第6話『輝く瞳! アリのお姫様!?』その1
「ああ、なんて美しい」
地底の底、グラスセクトの拠点。グラスセクトの王女・グルヴェイグは先日の戦いの映像に見入っていた。
「互いが互いを見つめる瞳……その輝き! どうして世界というのは、これほど愛に満ちているのでしょう。まさかご学友までメガネっこに変身してしまうだなんて!」
「ええ、まったく。まさかでございます姫」
側近であるバッタの怪人グラスホッパーが、険しい視線を映像の中のメガダッシュに向けた。
「まさか二本目のメガネグラスがこの世界に持ち込まれていたとは……。もしや例の悪魔は、『対のレンズ』のことにも気がついているのでは?」
「そうかもしれませんわね」
アリの姫は悲しそうな瞳で映像に写り込んでいるタコの幼女ネルネを見ました。
「悪魔から救って差し上げなくてはいけませんわね、メガイインチョー……わたくしの対となれるかもしれない人……♡」
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第6話『輝く瞳! アリのお姫様!?』その1
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昨日、風太郎と一緒にグラスセクトと戦った小山の上の廃神社。今日あらためて、二人でやってきました。
「『ただす』メガネっこ、メガイインチョー!」
変身してポーズを決めました。
「なんで名乗ってるんだ!?」
とまどう風太郎に、私はとうとうと説明しました。
「変身したほうがいいからですよ! この散らばった木の破片。とても中学生の力では片付けることができません。ですが! 変身すればスーパーパワーでラクにお片づけできる! という算段です。しかも変身すれば、私たちの姿は一般人には見えなくなります。安全でもあるわけです!」
「オレが聞いてるのは、『名乗り』が必要かどうかのほうなんだけど!? はあ。まあ、わかった。確かに変身したほうが早そうだ。グラスアップ」
風太郎の姿が瞬間、青い光に包まれました。光り輝く風太郎の体。制服が光の粒子に変わり──ううん? ──そしてセーラー服に似た魔法少女服がまとわれていきます。
風太郎がメガダッシュに変身しました。
「よし、じゃあ始めるか」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なんだよ」
「……今、一瞬裸になってませんでしたか……!?」
「え!?」
メガダッシュが赤面しました。
「見たのかよ!?」
「や! はっきりとは……その、光ってましたし? でも体のラインは見えちゃってたような……」
「見るなって!!」
「わ、わたしだってですね! 見たくて見たわけでは……いや、見たくて見たのかもしれないけど……」
と、私は恐ろしい可能性にぶちあたりました。
「あの……もしや……もしやですよ……? 私のもその……見えてましたか……?」
メガダッシュが慌てふためいて首を横に振りました。
「いや! 見てない! オレは見てないから! だってそもそも、燈の変身するところ、直視しないようにしてたし!」
「私の変身シーン、見てなかったんですか!?!? なぜ!?!? 変身バンクは大事じゃないですか!!!!」
「何に怒ってるんだよ!? い、いいからはじめるぞ! 門限前に終わらせなきゃだろ!?」
それもそうなので、私はしぶしぶ戦闘の残骸を片付け始めました。
さて、今私たちが片付けをしているこの廃神社。実はとても懐かしい場所でした。昔よく風太郎と遊んでいた場所。
見回していて、気がついたことがありました。
「なんだか、前よりきれいになってませんか? いや、今は木の破片がちらばってしまいましたけど……雑草とかもっと生えてた気がしますし、社務所だってもっと土で汚れていたような。
「まあ、オレがたまに掃除してたからな」
「”掃除してた”?」
メガダッシュが風の力で細かな葉っぱを集めながら言いました。便利。私の家にも欲しい。私の能力は炎ですからね。あまり家では使えません。
じゃなくて。
メガダッシュが、ここを掃除していた経緯を話してくれました。
「この山の麓に喫茶店があったろ? ここはもともと、あそこのマスターの親戚がやってた神社なんだ。今は別の場所に神社が移ったらしいんだけど、ここだって誰かが手入れをしないといけないみたいでさ、今はマスターが管理してるんだ。で、オレはマスターに頼んでさ、ここの掃除を手伝うかわりに、たまに遊びに来させてもらってるんだ」
「風太郎……じゃなかった、メガダッシュってそういうところ、ちゃんと交渉できてすごいですよね」
「そんなことないだろ。っていうか、そのメガダッシュ呼びは何? 別に風太郎でよくない」
「変身後は、なるべく変身後の名前で呼びたいんです。すると変身後に変身前の名前で呼ぶイベントがよりエモーショナルになるので」
「たまに何言ってるかマジでわからなくなるときがあるな……」
