広がる中、
ジオの胸には確かな光が灯った。帰還命令。
太陽の揺らぎ。
マナとジュリーの笑顔。
そして──冷凍レーザー。
すべてがひとつの線で結ばれた気がした。
ジオは星空を見上げたまま、静かに呟いた。
「……帰るわけにはいかない。俺が太陽を救う。」




