18 宴席のお供に守護者はいかが?
ガルの抱える料理人たちの腕は一流。繊細な食事から豪快な肉料理まで対応可能。繊細な食事は王族食堂のシェフが、豪快な肉料理は兵士食堂の肝っ玉かーちゃんが担当。
まだ現役のエシュリアは獣人族ということもあって肉肉肉肉~な食事でかーちゃん飯に大変満足し、キャリア終盤のファーレンやディングトゥは上品な食事を堪能。いいことだ。
食事はいい雰囲気のまま進行し終了した。その後全員宿泊するということでその後立食形式に切り替わっての宴席が開始。え、なんで宴会? ねえ? 何かの陰謀?
「ケイタさん、いろいろ言いたいことがあると思うけども」
ルテリアさんが耳元で囁く。
「基本、暇なのよ。なのでチャンスがあれば飲む。そういう人たちなの」
「……あー……まあこんな状況でなければ、閑職、ですものねえ」
「そ。これくらいしか娯楽はないから、ね。で、今回は気をつけてね」
「……酒の肴にならないように立ち回り、がんばります」
「物分りの良い子って私、大好きよ」
ルテリアさんが頬にキス。美人からされるのは嬉しいものです。が、なにかの殺気を感じて振り返る。フィーラさんがいた。ふるふるしてる。
「ケイタさんの、ばかーっ!」
「お、夫婦喧嘩か?」
エシュリアがこっちに来る。
「違います。まだ夫婦じゃないです」
「訂正するのそっち……デスカ……」
「ええ、重要です。実質夫婦と本当に夫婦、では天と地どころではない差があります」
なんかエシュリア気弱だな……なんでだ? “最後の砦”なんて二つ名があるのに。疑問は即解消するに限る。
「ところでエシュリアさん。なんか最初とだいぶ違う感じがするのですが」
「あ……いや、その……俺より握力強い男が初めてだったので……その……お、お友達から始めてもらっていいですか?」
「もちろん、こちらこそよろしく」
外交ルートの強化はヴァーデンにとってのプラス。手をとって握手する。ビクつくエシュリア。
「大丈夫ですよ。親愛の情の握手です」
「親愛。うふ、うふふふふ、うふふふふふ」
尻尾がパタパタするエシュリア。獣人族って心が見えやすいので大変なときもあるだろうけども、でも、いいなあ、こういうの。
……視界の隅に、怒りの波動を検知。波動パターン確認。発生源、フィーラさん。なぜだ。
「ケイタさんの浮気ものー! ばかーっ!」
とすっ、と左ボディフック。浮気者……だと……。こんなにフィーラさん一筋なのにひどい。浮気者扱いされたので仕返しに効いたフリしてみることにした。
「ぐっ……」
腹を両手で抑えて前にのめり、膝をつく。かなりな勢いで体を倒し、頭を床につけてうずくまる。しばらく固まった後倒れて転がる。ふふふ、渾身の演技。
「ぐっ……がはっ……」
重ねて幻影で吐血を演出。あ、量多すぎた。ま、いっか。
「え、え、え、やだ、やだ、やだやだやだケイタさん死んじゃやだごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
取りすがって泣くフィーラさん。パニック可愛い。
なんだなんだと観客が増える。が、みんなニヤニヤしてる。いやそりゃまあ歴戦の勇者だしなあ。さて、どうするかな。うーん……。
「ちゃっちゃちゃーーーん! ドッキリ大成功!」
立ち上がって両手をピン、と差し上げグリコのポーズ。同時に幻覚解除。
べそかいてたフィーラさん、目をまん丸くした後、げんこつでぽかすか叩いてきた。
「ばかばかばかばかばかばかばかばか」
「はい、バカですよ~バカですよ~」
「……夫婦喧嘩か。なんだつまらん」
「そこの竜殺し殿、夫婦喧嘩ではありません!」
「ほう?」
「まだ結婚していないので痴話喧嘩です!」
「……ケイタ殿、あんた、アホだな」
「お褒めいただき、ありがとうございますっ!」
「……ケイタさん、最初に言ったわよね? 立ち回りに気をつけて、って」
「原因を作った人に言われたくない……」
「あ、あれー? そうでしたっけ?」
「そうでしたよ」
ルテリアさん視線を逸らす。回り込んで視界に入る。また逸らされたので脇腹をつつこうとしたその瞬間にルテリアさんが動く。
ふにゅん。
「……あ」
「あらーあらあらまあまあ、ケイタさんったらダ・イ・タ・ン♡」
「え、あ、す、す、すいませんすいません決してそんなつもりはなく」
「うふふ、いいわよ別に。私は気にしないけど……あの子はどうかしら、ね」
「どうせ私はお母様よりおっぱいないもん! ケイタさんのばかーっ!」
高らかに貧乳宣言されたのちボディにいいやつ貰いました。誰だ打ち方教えたの……すげえ痛えぞ……。
「お、フィーラ、腰の入ったいいパンチだ」
エシュリア、あんたか……。
「いまのは不幸な事故だったのに……あーもう! 大きさなんて関係ないの! フィーラさんがいいの! フィーラさんじゃなきゃやなの! わかりましたか!」
「えーおっぱいはサイズと張りだろう。バインバインだぞほれほれー」
煽ってくるエシュリア。フィーラさんの目つきが鋭くなる。
「あんたはただの友達。なんなら友達も辞めた上で潰すぞコラ」
「あ、え、あっ……調子に乗りましたごめんなさい」
あのね、その耳と尻尾反則すぎる。それ以上怒れなくなってしまうのよね。
ほんの少ししか付き合いがないけどもエシュリアはいい意味悪い意味両方のガサツ、なんだろうなあと思う。
出会う順番が違えば……んーないか、ないな。
失礼な想像してたらにへっとエシュリアが笑う。この人笑顔は可愛い。やっぱガサツすぎて残念美女なんだよなあ。
ガルとファーレンが端っこで会談中。手合わせしてるからわかるんだけど、ガルもかなりの手練れ。きっと高度な武術談義かな?
