17 国際会議という名の婚約発表会
夕食会前。最後の資料チェック中。
ヴァーデンに駐留するリッザ・アルピナ・フェーダのそれぞれの長のプロフィールを見る。
リッザの駐留軍の長は“竜殺し”ファーレン。二つ名となった戦いで左目を失うも齢500を超える古火竜を屠ったという人族の男性。隻眼の戦士はどうしても距離感の問題がでてしまうため前線に置けなくなりヴァーデン駐留軍の長を任命された、らしい。
アルピナの長は“機械人形の破壊者”ディングトゥ。魔術師の実験で暴走した10mサイズのゴーレムをミスリルハンマーで破壊した人族の男性。やはりこの戦いで左肘と左肩をやってしまって曲がらなくなり、上がらなくなってしまった、と。左利き寄りなので日常生活では少し困る程度ではあるものの戦士としては一線で活躍できなくなり、こっちに来た、と。
フェーダの長は“最後の砦”エシュリア。どのような戦局に投入されても最終的に生還し、任務を達成する獣人族の女性。その活躍から敵も多いせいでこんな閑職に回された、と書いてある。
基本、普段のヴァーデンの駐留軍は「いること」が重要なので閑職なんだよなー、って理解した。
まさかのグンダール侵攻でちょっとややこしい役職になってる。
そしてエシュリア。獣人族は初めてなのでどんな方なのかなーとちょっとドキドキしている。
「ケイタ、そろそろ来るぞ。グァースの姿で迎え入れるのか? どうするんだ?」
金糸銀糸の細かな刺繍が入れられたシャツ。なんでもヴァーデンの正装なんだそうだけど、すごく衣装に着られている感。でも最後の胸ポケットの名前の刺繍はフィーラさんのお手製。読めないんだけど、でもそれだけで宝物。
「このままで行くよ」
「まずは、最後の砦からだ。獣人族は初めてだな? びっくりするなよ?」
「最初に最後が来るってのも、なかなか、だね」
城の馬車を横付けできるエントランスに、ガル、ルテリアさん、フィーラさんが扉前に並び立つ。俺は三人から三歩くらい下がって、更に扉より外側のエリアに立つ。
ごく普通の馬車が横付けされる。ドアがバーンと開いて、すごい勢いで人が飛び出してきた。こっちに。
ジャンプしながら頭を狙っての左フックが飛んできたのが見えたので右に躱して様子見。
長い赤い癖っ毛。頭頂部から少しズレたところに耳。短めのスカートから犬の尻尾。あー、獣人族って、パッと見人間に尻尾と獣耳ってところなんだ。へー。
「ガハハハ、こりゃあすげえ。お前、今見てから跳んだだろ」
振り返って俺に手を伸ばし、勝手に手を取ってブンブン握手する。クリクリとした目、大きな口。全体的には野性味あるタイプの、美人っていうより愛嬌のある人。
「はあ……」
「後で組手やろうぜ組手」
「エシュリアさん、うちの娘の婿候補にいきなり何するんですか!」
ルテリアさん怒ってるのをガルが右手で制する。
「えー、婿候補なのかー。いなけりゃ俺がもらっていくのに」
「だめですっっっ!」
フィーラさんが怒ったのを見てエシュリアがまたガハハと笑う。
「俺と喧嘩して持ちそうなヤツやっと見つけたんだがなあ。残念だぜ」
「……だいぶ失礼な人ですね」
握手をぐっと握り返す。
「お……お、お、お」
握り返してくるエシュリア。更にこちらも締める。
「いいねえ、いいねえ。久しぶりに歯ごたえのある男に会ったよ」
最近わかったことがある。普段、生活をしていく上で俺には多重のリミッターがかかっている。危険が迫ると徐々にリミッターがはずれるが、意識することで数段飛び越えることができる。
これも神々の配慮、らしい。常にフルスロットルじゃ俺のエネルギーも周囲も持たないってことなのだろう。
とりあえず今回は4段飛ばした。このあたりから化物ゾーン。
「がっ……ぐっ……まいった……」
解放。しゃがみ込むエシュリア。
「ケイタ!」
ガルに窘められるが、無視してエシュリアを見下ろす。
「フィーラさんに敵対するものは、潰す」
静かに告げる。潰されかかった右手を左手で揉みほぐしていたエシュリアの尻尾の動きを見た。これ以上いじめるのはかわいそう……かな。
「ようこそ、エシュリア司令官。さあ、中にどうぞ」
にこやかに右手を差し出し、立つ手伝いをする。
次に来たのは“竜殺し”ファーレン。齢65、そろそろ人生も終末期。だがそれを感じさせぬ偉丈夫。175cmある俺よりも頭一つ以上デカい。2m超えだな。横幅については俺の倍。筋肉の塊って感じだけど、動きを見ているとすごくキレがいい。とんでもない化物爺さんだ。
このファーレンも何故か俺の前に来て上から下まで見て、肩をバンバン叩く。
「ふむ。いい躰にいい氣が満ちておる。強いな、お主」
「それはどうも」
軽く会釈。
「夕食後、組手を希望するぞ」
「すでに本日一戦“最後の砦”とやっておりまして……さすがにもう一戦はご勘弁願いたいのです」
「く、あの狼め……次は儂だぞ」
「はい、また後日に」
ガルが歓待し、中に控えていた城詰め兵士が控室へ案内していったが、何度も振り返りコッチを見てる。いや、そんな顔されましてもね、もう今日は打ち止めです。はい。
最後に“機械人形の破壊者”ディングトゥ。この人も真っ直ぐ俺のところに来た。だからね、ここの主はガルなんですよ?