変身して片付けをしたことで、大きな破片はすばやく片付けが終わりました。
あとは細かな葉っぱとかだけということで、私たちは変身を解いて仕上げをはじめました。
「おや? こりゃまたなんだい? 竜巻かなんかあったかなあ?」
エプロン姿で痩身のサングラス男性が、境内に来ていました。 境内の隅に片付けられた木々を見ていました。私は片付けに夢中で気がついていなかったようです。
「あ、ああのっ、ご、ごめんさい! 片付けを、してて……その」
「お邪魔してます、マスター」
風太郎が男性に声をかけました。ああ、この方が例の。
「おー、風太郎ちゃんじゃない! 毎度悪いねえ。あれ? メガネにしたんだ」
風太郎は変身できるようになってから、変身メガネ『メガネグラス・ブルー』を常にかけていました。
「あ、そうなんすよ。あ、そうだ。紹介する。さっき言ってたマスター。マスター、こっちは──」
「あ、あの! 私、風太郎の友達で明鏡燈といいます」
「君が噂の子か! 風太郎ちゃんの幼馴染っていう……娘がそんなことを言ってたよ」
「娘?」
私の疑問に答えたのは、隣の風太郎でした。
「律つん先輩、昨日会ったろ。先輩の親父さんなんだ」
「挨拶が遅れちゃったね。宮内律の父です。この下のグラスコーヒーってカフェのマスターでもある。ホントだよ」
マスターがサングラスを押し上げました。
「グラスコーヒーだけにサングラスなんだ。なんつって」
……はい。
「面白ければ笑っても良いよ」
「ごめんなさい」
「あははは、冗談だって! それより二人とも、掃除疲れちゃったでしょ? 残りはいいよ、おじさん後でやっとく。コーヒーでも奢るから下に来なよ」
「帰ったよー」
「おかえり~。あらお客さん? いらっしゃいませ~」
マスターに着いていき、小山の麓のレトロな喫茶店に入りました。痩身の中年女性が、店のテーブルを掃除していました。
「どっか適当にかけちゃってよ。この時間はお客さんほとんど来ないし。香ちゃん、その子風太郎ちゃんのお友達だって!」
「あら、そうなの? やだ、お姉さんうれしいわ」
お姉さん……。いえ、やめておきましょう。私もいずれ通る道かもしれません。
「はい、アイスコーヒーで良かったかな。シロップとか砂糖とか、テーブルの端にあるから適当に使っちゃって。風太郎ちゃんはブラックで良かったかな」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうっす、オーナー」
出されたアイスコーヒーを見ます。凝ったコップに注がれていました。ガラスが細かく面を切られ、さながら黒い宝石のような輝きです。
「すごく、綺麗なグラス……」
「でしょお!?」
得意げにマスターが食いつきました。
「料理もコーヒーもさ、そりゃ一番大事なのは味だよ。でも見た目だって、綺麗にしてあげたいじゃん? まあ、味も大事だけどね」
マスターが言外に飲んでくれと言っているので、コーヒーに口をつけました。正直実は、あまりコーヒーは得意では──
「あれ……おいしいです」
「良かった! あれっていうからおじさん一瞬ドキドキしちゃった」
「本当においしいです。すっぱくなくて……」
「しっかり手間かけてあげればさ、コーヒー豆だってまるくもなるってもんさ。いいね! 嬢ちゃん、見る目がある。目じゃないけど」
コーヒーを飲みながら、私は部屋の中を見渡しました。年季の入った建物。壁には、昔の神社らしい写真も飾られていました。
「ここのコーヒーうまいだろ。オレも、正直ブラックコーヒーは苦くて苦手なんだけど、ここのは不思議とそのまま飲みたくなるっていうか」
「本当うれしいこと言ってくれるじゃない、風太郎ちゃん。でも嬢ちゃんも、いきなりブラックで行ったね」
「ああ、燈は昔からそうなんすよ。苦いのは得意みたいで」
頷きました。
「祖母が濃いめのお茶を淹れるので。苦いのには慣れてしまいました」
「そっか。明鏡さんって言ったっけ? もしかして、明鏡さんのおじいちゃんって市長をやられてた?」
「あ、祖父をご存知だったんですか?」
「まあ、いろいろお世話になったからね。そっかあ、明鏡さんのお孫さんが風太郎ちゃんの幼馴染だったとはねえ。世間は狭いなあ」
コーヒーを飲みながら、私は上の神社に思いをはせていました。
風太郎と出会った場所。そして、はじめて風太郎と二人で戦った場所。
「あの、風太郎から、たまにあそこを使わせてもらってるって聞きました。私も、たまに来てもいいですか? 掃除でもなんでもします」
「もちろん! 掃除も手伝ってくれるなら大歓迎! 人に頼むのもお金かかっちゃうしねー」
マスターがサングラスを下げて直接私を見ました。
「大事なのかな? 君にとっても、あの場所が」
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「あー、今日は転校生がいます~」
金曜の朝、先生が唐突に言いました。
「中途半端な時期に来るなあ。普通、新学期すぐとかじゃないのか?」
