第3章 揺らぎの正体
マナと別れ、生活区画へ向かう廊下は、アビの心臓が弱っているかのように静まり返っていた。
人工太陽灯はちらつき、壁の配線が弱々しく唸っている。
その光の揺らぎは、どこか太陽の鼓動の乱れと似ていた。ジンが歩きながら言う。
「主な生活区画はセレにあるが、どちらももう限界だ。寒さで体調崩す人も増えてる。鉄肉の生産も落ちて、食料もギリギリだ。」ジオは黙って頷いた。
マナとジュリーの笑顔が、胸の奥で静かに揺れていた。(……太陽を取り戻さなきゃいけない)
その想いが、歩くたびに強くなる。
生活区画の広場では、住民たちが弱い光の下で身を寄せ合っていた。
子どもたちは寒さで手をこすり合わせ、老人たちは毛布を重ねて震えている。
その光景は、太陽の衰えがどれほど深刻かを物語っていた。
ジンが言う。「……見ただろ。これが現実だ。
ダイが残した揺らぎの解析、頼むぞ。」
ジオは静かに息を吸った。「解析室に行こう。」
太陽脈動解析室は、研究区画の奥にひっそりと存在していた。扉を開けると、冷たい空気が流れ出す。
まるで、時間が止まった部屋のようだった。
机の上には、ダイが最後に使った端末がそのまま残されている。
飲みかけのカップ。
書きかけのメモ。
波形グラフが貼られた壁。
ジオはそっと机に触れた。「……ダイ。」
ジンは静かに部屋の外へ出ていった。
「ここは、お前だけのほうがいいだろ」と言って。
ジオは椅子に座り、端末を起動した。
画面には、ダイが最後に解析した“揺らぎの波形”が表示される。
乱れた周期。
不規則な振幅。
しかし、その端に──かすかな規則性があった。
ジオは眉をひそめた。「……これは?」
波形を拡大すると、生活区画の振動データと一致する箇所があった。
人工太陽灯のちらつき。
鉄肉培養槽の脈動。
住民の歩行振動。
アビ全体の微弱な機械振動。
それらが、太陽の脈動と“共鳴”している瞬間が存在した。
「太陽は……生活圏の振動に反応している?」
ジオは思わず呟いた。
太陽が、ただ弱っているだけではない。
何かを“聞いている”。
何かに“影響を受けている”。
そのとき、端末の奥に隠されたフォルダが目に入った。「未送信メッセージ」と表示されている。
ジオは震える指で開いた。
“揺らぎは外的要因。
太陽は何かを聞いている。
生活圏の“声”……?
もしこれが本当なら、太陽は──”
文章は途中で途切れていた。
ダイが送る前に事故に遭ったのだ。
ジオは画面を閉じ、深く息を吐いた。
「……ダイ。お前は、太陽の揺らぎの正体に気づいていたんだな。」
解析室の窓から見える人工太陽灯は、
弱く揺れていた。
その揺らぎが、まるで太陽が何かを訴えているように見えた。ジオは立ち上がり、窓に手を触れた。
「太陽は……人の生活を感じている。
なら、揺らぎの正体を突き止めれば、
太陽を救える。」マナの笑顔。
ジュリーの小さな手。
ジンの必死の声。
所長の疲れた目。
すべてが、ジオの胸の中でひとつに重なった。
「……必ず、太陽を取り戻す。」その言葉は、解析室の静寂に吸い込まれ、
弱い光の揺らぎとともに、静かに響いた。