「ガルグォインヴァーデンズィーク、婿殿は異界の人と聞いたが」
「まだ、婿候補、ではありますが、そうですね。異界の男です」
「グァースの力を持つものではあるが、またずいぶんと思い切ったことを」
ファーレンの言葉にガルは眉をぴくっと動かす。あ、怒ってる。酒入ってる分キレが鋭いぞこれ……。
「竜殺し殿。貴殿は伝説級の武器で切腹をしたことがあるかね?」
「……は?」
「貴殿は伝説級の武器で切腹をしたことがあるかね?」
繰り返した。あー、こりゃガル激怒してる……あちゃー……。
「……いや……」
「でしょうとも。我が婿殿は伝説級の武器との契約において娘を護るためにその武器で切腹をするほどの男ですぞ」
……やめてその話は。死にかけて超怒ってたじゃんあんた。っていうか婿殿に格上げすんな。
「あー、ガルグォインヴァーデンズィーク、飲み過ぎですよ」
割り込み、話を強制中断させる。
「私は! 私は!」
「はいはい、奥方様がお呼びですよ。何事も過ぎたるは及ばざるが如し、です」
ガルをルテリアさんのところに渡し、ファーレンのところに戻る。
「すみません。このところいろいろとありまして、ずいぶんと悪いお酒になってしまっていたようです。後ほどお詫びに伺わせますが、何卒ご容赦くださいますようお願い申し上げます」
「……ふむ。じゃあ儂とお前で組手じゃ組手。それで儂は許すぞ」
「本日はファーレン様もお酒をお楽しみになられているようですし、また後日ということででよければお願いいたします」
「約束じゃぞ」
うわー、竜殺しとやり合うのか……俺生きて帰れるかなあ……。
視界の片隅でフィーラさんとエシュリアが喋っているのが見える。その組み合わせも危険だ。様子を伺う。
「そうなんですよぉ、エシュリアぁ。あの人ったら敵には容赦なくビシビシ攻め込むのに、私には、私には……」
「あー、そりゃしょうがねえだろ。フィーラ細いしちっこいからな」
意外な組み合わせだと思ったんだけど、実は仲が良かったのね。それはいいんだけど、フィーラさん、かなり、飲んで……る……?
「で、フィーラ、お前、どこまでヤッたんだ?」
「えー、うふふふふふ。ちゅーしましたー。ケイタさん優しくて、上手なんですよー」
……フィーラさん? あなた一体何言ってるんですか?
「おー。で、どんなチューだ? 大人チューしたのか?」
「……ふええええぇん!」
フィーラさん、絡み酒っぽいのでそっと離脱することに。巻き込まれたら死ぬ。確実に。
隅っこの方で語り合ってるルテリアさんとディングトゥのところに避難。
「お、来たな婿殿」
「いや、まだですよ、ディングトゥ様」
「まー、いつもよりはマシだけど、ほぼいつもどおり。毎回こんな感じなのよねー」
「ルテリアさん……一応、国の代表の正式な会食……ですよね?」
「ここに派遣されるのはねえ……まあ、言うなれば暇人なのよ。うち、資源しか価値ないし」
「はあ」
「そうなるとやることないから司令達もこんな雰囲気になっちゃうのよ」
「いやほら、今回は目的が! 目的が!」
「……頑張れ、婿殿」
ルテリアさんにも見捨てられた。
「なんだ、婿殿で合ってるんじゃないか」
「ちーがーいーまーすーまだ結婚しーてーいーまーせーんー」
「いつやるんだ?」
「みなさんに納得してもらったので後はグンダールの侵攻軍をぶっ倒したら、です。はい」
「そうか。アルピナは支援するぞ」
「ありがとうございますディングトゥ様」
「結婚式の衣装とか、でいいかな?」
「グンダール討伐じゃなくてそっちかよ……」
一瞬でも感謝した俺が間抜けじゃないですかやだー。
「あー、ケイタさんはっけーん」
……発見も何も、同じ部屋にいたでしょフィーラさん。
「んふふふふふふー、えいっ」
ジャンプして抱きつこうとしてきた。避ける。
「なんで逃げるんですかぁ。なんでですかぁ」
「……だいぶ、飲んでますね?」
「飲んでませんよー」
「酔っ払いの酔ってないは信用しないことにしてるんです」
フィーラさんが目を見開き、ポロポロと泣き始める。
「ケイタさんが私を疑ってるー嫌われたー」
め、面倒くさい……。
「嫌ってませんよ」
ふわっと抱きしめる。腕の中で上目遣いで俺を見る涙目フィーラさん。やめろその表情俺が死ぬ。
「ほんと?」
「ほんとですよ」
「じゃ、ちゅーして」
「……」
「して」
おでこにちゅってしてやる。
「ちーがーうーそーこーじゃーなーいー」
フィーラさんは顎を上げ目を閉じて待機中。周りの視線が集まる。
「はーやーくー」
「ルーテーリーアーちょーーっぷ!」
ルテリアさんのチョップがフィーラさんの後頭部に。頭抱えてしゃがみ込むフィーラさん。
た、助かった……。
でも結局宴会のシメでみんなの前でちゃんとちゅーするはめになりました。理不尽だ。




