聖騎士の中の聖騎士
ならもっと強くなれ
そして自分を磨け
それでしか、男の悔しさは払拭出来ない
鑑賞用魔法:https://www.youtube.com/watch?v=kdfz02F-8Oo
~リザードマンの村近くの塩湖~
全力で馬を走らせて逃走するミーナの後ろから、ロベールは白馬を駆り猛追する。
「なんという馬術……!!」
「だけど、僕も死ぬ気で訓練して来たんだ!!」
ロベールは馬の腹を蹴り、更に追撃のスピードを加速させる。
ミーナは背後を振り返って一瞥する。
(……クソッ!!)
(スタートダッシュで引き離したのに、もう直ぐそこまで追い付いて来てやがる!!)
(例え童貞でも、聖騎士は聖騎士か……!!)
ミーナはホルスターから赤いリボルバーを取り出し、振り返って連続でロベールに向かって撃つ。
ロベールの身体を神聖文字による魔法陣が包む。
「神聖魔術発動!!」
「《アクセラレート》!!」
ロベールは神速の手綱捌きで射線を躱し、流れ弾を斬り払った。
ミーナは立て続けに弾を放ったが、全て躱されるか斬り落とされてしまった。
「ヒュゥ!!」
「童貞のクセにイカしたマネしてくれるじゃねぇか!!」
ミーナは赤く光る蛇腹剣を抜き、斬り合いに備える。
ロベールは神聖文字が入ったロングソードを、澄んだ青い瞳と共にミーナへ向ける。
「覚悟しろ!!赤髪の傭兵!!」
「デウス・ウルト(神がそれを望まれる)!!」
「覚悟なんか、何時もしてらぁ!!」
ミーナは赤く光る蛇腹剣を鞭の様にしならせ、背後のロベールに向かって放った。
ロベールは剣の先でミーナの蛇腹剣を弾き、更に馬を加速させる。
「ヒャハッ!!」
「前だけ見てるとソンするぜ!?」
ミーナは手首を返して蛇腹剣をしならせ、弾かれた切っ先の軌道を変える。
剣はロベールを縦に回り込んで、彼の首元へ向かって行く。
「──もう奇策は食わない!!」
ロベールは身を咄嗟に屈め、蛇腹剣の切っ先を躱した。
しかし、彼が見上げた先には、馬へ必死にしがみつく銀髪の少女しか居なかった。
「!?」
「馬から引きずり降ろしてやるぜ、白馬の聖騎士サマよ!!」
ミーナは剣を放り捨て、ロベールへロンダードで飛び掛かりながら、腕を背後から彼の首へ巻きつけ、抱えるようにして一緒に地面へ転がり落ちて行く。
「──くっ!!」
ロベールも負けじとミーナの肩を掴み、マウントポジションを取ろうと体を回転させる。
二人は塩と砂の混じった浅瀬へ共に転がり落ち、ロベールの青い兜も吹き飛ばされた。
ミーナの緑色の瞳がロベールのうなじを捉える。
(──今だ!!)
彼女は彼の背後から即座に腕を回す。
そして裸締めで、彼の頸動脈を締め上げた。
ロベールは立ち上がろうと足を動かすが、ミーナの両足が彼の足に絡みつき、仰け反らされてしまった。
「まだだ……!」
ロベールはミーナのチョークを剥がそうと、彼女の腕を掴んで声を絞り出す。
「神聖魔術発動……」
「《フォティチュード》……!」
彼の腕と指の力が増して行き、ミーナの腕が少しずつ剥がされて行く。
しかし、ミーナは彼の耳元で静かに囁く。
「剛力の魔術か……」
「……だが、残念ながらタイムアップだ、白馬の聖騎士サマ」
ロベールの青い瞳から色が失われ、手足から力が脱けて行く。
「父上……母上……クロエ……すまない……僕はまだ弱い……」
ロベールは完全に気を失い、ミーナは彼の下から脱け出した。
ミーナは気を失ったロベールを砂洲まで抱えて引き摺り、乱れた金髪の髪を整えてやった。
そして、落ちていた彼のロングソードを彼の側に置き、赤い蛇腹剣を鞘に差して彼の乗って来た白馬を追い掛け始めた。
~10分後~
「おい!起きろ!ロベール!!」
ガスコーニュは、鷹の様な黄色い目をロベールへ向けながら、彼を抱き起した。
「ガ、ガスコーニュ……殿……」
「あの赤髪の傭兵は……」
ガスコーニュはロベールの問いに優しい眼差しで答える。
「……そうですか」
「僕は……負けたんですね……思いっきり……」
ガスコーニュは籠手に包まれたその大きな手で、彼の肩を軽く握りながら言う。
「だが、まだ五体満足で生きている」
「そして、この敗北は糧に出来る」
「お前は神に愛されてる方だ」
「……!!」
ロベールは青い瞳を大きく開き、目尻からは涙が溢れ出す。
ガスコーニュは彼の側で片膝を付き、目線を合わせながら言う。
「──悔しいか?」
「……はい」
「ならもっと強くなれ」
「そして自分を磨け」
「それでしか、男の悔しさは払拭出来ない」
「……!!」
ガスコーニュはロベールの背中を叩き、巨大なランスを持って立ち上がる。
そして巨体にも拘わらず軽々と黒い馬に飛び乗り、甲冑の黒いバイザー降ろして静かに言う。
「仇は取ってやるぞ、聖騎士ロベール」
「【ナイト・フォー・ナイト】と呼ばれた俺の実力、あの女傭兵に教え込んでやる」
そして、ガスコーニュは地平線を猛烈な殺気を以って睨み始めた。
「軽騎兵2騎は、ロベールを後方の歩兵陣地まで連れて行け」
「残りの重騎兵は俺と共に追跡を再開する」
「続け!!!」
