第15話『ふたりでメガネっこ!』その2
体に炎を走らせて、周囲の糸を燃やし尽くしていきます。炎は一気に燃え広がり、繭本体すら焼き尽くしました。
「私の名前は! 『ひかる』メガネっこ! メガイインチョー・プロミネンスです!」
足場が無くなったことで、私たちは落下していきます。私は地面に着地し、姫乃さんは柱の上に降り立ちました。風太郎がネルネに支えられながら歩み寄ってきました。
「無事か!? 燈! って熱っ!!」
私の周囲の熱気に、風太郎があとずさりました。
「あかり! 燃えてても平気なのか!?」
「そういえば、大丈夫みたいです。なぜかはわからないですけど……」
《現在のメガイインチョーのグラスは3 常にメガグラスアップ状態の出力です》
常に、必殺技状態ということですか。しかし不思議と、不安はありませんでした。
風太郎が私から身をチラチラとそらしていました。
「それも気になるけど……その……目のやり場に困るんだが……」
今の私は、たしかに『すんごい格好』をしています。スカートは完全に炎そのもので、時折奥に体のシルエットが見えます。上半身はほとんどビキニと言って良いです。
しかし不思議と、風太郎の前では平気でした。
「風太郎!」
「は、はい!」
「これが私です! 長い付き合いになるでしょうから、慣れておいてください!」
「は……なんだそれ!? え、長い付き合いって……その……」
「おしゃべりはそこまでですわ! わたくしを無視しないことです!」
姫乃さんが、柱の上で声を張り上げました。
「グラスアップ!」
姫乃さんが半人半虫のメガネっこ・メガグラスセクトに変身しました。
「『正す』メガネっこ・メガグラスセクト!」
「姫乃さん!? ってかあっちも変身するのか!?」
初めて見た風太郎が驚きの声をあげます。メガグラスセクトがメガネをさらに押し上げました。
「グラスハートロッド!」
ガラスの杖をかまえ、メガグラスセクトが飛び降りました。杖の一撃を、自分自身の左腕で防ぎます。衝撃で、私の足元が地面に軽くめり込みました。
「以前のあなたなら、よけたはずです!」
「試してみたくなったんです! 今の私の力を!」
右手でパンチを放ちます。アリの姫はそれを杖で流し、後ろに距離をとりました。
「風太郎! 攻撃が来ます! 離れていてください!」
「メガグラスアップ」
琥珀の輝きがグラスハートロッドに集中しました。振り下ろされ、必殺の一撃が来ます。
「グラスハート・アースクエイク!」
衝撃波の壁が、メガグラスセクトを中心に放たれました。後ろを逃げる風太郎たちのためにも、絶対に相殺しなくてはなりません。
「グラス4! グラスアップ!」
《グラスアップ グラス4に移行します》
炎が両手に灯ります。私自身の燈! なりたい自分にふさわしい、意志の結晶をこの手に!
