第5章 太陽の心臓へ、そしてセレへ
アビの空は、人工太陽灯の弱い光に包まれていた。
その揺らぎは、まるで太陽自身が迷っているかのようだった。
ジオは研究区画の中央で、タワー調査の準備を進めていた。
振動耐性スーツの接合部が淡く光り、共鳴波形解析端末が低く唸る。
ジンが腕を組んで言う。
「……本当に行くんだな。」
ジオは端末を確認しながら答える。
「太陽の揺らぎの正体は、タワーの内部にある。
それを確かめないと、何も始まらない。」
ジンはため息をつき、わずかに笑った。
「お前は昔からそうだ。
危険でも、真っ直ぐ行く。」その言葉に、
ジオは少しだけ肩の力を抜いた。
セレからの通信出発直前、通信端末が緊急着信を告げた。画面に映ったのは、マナだった。
「ジオ……聞こえる?タワーなの?」
背後の人工太陽灯は弱く揺れ、ジュリーがマナの服を握っている。
その小さな鼓動が、画面越しにも伝わるように感じられた。「危険すぎるわ、無人機で向かうことはできないの?」ジオは少し押し黙った後口を開く。
「そこまで細かいことは無人機には出来ない、それに直接感じてみたいんだ、太陽をね。…セレの状況はどうなんだい、教えてくれないか。」
いつもはキリッとした顔の目に涙が溜まり、今にも崩れそうな表情を飲み込み、うつむいたあとまっすぐに視線を向けたマナの表情は、何か思うところがあった。
「…セレの灯りが限界に近いわ…。
住民の鼓動が速くなると、灯りが揺れるのが分かる。まるで、太陽が私たちの不安を聞いているみたい。」
ジオは息を呑んだ。
「……セレでも同じ現象が?」
マナは静かに頷いた。
「ジオ……太陽は、私たちの“何か”を聞いてる。
その正体を、あなたなら見つけられる。」
通信が途切れ、画面が暗くなる。ジオは拳を握りしめた。
胸の奥で、決意が静かに燃え始めた。
コア・レゾナンス・タワーの内部は、
巨大な空洞のようだった。
壁は脈動し、低い振動音が空気を震わせている。
ジオが一歩踏み出すたびに、
床が太陽の揺らぎと同じ周期で微かに震える。
解析端末が反応し、波形が跳ね上がる。
太陽脈動とタワー内部の振動が完全に同期する瞬間がある。ジオは息を呑んだ。
「……太陽の鼓動が、ここまで届いている?」
タワーの奥へ進むと、古い端末が壁際に残されていた。そこには、ダイが残した記録が保存されている。
“タワー内部の振動は、太陽の揺らぎと同期する。太陽は、生活圏の鼓動を“聞いている”。
もしこれが本当なら──太陽は、孤独ではない。”
ジオは端末を握りしめた。
「……ダイ。お前はここまで来ていたんだな。」
太陽の“心臓”タワー最深部には、太陽脈動を模した光球が揺れていた。
淡い光が空間を満たし、静かな鼓動が響く。
ジオが近づくと、光球が反応し、
太陽の揺らぎと同じ周期で脈動を始める。
解析端末が警告を発する。
“共鳴強度上昇──太陽脈動との完全同期が近い”ジオは光球に手を伸ばした。
その瞬間──
視界が白く染まり、太陽の“声”が胸に直接響いた。言葉ではない。
振動でもない。
ただ、深い孤独と、何かを求めるような感情が流れ込んできた。
ジオは息を呑み、膝をついた。
「……太陽は、何かを伝えようとしている。」
光球が静まり、タワー内部は再び薄暗くなる。
タワーを出ると、所長が待っていた。
「ジオ……どうだった?」ジオは静かに答えた。「太陽は、生活圏の鼓動を聞いている。
揺らぎの正体は、生活の中心──セレにある。」所長は短く頷いた。
「セレは今、揺らぎの影響が最も強い。
向かうなら、すぐに準備を整えよう。」
ジオは迷いなく言った。
「行きます。太陽の揺らぎの正体は、セレで見つかる。」その声は、何よりも強く響いた。




