第10話『メガネっこ解散ですか!?』その1
空間に映像が投影されている。今までのメガネっこ達の戦闘映像アーカイブだ。バッタの怪人グラスホッパーが冷静に分析していく。
「メガイインチョーは優れた応用力があるが、反射神経に劣り、純粋な戦力としては未だ未熟。反面、メガダッシュは素早い身のこなしと強烈な攻撃力を持っているが、直線的な攻撃方法しか持っていない……」
プリンセス・グラスセクトが側近たるホッパーの働きに満足げに頷いた。
「どうなさるおつもりですか、姫。やはり彼女たちのどちらかを、『対のレンズ』まで育てるおつもりで?」
「わたくしの『対のレンズ』となれるとすれば、それはイインチョーさんですわ」
「……わかりません。あの娘のどこがそこまで姫のお眼鏡に叶ったのか。正直なところ意外です」
「いずれわかります。あの方は、とても『熱い』ものを内に秘めていますわ……本人もまだ気がついていらっしゃらないようですが、私にはわかります。……メガダッシュにも……風太郎さんの瞳にも、イインチョーさんの魅力が映っているようでしたわよ」
「メガダッシュがメガイインチョーを?」
ふふ、とプリンセスが優秀な部下を愛しげに見た。
「あなたはメガダッシュを気に入ったようですわね? グラスホッパー」
「そのようなことは」
「しかし……残念ですわ。彼には、諦めていただくより他ありません。イインチョーさんにふさわしいのは、このわたくしなのですから」
プリンセスの目の前で、培養液に入った二本のサングラスが不気味な黄金色に輝いた。
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第10話『メガネっこ解散ですか!?』その1
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「カ──ニ────────!!」
巨大なカニの怪物が、農道を疾走していました。グラスクラブといったところでしょうか。
「イインチョーク!」
市街地に突入しようというバケガニを、炎の軌跡で牽制しました。
「グラスアップ! グラスシューズ!」
《グラス2に移行します グラスシューズ生成》
メガダッシュが、動きの混乱したカニに蹴りを入れました。しかし
「かったいっなあ! もう!」
素早い蹴りを何度も浴びせますが、カニはびくともしません。
「ダッシュ! 相手の装甲は頑丈です! 私が視線を遮りますから、その隙にバングラスを直接狙ってください!」
「りょーかい!」
「メガグラスアップ!」
《メガグラスアップ 承認しました》
イインチョークをぐるぐると回し、螺旋の輝線を描きます。
「メガネっこ・フレイムトルネード!」
放たれた炎の渦が怪物を包み込みます。次はダッシュの番です。
「メガグラスアップ! メガネっこ・ブルーウィンドブレイク!」
ダッシュが駆け出し、怪物に向かって飛びかかりました。
ダッシュに炎が当たらないよう、私は能力を解除します。その瞬間、私は背筋が凍りました。怪物が、ダッシュを確かにその目に捉えている!?
「カ────ニ──────!!」
空中のダッシュを、カニの怪物はそのハサミで捉えてしまいました。胴体を挟まれ、ダッシュの足技は届きません。体を引き裂こうとする圧力に、ダッシュが絶叫しました。
「このっ……うがああああああ!!」
「ダッシュ! 今助けます!! メガグラスアップ!」
《メガグラスアップ 承認しました》
その瞬間です。メガネから迸った赤熱が、体を走りました。メガグラスアップはおそらく、一時的に出力を急上昇させるシステム。短期間での重ねがけは厳禁、ということなのでしょうか。
構っていられない! ダッシュが危ないんです!