背丈はほぼ俺と同じ。幅も同じくらい……65kgくらいかね。記録によると今年で47歳。そろそろ晩年、だろうけども、まあ、この人もしばらくは死なない気がする。鋭い目で上から下まで見て、ガルの方へ歩いて行った。
「これはいい婿殿をもらったな。ガルグォインヴァーデンズィーク」
フィーラさんの口元緩んでる。
「ディングトゥ様。まだ私は結婚しておりませぬが……」
目つきが鋭くなるフィーラさん。
「……いずれするのだろう? ならば婿殿でよかろう」
ニコニコするフィーラさん。
「そうですね。生き残れば、ですが」
泣きそうになるフィーラさん。
「死ぬつもりも、死ぬこともないだろうよ」
つまらなそうにディングトゥは言うと館の中に案内され入っていった。
「この後、会議して会食。俺の立ち位置はどうする?」
「フィーラの婚約者」
ガルの言葉に嬉しそうなフィーラさん。
「えー」
「フィーラルテリアヴァーデンの敵は殺す、ならそれ以外の選択肢はないだろう」
「そうかなあ? ファンクラブ会員番号1番とかありじゃ」
「往生際の悪い。なんかうちの子が欠陥品みたいじゃない」
ルテリアさんがため息混じりに言う。
「いや、俺が欠陥品なんで……人として駄目なんじゃないかなって常に思ってるんです」
それを聞いたルテリアさんがさらに怒る。
「うちの娘が選んだ男がそんなポンコツな訳ないでしょ⁉︎あんた何言ってんのよ」
「あ……すみません。そこまで考えが至りませんでした」
「ケイタさん、自己評価低すぎなのよねえ。大変よ、フィーラ。大丈夫?」
「ケイタさんじゃなきゃいーやーでーすー」
いつも俺の魂を救ってくれる人たち。この人たちのためなら、俺は、死ねる。
「あ、今ケイタさん死んでもいいとか思いませんでしたか?」
「……なんでわかるんですか?」
「そりゃあ、愛しているから、です」
フィーラさん、可愛いけど、愛が重いです……。
定例ではない、臨時会合。議題はヴァーデンに再び降り立ったグァースの真意について。
場所は城内の小さな会議室。8人座れる程度の大きさの円卓。そこにファーレン、ディングトゥ、エシュリアという今は閑職にあるがそれぞれの国の英雄。
圧が、圧が……挫けそうになる心を奮い立たせる。ここを乗り切らなければ、フィーラさんのためにも。
「ふむ。フィーラルテリアヴァーデンの婚約者のクリハラケイタ、お前がグァースだと」
ファーレンが俺を見る。
「はい、そのとおりです」
「……門前で見た限りでは、確かに良い戦士ではあるとは思うが……測定がそれではよくわからん」
ああ、それを指摘されると辛いです。
「そもそも、グァースはとてもグァースとは思えない身体値であった、と報告にある。値も書かれておりこのようなものではないはずだ」
ディングトゥが報告書を右手で叩きながらの指摘。ええ、それもそうですね。
「んー、でも俺は信じるね。俺に握力で勝つなんて化物以外にグァースなんて化物がもう一人いた日にはうちも戦略の立て直しが必要だ」
エシュリアが腕を組んでウンウン頷きながら言う。
「俺、そういう戦略立て直しが面倒くせえので、クリハラケイタがグァースでいいよ」
「大雑把なところは直したほうがいいと思うぞ」
ディングトゥに指摘されるが、口笛吹いてごまかすエシュリア。いや、一応国際会議だよね? ね?
「……とりあえず、証拠をお見せしましょう」
ポーズを取り【変身】、その後【偽装】。
「おおおぉぉぉぉぉぉ! かっこいい!」
エシュリアのテンション爆上がり。
「なーなー、それどうやってやるんだ、教えろ!」
……くれぐれもいいますが、国際会議です。
「どうやってやるも技能なので……」
「えー、つまんねえなあ」
「ふむ……記載の身体値だな……実際の身体値はどうなのだ?」
「それは、その……すみません、お話できかねます」
俺の身体値がぶっ飛んでいるせいで非公開、という話をここでするのは問題が多いだろう。
「すみません、解除してもいいですか?」
「まて、報告に合った黒い刃の刀とは?」
ディングトゥはよく俺のことを調べている。
「ディルファのことですね。あれは……呼び出した後は血を吸わねばならぬ危険なもの、です。できれば召喚したくはないのですが……」
「ふむ……なるほど。いや済まなかった」
解除する。
「で、クリハラケイタとやら。我々を呼びつけた理由はなんだね?」
竜殺しの鋭い目がこちらを射抜く。
「私の、グァースの持つ力をどう使うか、の説明のためです」
「そりゃお前、グンダール殲滅だろ」
「……はい、そうです……」
あっさり言われ困惑する。
「儂が小さい頃一緒に遊んだフィーラ姉さんが選んだ男だ。真っ直ぐに突っ走るだろう」
「え、えーーー!」
「なんじゃ知らんかったのか。そうかそうか。ふふふ、いいだろう。儂はフィーラルテリアヴァーデンの幼い頃を知っておるぞ」
「ぐぎぎぎぎぎぎ」
「話して欲しかったら組手じゃ組手。お主が勝ったら聞かせてやる」
フィーラさんを見る。ふるふる左右に首を振る。深呼吸。
「大丈夫です。本人から後で聞きます」
「あ……しまったその手があったか」
この爺さん、絶対一度どっかでぶん殴ってやる。