《イインチョーナックル 生成しました》
私の両手に、先端が点火したピンク色のメリケンサックが出現しました。
力を込め、迫り来る壁に全身で右ストレートを放ちます。
「メガストレイトォォォォ!!!」
拳圧が、壁に円形の穴を穿ちました。衝撃波が四散し、私は思わずにやりと笑いました。
メガグラスセクトが、杖を両手で握りしめてわなわなと震えました。
「いやですわ……嫌ですわそんなの!! メガイインチョー、あなたに似合っていません! あなたの戦い方はもっと高貴だったはず! 頭脳的だったはず! それが……それがどうしてこんな!?」
「悪かったですね、姫乃さん。これが私のなりたかった私です!」
「認めません! わたくしがあなたを正します! メガグラスアップ!」
杖に再び力を込めて、メガグラスセクトが接近してきました。近接型の必殺技と見ました。こちらも今度こそ近接で迎え撃ちます。
「グランドハァァァトブレイク!!」
振り落とされた杖を、交差した握りこぶしで受け止めます。
「そちらが必殺技を連打できるのであれば!! こちらは常に必殺技です!!」
「なぜですの!? いつからそうなってしまったのですか!? あなたはもっとお淑やかで、思慮深くて、理想的な『正義の味方』だったはずですわ!!」
「それはあなたの勝手な期待です! あなたが勝手に色眼鏡で見ていただけ! 私はこういう人間なんです! いくつになっても子供じみた夢を捨てられない、正義の味方に憧れた、正義の味方にはなれない人間! だけど!」
それでも認めてくれる風太郎がいました。ネルネとの出会いという、幸運がありました。
そして今、本気でぶつかり合える姫乃さんを前に、私は喜びを隠しきれないのです。正義の味方なら、それを喜ばないかもしれない。でも『正義の味方に憧れている私』は、どうしても喜んでしまうのです。
「私は、そんな私でいると決めました!」
両手を突き上げて、グラスハートロッドを跳ね飛ばしました。
メガネのブリッジに手を構え、必殺の一撃を構えます。
「メガグラスアップ!」
《メガグラスアップ 承認しました》
進化した自分すら焦がすほどの灼熱が、両手に宿りました。炎がメリケンから溢れ出し、巨大な火の玉となっていきます。
「メガネっこ・オーバーロードプロミネンス!!」
太陽のような巨大な炎の塊! 反動で、私自身も後ろに吹き飛ばされそうになります。
炎は地下洞窟の天井を覆い尽くし、一時本当に太陽が昇ったように空間を照らし出しました。
やがて光は徐々に弱まっていき、焦げた匂いが充満します。
私は変身を保っていられなくなり、生身に戻ってよろめきます。私の肩を、風太郎が支えてくれました。
「やったな! 燈!」
「そうですね……これで倒せていなかったらと思うと──」
「倒せた、と思いまして?」
柱の上から響いた声に、私はもはや諦観すら感じていました。
見るとメガグラスセクトは悠然と柱の上に立っていました。
「まあ、想像以上の力でしたと褒めておきますわ。せっかくのお揃いの鎧も焦げ付いてしまいましたし……」
確かにメガグラスセクトの琥珀色のドレスは焼けていました。しかし黒い鱗に覆われた四肢は、変わりなく艶やかに輝いていました。
「よくご覧なさい。この洞窟を。この柱を。焦げ付いてはいても、崩れたりはしておりませんわ。大地とは堅くゆるぎないもの。そして私の能力もまた大地……。まあ、メガネの年季が違うということでしてよ」
どうやらメガグラスセクトは、私が跳ね上げたグラスハートロッドを取り返し、その力で自身に地面の膜を張ったようです。熱を完全に防ぎきれたとは思いませんが、戦闘不能に至らせることもまたできなかった、と……。
「降伏を勧めますわ。私が次にこの杖を振るえば、ニンゲンでしかないあなたたちは助かりません。降伏なさい! そして今度こそ、わたくしの仲間になるのです! メガグラスアップ!」
金色の光が杖からほとばしり、林立していた巨大な柱を地面から引き抜いていきます。引き抜かれた柱を天井付近に構え、メガグラスセクトは最後の選択を私たちに迫りました。
どう考えても、防げない。私は肩を落とし、風太郎とネルネを見ました。
「これは……ダメ、でしょうか……」
「さっきまでの威勢はどこに行ったんだよ、燈」
「ですが……先ほどのが、私の嘘偽りない全力でした」
風太郎がかぶりを振りました。
「そうかもしれない。でも……『オレたちの』全力じゃない」
「オレたち?」
「ずっと不思議だった。どうしてあいつらは、燈にここまでこだわるんだろうって」
そういえば、なぜでしょうか。姫乃さんは、自分と対になってほしいというようなことを言っていた気がします。
対。
ふたつ……?