「メガネっこ! イマジナリーブレイズ!!」
爆炎の不死鳥を虚空に描き出し、怪物に向かって飛ばします。怪物はダッシュを捉えることに夢中で、回避行動が遅れました。もう遅い! 炎は怪物のメガネを焼き飛ばしました。
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連日。連戦。連勝。いえ、辛勝と言ったところでしょうか……。
怪物が現れる頻度がここまでとは思っていませんでした。今では現れない日の方が少ないかもしれません。そして毎回、勝てることには勝てるのですが、ギリギリといったところで……。
今日などは、危険な二回目のメガグラスアップを使わざるを得ない状況でした。
「……ごめん。さっきは、油断した……」
「大丈夫です。それより怪我はありませんか?」
「燈こそ、大丈夫なのか? メガグラスアップって、二回目を使えるものなのか?」
「大丈夫です。あまり何度もは使えませんけど、今は心配いりません」
「……本当に?」
「あ、もう日が暮れてしまいますね! 門限がありますから、今日はもう帰ります。また明日、学校で!」
怪訝そうな風太郎を残し、家路を急ぎます。
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家に着くのが、門限より少し遅れてしまいました。緊張しながら、声をかけます。
「ただいま帰りました」
「燈か」
やばい、と緊張します。父がもう帰ってきている。
「遅くなってごめんなさい」
「最近、遅い日が続いているようだが」
「大したことじゃないんです、図書室で勉強するのに夢中で……遅れないように、気をつけます」
言うだけ言って、そそくさと自室に向かいます。このまま話せばどんなぼろを出してしまうか。あの人はそういうところはすぐに見つけてしまいますから。
「あかり。メガグラスアップの二度目は、もうやるな」
「やっぱり、無茶でしたかね……」
ネルネが私に言いました。
布団に倒れ込みます。倦怠感がひどい。
「メガグラスアップは、一度までなら安全装置で耐える。二度目は危険が危ない。三度目は……死ぬかも」
「私のこと、心配してくれているんですか」
「死ぬのは困る! あかりも! ふうたろも! シカク者は簡単には見つからない!」
ネルネがすがるように私の布団のそばに手をつきました。
私の心配、というよりは自分の心配にも聞こえますが、本気であるのは間違いがなさそうでした。きっとこの子は、どうしても復讐を遂げたいのでしょう。
「……さて」
自分に喝を入れて起き上がります。予習、復習は学生の本分。
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「明鏡さん。明鏡さん?」
「……は、はい、先生?」
「あなたが居眠りなんて珍しいわね? 寝不足?」
私は跳ね起きました。国語の授業中……私、いつのまに眠って……?
「加賀美君も! 隣の席どうしで寝ない!」
「あ痛っ」
パン、と教科書の面で風太郎の頭がはたかれました。
「な……なんか、燈のときと対応違くないっすか……先生」
放課後になりました。一度眠ってしまったからでしょうか、そのあとは睡魔に襲われることはありませんでしたが……。
「イインチョーさん、お疲れですの……?」
姫乃さんが、一人になった私に声をかけてきました。
「いえ、ちょっと、はい」
「今日は、美術部には行かれるのですか?」
「いや、今日はないんです。月金だけだから。今日はもう帰ります」
「……気をつけてくださいね。ごきげんよう」
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「話って?」
いつもの神社。私は風太郎に呼び出されていました。彼は神社の境内を箒で掃いていました。
「あ、手伝います」
「いいよ。燈は、休んでた方がいい」
「ですが」
「今日は、そのことで、話がな……」
風太郎は、今日は一度も私の目を見てくれていません。
「燈、無理してるだろ」
「無理だなんて、そんな……それを言ったら風太郎だって」
「オレが授業中に居眠りしても、それはただの不真面目な生徒ですむ。実際先生もそんな感じだったろ? でも燈は違う。みんな心配する。……オレだって、心配してる」
返す言葉がありませんでした。私だってバカじゃない、それくらいわかっています。
「……だから、しばらく変身して戦うのはやめた方がいい。その間はオレが代わりに戦うから」
「そんな簡単なことじゃないって、風太郎もわかっているでしょう?」
危険だと最初に言ってくれたのは風太郎です。変身して戦うことの危険性を、私以上にわかっているのは風太郎でしょう。
「私が最初に変身したいなんて思わなければ、風太郎がこんな危険なことに巻き込まれることもありませんでした。これは私が勝手に始めたこと……その戦いに、親友だけ命をかけさせるだなんて、そんなことできません」
「……燈ならそう言うだろうなって……まあ、思ってたけど……」
そう答える、風太郎の表情は沈んでいました。どうして? なぜそんな悲しい顔をするんですか?
