お坊ちゃん聖騎士
クリオネは売り物じゃねぇ
私の相棒だ。分かったらとっと帰れ、白馬の聖騎士様よ
鑑賞用魔法:https://www.youtube.com/watch?v=kdfz02F-8Oo
~リザードマンの村近くの塩湖~
ミーナとクリオネは塩湖と塩湖の間にある、細い砂州を歩いて行く。
「なるほど……塩が採れるからリザードマンはここに住めるんですね」
「みたいだな」
「あの鱗のツヤを維持する為には、塩が必要なのかもな」
「それか何かの儀式か」
ミーナは塩湖に指を入れ、掬って舐める。
「これを配給の薄粥に混ぜれば、ちっとは市民も元気になるかもしれないのにな」
「……食糧って配給制なんですか?」
「7~8割方の市民は事実上そうなってるな」
「市場で肉とか魚を当たり前の様に買えるのは、私みたいなリスクの高い仕事をしているか、自営で儲けているか、衛兵か、そして悪党と特権階級だけだ」
「パンやリンゴすら買えない貧民は、教会の施しに頼るしか無いのさ」
クリオネは北方連合の民達に比べ、町で見掛けた貧弱な体型の大人や子供達を思い出す。
「……充分とは言えないまでも、もっと食糧を行き渡らせる事が出来そうですけど……」
ミーナは紐を取り出して赤い髪を結び、ポニーテールにした。
鍛え込まれてはいるが、綺麗な首筋が露わになる。
「農地で収穫された作物や牧場で取れた肉、川で獲れた魚の行き場所は4つある」
「セレンみたいに自営業者が買い付けるか、市場の商人が買い取るか、教会や政府が税として持っていくか……そして……」
「【最果て盆地】だ。ここに肉や魚の3割は持って行かれる」
「【最果て盆地】……!」
「なんだ、知ってるのか」
クリオネは青い瞳を僅かに震わせる。
「お父様や将軍方が、いつもその存在に頭を悩ませていたのを覚えています」
「マルファ将軍が言ってました。1人で1000人と戦える、そういう怪物達を育てている場所だと」
「あー、それは【征服聖騎士】だな」
ミーナは水筒を取り出し、水を飲んだ。
「【征服聖騎士】……?」
「教会が飼っている、殺戮専門の聖騎士達さ」
「育成システムからして、通常の聖騎士達とは違うんだ」
「奴等が居るから、教会勢力は北方連合の先進的な軍隊・兵器と戦えてる」
「見掛けた事があるんですか?」
「ああ、戦場で何度かな」
「私と同じくらいの歳の薄褐色の女だったが、素手で敵の腕とか首とかバンバン千切ってたぞ」
「魔導戦車の装甲を素手で引き剥がしてた時は、流石の私もドン引きだったぜ」
「本当に人間なんですか、その人?達……」
ミーナは何かに気付き、剣の鞘を握る。
彼女の緑色の瞳が収縮し、左右に動き始めた。
「色々と黒い噂はある。奴等のメシにはヤバい薬や、禁制の魔鉱石とかが混ぜられてるとかな」
「牛馬のようにメシを食わされ、盆地に送られた捕虜や奴隷、罪人や異種族を使って殺しの練習をしているとか……」
「まぁ、基本関わらない方が良い連中だ。ありゃぁ人間じゃなくて【兵器】だ」
「ただ幸いな事に、基本連中は盆地から出ては来ない」
(《ドドドドドド……》)
クリオネは蹄の音に気付き、背後を振り返る。
彼女は、騎兵集団の先頭で白馬を駆る青い聖騎士を見た瞬間、その白い頬が引き攣り、身動きが取れなくなった。
「──!!」
ミーナはクリオネをその輝く銀髪ごとマントの内側に隠し、剣を抜いた。
「いいか、連中とは絶対に口を利くな」
「何を言っても答えは決まっている。イエスかイエスだ」
聖騎士と騎兵達は塩湖を踏み散らしながら、ミーナとクリオネを囲み始めた。
金髪碧眼の美男子は馬上で兜を脱ぎ、緑色の瞳で睨んで来たミーナと怯えるクリオネへ言う。
「【レイス王】の娘、《クリオネ・レイス》ですね?」
「我々と教都テトラグラマトまでご同行願いたい」
(……聖騎士には勿体ないぐらいの美男子だな)
(なんつーか良い匂いもしやがる)
ロベールは鐙から降り、爽やかな風を漂わせながら十字を切って言う。
「赤髪のご婦人、貴女の名は?」
「……ミーナだ」
