第1章 アビへの到着と再会
アビのドックに降り立った瞬間、
ジオは空気の冷たさに肩をすくめた。
太陽の鼓動が弱まった世界の冷たさが、
ここにも確かに存在していた。
胸の奥には、ダイの最後の言葉がまだ残っている。
「……揺れてる。太陽の鼓動が……
何かに触れてるみたいだ……」
あの“揺らぎの波形”を解析できるのは、
自分しかいない。
所長の声に込められた焦りと期待が、
ジオの背中を押していた。
人工太陽灯が照らす光は弱く、どこか頼りない。
アビ全体が、太陽の衰えをそのまま映したような
静けさに包まれていた。
所長の研究室は、以前よりもずっと
雑然としていた。
壁一面に貼られた太陽脈動の波形グラフは、
どれも乱れた線を描いている。
その上から、所長が何度も書き込んだ赤いペンの跡が重なり、必死に太陽の声を聞き取ろうとした痕跡が痛々しいほどだった。
中央の卓上には、ダイが使っていた端末がそのまま残されていた。
画面には最後に送られた
“揺らぎの波形”が固定されている。
ジオは思わず指先でその波形に触れた。
「……ダイは、この揺らぎを
“鼓動の乱れじゃない”と言っていた。」
所長の声は低く、疲れが滲んでいた。
「何かに触れている。そう言ったんだ。」
所長は机の端に積まれた資料を押しのけるようにして、ジオに一枚の紙を手渡した。
それは、ダイが事故の前日に書き残したメモだった。
“周期の乱れは外的要因?
太陽内部では説明できない。
生活圏のリズムと一致する箇所あり
——要再確認。”
ジオは息を呑んだ。
「生活圏の……リズム?」
「そうだ。アビやセレの生活音、鼓動、振動……
ダイはそれらと太陽の脈動が“共鳴している可能性”を疑っていた。」所長の目は赤く、しかし強い光を宿していた。
「ジオ。ダイの残したこの揺らぎを、君に託したい。」ジオは静かに頷いた。
そのとき、研究室の扉が勢いよく開いた。
「所長! 鉄肉の培養槽、また一つ止まりました!」大きな声が響き、ジオは思わず振り返った。そこに立っていたのは――
ジンだった。「……ジオ?」ジンは一瞬、目を丸くした。「ジオ!? なんで研究室にいるんだよ!」ジオは苦笑した。
「呼ばれたんだ。太陽の揺らぎの解析で。」
ジンとは幼なじみであり、学生時代の同期だ、研究室は別れていたが仲が良く、行動を共にする悪友だった。サッカーで汗を流したこともあったっけ。
ジンはジオの肩を掴み、嬉しそうに揺らした。
「おいおい、久しぶりすぎるだろ! 研究室で再会とか、らしくねぇな!」所長が咳払いをした。
「ジン、鉄肉の状況は?」
「ああ……最悪です。太陽光が弱すぎて、
培養が追いつかない。生活区画も寒くて、住民が疲れ切ってます。」
ジオはその言葉に胸が重くなるのを感じた。
(アビも、セレも……限界が近い)
ジンはジオを見て言った。
「研究室だけじゃ分からないことが多いぞ。
生活区画、案内するよ。現場を見たほうがいい。」ジオは頷いた。その選択が、
思いがけない再会へと繋がることを、
このときのジオはまだ知らなかった。




