第4章 太陽が聞いているもの
アビの研究区画は、今日も朝の人工太陽灯が弱く揺れていた。
光は薄く、まるで太陽自身が疲れているかのようだった。
ジオは解析室の椅子に張り付いた腰をあげ、
所長室へ向かう。
何日たっただろう。
胸の奥には、繰り返し行った解析結果──
太陽が生活圏の振動に反応している
という仮説が重く沈んでいた。
扉をノックすると、所長が疲れた目で顔を上げた。「ジオ……何か分かったのか?」
ジオは深く息を吸い、端末を差し出した。
「太陽の揺らぎは、生活圏の振動と同期する瞬間があります。人工太陽灯のちらつき、鉄肉の脈動、住民の歩行振動……太陽は、生活圏の“声”を聞いている可能性があります。」所長は目を見開いた。
「……太陽が、人類の生活に反応している?」
その言葉は、部屋の空気を一気に重くした。
「もしそれが本当なら、揺らぎは自然現象ではない。生活圏の何かが太陽に影響を与えている。」
所長の声は震えていた。鉄肉の異常突然、
廊下からジンの叫び声が響いた。
「所長! ジオ! 農業区画がやばい!」
ジオと所長が駆け出すと、農業区画の巨大な培養槽が不気味に脈動していた。
鉄肉の灰色の塊が、太陽の揺らぎと同じ周期で震えている。
ジンが叫ぶ。「見ろよ! 太陽の揺らぎと完全に一致してるんだ!」ジオは脈動データを端末に取り込み、太陽の波形と重ねた。一致。
完全な同期。
「……鉄肉の脈動が太陽に届いているのか?いや……鉄肉が太陽に影響している?」
ジンは青ざめた。
「じゃあ……俺たちの生活が太陽を弱らせてるってことか?」ジオは答えられなかった。
ただ、胸の奥が冷たくなるのを感じた。
そのとき、研究区画の通信端末が緊急着信を告げた。画面に映ったのは、セレに戻ったマナだった。
「ジオ……聞こえる?」力強く美しい顔立ちとは相反する声、マナの声は震えていた。
背後の人工太陽灯は弱く揺れ、ジュリーが不安そうにマナの服を握っている。
「セレの灯りがまた弱くなったの。
住民の鼓動が速くなると、灯りが揺れるのが分かる……まるで、太陽が私たちの不安を聞いているみたい。」ジオは息を呑んだ。
「……セレでも同じ現象が?」マナは頷いた。
「ジオ……太陽は、私たちの“何か”を聞いてる。
それが何なのか、早く突き止めて。」通信が途切れ、画面が暗くなった。ジオは拳を握りしめた。
(マナ……ジュリー……)胸の奥で、決意が静かに燃え始めた。共鳴点の発見解析室に戻ったジオは、アビとセレ双方の生活圏の振動データを太陽脈動と重ね合わせた。
すると──
太陽が最も強く反応する“共鳴点”が浮かび上がった。画面に表示された名称を見て、ジオは息を呑んだ。
コア・レゾナンス・タワー…アビとセレの生活圏をつなぐ巨大な共鳴装置。
本来はエネルギーを安定させるための装置だが、
太陽の弱まりとともに、逆に“太陽へ向けて振動を送っている”可能性があった。
「……太陽は、タワーの“声”を聞いている。」
ジオは震える声で呟いた。
所長の決断所長は解析結果を見て、深く息を吐いた。「ジオ……タワー内部を調査する必要がある。
だが、あそこは危険だ。太陽の揺らぎが強い時は、内部の振動が暴走する。」
ジオは迷わず言った。「行きます。太陽の揺らぎの正体を突き止めるために。」所長は静かに頷いた。「……ダイも、そこへ向かおうとしていた。」
ジオの胸に、ダイの影が強く蘇る。弱い人工太陽灯が揺れ、解析室の壁に淡い影を落とした。
ジオはその光を見つめながら、静かに呟いた。
「必ず……やりぬいてみせる。」その言葉は、揺らぐ光の中で静かに響いた。