風太郎が言いました。まあ転校生にもいろいろと事情があるということでしょう。
引き戸が開き、少女が入ってきました。
モデルのようなスラリとした長身。黒く艶やかな長髪。そして知的さが感じられる黒ぶちのメガネ。琥珀色の優しげな瞳が、一目で育ちの良さをアピールしていました。
「では挨拶をお願いします~」
「ごきげんよう。わたくし、姫乃コハクと申します」
お姫様みたいな喋り方しますね。
「姫乃さんは海外から来たばかりだそうです。みなさんいろいろと教えてあげてくださいね~」
「一目でわかりましたわ。皆様、素敵な方々ばかりです! どうぞよろしくお願いいたします」
姫乃さんが目をらんらんと輝かせながら、クラスを見回しました。
先生が学級委員である私に声をかけました。
「明鏡さん~。お昼休みにでも、学校内の案内をお願いしてもいいかしら?」
「はい、大丈夫です」
姫乃さんが、私に微笑みかけました。女の私ですらどぎまぎしてしまう美しさです。
「よろしくお願いしますわ、イインチョーさん♡」
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「あ、あの、姫乃、さん」
「はい♡」
「ちょっと、近くないですか?」
昼休み、私は姫乃さんと二人で校舎内を巡っていました。姫乃さんの距離が、立ち位置が……やたらに近いような。
「ごめんあそばせ、歩きにくいですわよね」
「ご配慮ありがとうございます」
「その、実は聞いてみたかったことがあるのですけど……」
姫乃さんが私の横顔をじっと刺すように見つめながらたずねてきました。
「『イインチョー』、というのはどういう意味なのですか?」
「そっか、姫乃さんは海外から転校してきたんでしたっけ。ええと……私は『クラス委員長』で……うーん、なんて言えばいいでしょうか、クラスのリーダー? というと大げさかもしれないですが……」
「リーダー! リーダーは知っておりますわ。皆の前に立ち! 皆のためにつくす人のことですわよね!」
姫乃さんの食いつきがやたらいい気がします。
「そのリーダー! イインチョーというものなのですね、明鏡さんは♡」
「ま、まあ、まわりから推薦されまして、成り行き上……」
「皆に選ばれたリーダー! 本当に素晴らしいわ!」
姫乃さんが、がっしりと私の左手を握りしめました。
うえええ。距離が近い! 海外ってこうなの?
「明鏡さん! あなたは素晴らしい方ですわね! わたくし、あなたのことが大好き!」
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「大丈夫か燈。顔がタコみたいに赤いぞ」
「あまり見ないでください。思い出し照れです」
「ネルネはタコじゃない!」
「いやネルネのこと言ったわけじゃないんだけど。ってネルネ!? なんで学校にいるんだ!?」
私と風太郎は、美術部の部室である美術室に向かっていました。ネルネもどこからともなく一緒にいました。
「ネルネはいつも近くいるぞ。いつやつら出てくるかわからない」
「そうかもしれないけど、騒ぎになるんじゃないか!?」
「ああ、それは大丈夫だと思います」
私が言いました。
「ネルネさんの姿は、変身した時の私たちと同じで普通の人には見えてないみたいなんです」
「それならまあ……いいのか?」
あらためて風太郎が話題を戻しました。
「で、何。思い出し照れって」
私は、風太郎に昼休みのことを話しました。
「それでそんなに照れたと?」
「照れたというより、びっくりしてしまったと言いますか。海外の人って距離の詰めかたがこっちと違うんだなあって──」
「どちらに向かっておりますの?」
「ほわああああああ!! 噂の転校生さん!!」
姫乃さんが、私たちの後ろにいました。
「ひめひめ姫乃さん! どうしたんですか? 迷子ですか?」
「迷子なのは燈のテンションだろ」
「風太郎は黙っていてください!」
姫乃さんは、もじもじと歯切れが悪く答えました。
「あ、いえ、迷子、というわけではないのですが……。帰ろうとしましたら明鏡さんのお姿が見えましたので、気になってしまって……」
風太郎が私に耳打ちしました。
「不安なのかもしれない」
「はえ? 不安?」
「そう。だって海外から来たばかりなんでしょ? 誰も知り合いがいないから、最初に親切にしてくれた燈を頼りたいんじゃないか」
「あ、そっか。……そうですね。転校の心細さは、私も知っていたはずなのに……」
私はあらためて、姫乃さんに向き直りました。
「えっと、これから美術部に見学に行くんです。姫乃さんは部活考えていますか? もしよかったら一緒に行きませんか?」
「一緒に、ですか? 是非!」
いつの間にか、ネルネはいなくなっていました。
次回予告! 燈と風太郎のクラスにやってきた謎の転校生! その正体はいったい!? ……まあだいたい想像通りだと思います。
第7話『輝く瞳! アリのお姫様!?』その2
毎週土曜と日曜日あさ8時30分更新