「ネルネのお姉さん……がどんな人なのかオレにはわからないけど、でもそのお姉さんも、メガネをふたつ作ってネルネに託したんだよな?」
「そうだ。元々、ネルネのメガネもねーねとセットのもの」
と言ってから、ネルネの胸についた計器がピコンと光った。
「ふたつ……ふたつだ!! あかり! ふうたろ! メガネっこはセカイを見ることで、セカイの力を引き出す! ならば! メガネっこの力は! 別のメガネっこに見られることで増幅される!!」
再び勇気が湧いてきました。バラバラだった点が、私の中でも一本につながっていくのがわかりました。
「そうか……! そうだったんですね! やっとわかりました! 私たちは、『ふたりでメガネっこ』なんだ!」
「いけるはずだ! オレたちなら! メガネは『かける』ものだろ!」
「……えっと?」
風太郎が赤面しました。
「なんで急に察しが悪くなるんだよ!? こういう言葉遊びは燈の方が得意じゃんか!」
「あ、そっか。メガネをかけると、力をかけあわせるをかけたのか」
「解説するなよ!?」
「では、必殺技の掛け声も今のうちに決めておきましょう!」
「なんでだよ!?」
「タイミングがずれたら嫌じゃないですか」
相談を続ける私たちに、流石に苛立ったらしいメガグラスセクトが怒鳴りました。
「結局どうするんですの!? 手を上げ続けるのも、なかなか疲れるんですのよ!!」
「待たせましたね! 私たちの答えは、これです!」
「「グラスアップ!!」」
ふたりを光の繭がつつみ、その姿を変身させていきます。
二色の光が輝き、私たちは『メガネっこ』に変わりました。
「メガイインチョー・グラス3プロミネンス!」
もう一度、ブレザーを脱ぎ捨てたグラス3に変身します。
そして風太郎──メガダッシュの姿もまた、変わっていました。風にたなびく白いマフラー。青のライダージャケット。
「それじゃあこっちは! メガダッシュ・グラス3ホッパーだ!」
そう言って、風太郎がからりと笑いました。
「グラス3、なれると思った! グラス3の燈の姿、ばっちり見えてたからさ!」
「相手の姿が見えるなら、相手と同じ次元にいるってこと……そうでしたね! ならば! 彼女が見える私たちにも、勝機はある!」
いかに絶望的な戦力差があると言っても、姿が見えている以上は遠くないレベルにはいるはずなのです。ふたりで一気に、その距離をつめましょう!
「それが答えなら、ふたり仲良く地の底に沈むのですね! グラスハート・ジャッジメント!!」
無数の巨大な柱が一気に降り注いできます。
「せーの……」
「「オメガグラスアップ!!」」
《《オメガグラスアップ 承認しました》》
互いに互いのメガネを押し上げ合い、真紅と紺碧の光が交差しました。私にダッシュのエネルギーが、ダッシュに私のエネルギーがそれぞれ放たれ、そして再び増幅して元の持ち主のメガネに帰っていきます。私の左手がダッシュの右手を握りしめ、右腕をメガグラスセクトにむけて伸ばします。ダッシュは左腕を、メガグラスセクトに向けました。
重ねた両手が架け橋となり、伸ばした腕はメガネのつる。そして私たち自身が、一人一枚の巨大なレンズ! 私たち二人は、ふたりで一つのメガネです!
「「メガネっこ・ツイングラスバースト!!」」
極大のビームが、レンズである私たちから放たれます。赤と青の光は、決して混ざることはなく、しかし離れてしまうこともなく、螺旋を描きながら柱の群れを粉砕していきます。メガグラスセクトが叫びました。
「これが……対のレンズの力!? 互いを見る力!? なんですのそれはうらやま──」
ビームは次の瞬間にはグラスハートロッドをかまえたメガグラスセクトを飲み込み、そのままの勢いで天井の厚い岩盤すら穿ちました。
ビームの直径と同じだけの穴が開き、赤い夕焼けが遠く地上に覗いています。
私たちは目線を交わしあいました。
今度こそ、私たちの勝利です!
次回。最終話!