耐えきれず、私は風太郎に背を向けて歩き出しました。
「とにかく、あなただけを戦わせたりしません。今日はもう、帰ります。この話はまた今度に──」
私の足が止まりました。
心臓が早鐘をうちました。なぜ? なぜこんなところに? そんな、ここに来るはずがないのに──
神社の入り口に、父が立っていました。
「お前が考えていること、当ててみよう。『なぜこんなところに? いるはずがないのに……』」
エスパーですか、この人は。
「だがな、それは私もまったく同じ気持ちだ。いったいなぜこんなところにいる?」
「パパ、その誤解です。私たちはちゃんとここの管理人さんに許可をとって……」
「管理人? ああ、そうか……そういうことか」
動けない私に、父は容赦無く近づいてきます。どうしよう。何と言えばいいのかがわかりません。私は図書室で勉強しているはずなのに。どうすれば、どう言い訳すれば、どんな嘘なら父の目を。ぐるぐると頭が混乱しました。頭だけじゃなくて、足元も……。
倒れそうになった私の肩を、父が抱きとめました。
「……お前が何かを隠していたこと、私が気がついていないとでも思っていたのか。気がついていたさ。お前が学校から帰るなり、倒れそうになっていることも。そんな状態でも、必死に成績を落とさないよう勉強していたことも。その努力を認めていたからこそ、できる限り声をかけないようにしてきた」
父は私を、悲しそうに叱りました。
「だが今のお前はなんだ! 今にも倒れそうじゃないか! 成績より何よりも、大事なものがあるとどうしてわからない!? 倒れたら、元も子もないだろう!」
「パパ……」
涙が、溢れ出してきました。厳しいけど優しくて、どうしようもなく……『正しい』……。
父は、私の後ろで立ち尽くす風太郎にも気がついてしまいました。そして、メガネの下の目を丸くしました。風太郎が何かを悟ったように顔をそらしました。
「加賀美風太郎か。また娘を連れ回していたのか? この子に無理をさせたのも君なのか? この子がそこまで体力のあるほうでないこと、君だって『よくわかっていた』はずだ……!」
父が怒っている。風太郎に近づいていきました。
「パパ、違うんです。誤解です! むしろ私が無理をさせてるんです! 風太郎も何か言ってください!」
風太郎は、私の方をちらりと見て、そしてすぐ視線を逸らしてしまいました。
「ごめんなさい。燈のお父さん。オレが、負担をかけてしまいました。あとは、オレ一人でやれます」
なぜ!? なぜ風太郎が謝るのですか!? 謝ったら、父に対して認めたようなものじゃないですか! 一人でやるって!? 私の気持ちはどうなるんです!
「……もう君も帰りなさい。あまりうちの娘を巻き込んでくれるな」
お父さんは踵を返して、私に近づいてきました。私の肩を、強く抱き寄せました。
「帰るぞ。早く休んだ方がいい。いや、一度病院で診てもらうべきか……」
風太郎、本気なのですか。
本気で、自分一人で戦うつもりなのですか……? 私のせいで?
私は、ふがいなさに涙が止まりませんでした。
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校舎の外周。風太郎は走っていた。基礎体力をつけなおしたい、というのはある。だが、走らずにはいられないというのが本当のところだった。
が、疲労ばかりはどうしようもなく、普段なら絶対につまずかない小石で派手に転倒した。
「ガキみてえな転び方だな、加賀美!」
「と、冬馬! 見てたのかよ!」
ランニングをする風太郎を、いつのまにか冬馬が観察していたらしい。
「そんな走り方じゃ、俺には勝てねえぞ」
「うるさいな! 冬馬に勝ちたくて走ってるわけじゃない!」
「無駄に力入りすぎだっつってんだよ! そのくせ、ちゃんと地面を見てねえ」
「今より強くならないといけないんだ。そうじゃなきゃ、あの人の力になれない。これくらいの努力……なんてことないから」
「意味わかんねえけど」
「意味わかんなくていいから、冬馬は」
「だとしても、今やってんのは『努力』とはちょっとちげえぞ。てめー、ふらふらしてたじゃねーか。そういう時は、ちゃんとペース考えろ」
「……お前、誰!? 冬馬じゃないだろ! 冬馬はそんな頭いいことは言わない!」
「喧嘩売ってんのか!! 上等だコラ、また決闘でもするか!?」
冬馬は風太郎に指を突きつけました。
「俺だって律っつんに口すっぱく言われたんだよ! とにかくだ! 無理すんな! 無理したって俺には勝てねえからな!」
そう言って、冬馬は走り去って行きました。
「……それが言いたくて来たのか、あの陸上バカ……」
そう言った後で、風太郎は擦りむいた膝をさすりました。
「無理でもなんでも、やらないといけないだろ」
次回予告。一人で戦う決意を固めた風太郎の前に、プリンセスグラスセクトが現れる。
激突! メガダッシュVSグラスホッパー!
第11話『メガネっこ解散ですか!?』その2
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