「「「ハッ!!」」」
ガスコーニュの黒く筋骨隆々な馬は竿立ちし、猛スピードで駆け始めた。
~塩湖の端~
「追い付いたぞ!クリオネ!」
クリオネは一瞬ミーナの声で背後を振り返ったが、また馬の背に顔を埋めてしまう。
「……!!」
ミーナの馬はクリオネを乗せた馬と並走し、笑顔のミーナはクリオネを乗せた馬へと跳び移った。
「いやー!結構ヤバかったな!」
「久々の綱渡りだったぜ!」
クリオネは長い銀髪で顔を隠し、彼女の頬を涙が伝って行く。
クリオネは嗚咽を漏らしながら、その白い頬を真っ赤にして叫ぶ。
「ばか……!!」
「ミーナさんのばかぁ!!」
「なんで何も言わずに、聖騎士相手にあんな無茶な……!!」
「……ワリィ」
「思っていたよりも伸び代があるヤツだったモンでな……」
「素振りを見せて、こちらの意図を悟られたくなかった」
「だがお陰で、何とか倒す事には成功した」
「……殺したんですか?」
「いや、気絶させて置いて来た」
「帰りは町へのルートを変えるぞ」
「セレンから預かった荷物は抱えてるか?」
「……はい」
ミーナは笑顔で、クリオネの長い銀髪をわしゃくちゃに撫でる。
「良く堪えた!」
「あともう一息だぜ、クリオネ!」
「はい……!」
クリオネは涙を拭いながら、ミーナの胸から暖かさを感じ取った。
笑顔でクリオネを撫でていたミーナだったが、突如背筋に猛烈な殺気を感じて背筋を伸ばした。
「……ヤバいのが来る」
「多分ガスコーニュだ」
「え──」
ミーナは馬の腹を蹴り、速度を上げ始めた。
クリオネはミーナの胸の下から叫ぶ。
「幾ら相手が強くても、ミーナさんならきっと……!」
ミーナは首筋から額まで汗だくにしながら言う。
彼女の鮮やかな緑色の瞳は、珍しく焦燥感に揺れていた。
「ダメだ!」
「ヤツはあの金髪の若い聖騎士とは違う!!」
「ガスコーニュは20年戦争の序盤から終わりまでを生き抜いた、超大ベテランの聖騎士だ!!」
「超大ベテラン……」
「そうだ、現在の聖騎士団団長ラインバウトの直属で、数々の決戦を生き抜き……」
「教会や教都の危機を何度も救った、聖騎士の中の聖騎士だ!」
「傭兵の手口や手管なんぞ、知り尽くしてる!!」
ミーナが言い終わるか言い終わらない内に、地平線から黒い塊が砂埃を上げながら、重騎兵の集団が猛進して来る。
「ガスコーニュ殿!!赤い髪の女が見えて来ました!!」
「総員、《神の矢陣形》!!」
ガスコーニュの掛け声の元、黒い甲冑に身を包んだ16騎の重騎兵達は、一糸乱れぬ動きで錐行陣形を取って行く。
集団で重装備にも関わらず、ロベールに追跡された時より、ミーナ達とガスコーニュの距離は遥かに早いスピードで縮まって行く。
ミーナは手綱を握り締める。
(ちくしょう……!まるで、怒れる雄牛達に追い掛けられてるみたいな圧だ……!!)
(平地じゃ、この分厚い追撃から逃れるのは不可能に近ぇ……!!)
(どうすれば……!)
その時、クリオネが左前方にある、草の生えた巨岩群を指差した。
ミーナは即座に馬の走る方向を左へ変えて行く。
「──ナイス判断だ!!クリオネ!!」
「お前はきっと良い戦士になれる!!」
「わっ、私は傭兵になると決めた訳じゃないですよ!?」
「照れんなって!」
「ハアッ!!」
ミーナは岩場に向かって馬を飛ばす。
「ミ、ミーナさん!!このままじゃ岩にげきと……」
「物心付いた時から馬に乗ってんだ、心配するなって!」
ミーナは馬の腹を蹴り、そして手綱を引きながら道を塞ぐ岩を飛び越えた。
クリオネは内臓と脳の浮くような感覚に、身を震わせた。
その光景を遠くから見てたガスコーニュは、半ば感心した様に呟く。
「──やるじゃねぇか、荒野の傭兵」
「だがな!!」
ガスコーニュは巨大ランスを構え、後続の騎兵達も一斉にランスを構える。
「邪魔をする物全てを粉砕してこその、聖騎士だ!!」
「神聖魔術発動!!」
「《ブルートフォース》!!」
ガスコーニュ達は神聖文字の魔法陣に包まれ、岩に向かって突進して行く。
ガスコーニュのランスの先端が岩に触れると同時に、岩は轟音を立てて砕け散って行く。
「追い付いたぞ!!傭兵!!」
粉砕された岩の破片と砂塵が舞い散る中、追いついたガスコーニュの大きく低く響く声に応じ、ミーナは赤い蛇腹剣を抜いた。
ミーナの人種的・民族的・生活的イメージは、コサック・遊牧民とアメリカの西部開拓民が混ざったような感じをイメージしています。
健康的に日焼けした、彫がそこまで深くないコーカソイドの混血女性って感じです。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「期待している」「マジでカッコいいよ、ロベール……」
「ミーナすげぇ……」「ミーナは本当に優しいな」
「ガスコーニュとロベールの師弟関係が本当に好き」「ミーナとクリオネのやりとりが良い」
「ガスコーニュが強すぎ&迫力ありすぎてビビった」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。




