第10章 ジュリーの心の中
ジオはタワーの最上階に立ち、
冷凍レーザー試作機を太陽へ向けて固定した。
外殻の窓から見える太陽は、
弱い光を震わせながら、
まるで助けを求めるように揺らいでいた。
「……待ってろ。必ず安定させる。」揺らぎパルスの送信準備が整うと、
マナから通信が入った。
「ジオ、全家庭の音響端末が接続完了したわ!
セレ全住民の揺らぎパルスを送れる!」
「よし……始めるぞ。」
ジオは冷凍レーザーの主電源を入れた。
青白い光がゆっくりと収束し、
太陽へ向けて細い線となって伸びていく。
その光は弱々しいが、
確かに太陽へ届いていた。
「揺らぎパルス、送信開始!」
研究区画の端末が一斉に点灯し、
セレ全家庭の音響パルスが束ねられていく。
生活音。
笑い声。
泣き声。
鼓動。
祈り。
怒り。
希望。それらが冷凍レーザーに重ねられ、
太陽へ向けて送られていく。太陽の揺らぎ波形が反応した。「同期率……70……80……90……!」研究員たちが歓声を上げる。
「いけるぞ……! 太陽が反応してる!」
しかし――同期率は 99% で止まった。
端末が赤く点滅する。
「……ダメだ。あと1%が届かない!」
「セレ全員の揺らぎを使ってるのに……なぜだ!?」ジオは歯を食いしばった。
「太陽は……“純粋な心”を求めている?。」
研究員たちは言葉を失った。
「純粋な心……そんなもの、どこに……」その時、通信端末が鳴った。画面に映ったのは――
マナとジュリーだった。
ジュリーは不安そうに、しかし真っ直ぐジオを見ていた。「ジオ……太陽さん、まだ苦しんでるの?」ジオは息を呑んだ。
「……ジュリー。君の揺らぎが必要だ。」マナは驚き、娘を抱き寄せた。
「この子が……太陽を救うの?」ジオは静かに頷いた。「太陽が求めているのは、恐れでも怒りでも欲望でもない。未来を願う心だ。」
ジュリーは小さく手を握りしめパルス装置の前で、
さらに小さな紙を抱えていた。
その紙には、色鉛筆で描かれた絵があった。
マナ「ジュリー……太陽に、あなたの気持ちを届けていいのよ。」
ジュリーは首を振り、紙を胸に抱きしめた。
「……ことばじゃないの。」
マナは膝をつき、ジュリーの目線に合わせた。
「見せてくれる?」ジュリーはゆっくりと紙を差し出した。ジュリーの絵紙には、二つの影が描かれていた。ひとつは──
優しく微笑む“パパ”の影。
輪郭は柔らかく、太陽の光のような黄色で塗られている。もうひとつは──
少し離れた場所に立つ“ジオ”の影。
青い線で描かれ、どこか寂しげだが、
その周りには小さな光の粒が散っていた。そして中央には──
二つの影の間で揺れるように描かれた、
小さな女の子の影。その影は、
片方の手を“パパ”へ、
もう片方の手を“ジオ”へ伸ばしていた。しかしどちらにも届いていない。
その線は、
震えていた。
マナは絵を見た瞬間、
胸が締め付けられた。
「……ジュリー……これ……」
ジュリーは小さな声で言った。
「まえにすすむひかりと……ここにのこるかげ……
どっちも……たいせつなの。」
マナは息を呑んだ。
言葉ではなく、絵で示された揺らぎ。
その揺らぎは、
“未来”と“過去”の間で揺れ続ける波形だった。太陽の揺らぎと、
完全に同じ構造を持っていた。
アビのタワー最上階。
ジュリーの絵から送られた揺らぎ波形を見つめながら、ジオは胸の奥が熱くなるのを感じていた。
──ジュリーは、マナの未来を願っている。
──そして、亡きパパを忘れたくないと揺らいでいる。その揺らぎは、
ジオ自身の心にも重なるものだった。最後の1%が動き出す解析端末が反応する。研究員
「波形が……変わった……!」
「これは……純粋な揺らぎ……!」
「太陽が……応えている……!」同期率はゆっくりと、しかし確実に上昇していく。99.1% → 99.3% → 99.6% → 99.8% → 99.9%
ジオ
「ジュリー……
君の揺らぎが……太陽を動かしている。」
同期率は──
99.9%で止まった。研究員
「……あと少し……!
最後の一押しが……必要だ……!」ジオは拳を握りしめた。「ジュリー……
君の絵が……太陽を救う。」