警戒し緑色の瞳で睨んでくるミーナに対し、ロベールはその超イケメン王子様フェイスを輝かせながら言う。
「誤解しないで貰いたいのですが、僕は武力でレイス姫を奪う気はありません」
「彼女をこちらに引き渡して頂ければ、傭兵の護衛任務における通常の10倍の報酬をお支払い致しましょう」
「無論、傭兵ギルドへは教会側から事情を説明しておきますので、経歴にも傷は付きません」
「……珍しいな聖騎士にしては」
「問答無用じゃねーのかよ」
「僕は神の栄光と騎士団の名誉の元、正式に叙任された聖騎士です」
「栄光と名誉に恥じない振る舞いを、日頃から心掛けています」
「そして民と秩序、正義を護るのが僕の仕事でもあります」
「──つまりは、優等生のお坊ちゃん聖騎士か」
「あのガスコーニュも教育に苦労しているだろうな、こりゃ」
ロベールは表情を崩しそうになったが、その金色の髪を整える。
「ミーナさん、これは貴女に取っても得しか無い提案です」
「それにレイス姫を護りながら我々と闘おうとするのは、正気の沙汰では無いですよ」
ミーナは怯えて彼女の身体にしがみつくクリオネの頭を撫で、抱き寄せる。
そして、ミーナの燃えるような赤い髪が逆立つ。
「クリオネは売り物じゃねぇ」
「私の相棒だ。分かったらとっと帰れ、白馬の聖騎士様よ」
ミーナはロベールに向かって剣を突きつけた。
ロベールは余裕を崩さず、正しい決闘の作法で剣を抜き始めた。
「貴女も傭兵ならお分かりでしょう」
「長年に渡って訓練を積んできた聖騎士と、そうでない者との間には大きな差があると」
ミーナは下品な笑みを浮かべて言い放つ。
「御託は良いからとっとかかって来いよ、童貞騎士」
「女とヤるのは初めてか?」
「なっ……!」
ロベールの頬が、一瞬だけ怒りに囚われた様に赤くなる。
次の瞬間、ミーナの蹴り上げた砂と塩がロベールの眼を直撃した。
「ぐっ!?」
「既に勝負は始まってんだよ!!おぼっちゃん!!」
怯むロベールの顔面へミーナの跳び蹴りが直撃し、塩湖へ吹き飛ばされた。
周囲の騎兵達はクリオネを奪おうと、襲い掛かり始める。
「しっかり頭抱えて伏せてろ!!クリオネ!!」
「【レッドデビルズソード】!!」
ミーナの剣が赤く光り、剣が分かれて蛇腹の様に伸びて行く。
クリオネはミーナの言う通り、頭を抱えてサッとしゃがんだ。
ミーナは馬の頭を抑えて跳び上がり、剣を振りながらコマの様に空中で回転した。
「命の纏め買いだぜ!!ヒャッハーーー!!」
蛇腹の様に伸びた剣は騎兵達の首と腕を、次々と斬り飛ばした。
塩湖の中で立ち上がったロベールは目を擦りながら、ミーナへ向けて手を翳す。
「【ウォーターガン】!!」
「【サンドウォール】!!」
ロベールの掌から放たれた水の弾丸は、突如生えて来た砂の壁に打ち消された。
「!?」
「イイ馬揃えてるな!!」
「一匹頂くぜ!!」
ミーナは伸びた剣を戻し、クリオネを抱えて馬に飛び乗った。
「しっかり私に掴まってろ!!クリオネ!!」
「ハアッ!!」
ミーナは手綱を握り、馬の腹を蹴ってその場から逃走し始めた。
「──っ!!」
「逃がすモノかっ!!」
ロベールも剣を握って馬に飛び乗り、剣を掲げながら馬の腹を蹴った。
~2km離れた高台~
ガスコーニュは双眼鏡を下ろし、不敵だが温かい笑みを浮かべて言う。
「フン……」
「泥を舐めても喰らいつく根性はあったか」
「そうだ。俺達聖騎士は『それで良い』んだ」
ガスコーニュは巨大なランスを地面に立て、聖騎士のマントを脱いで従卒に渡した。
「男になり始めた新人の為だ……」
「久々に一肌脱いでやるか!!」
彼はランスを上に掲げる。
兵士達はその後姿を見て、喊声を上げ始めた。
征服聖騎士はコンキスタドールと薩摩武士、ナチス親衛隊、旧ソ連のプロアスリート、プロ格闘家、スパルタ兵、デルタフォースが合わさったような存在だと思って下さい。
平均身長は男性騎士で190cm以上、女性騎士で178cm以上の圧倒的な体格を誇っています。
その怪物の如き強さと体格のヒントは、ミーナの発言の中にあります。
ただ、彼等は体格以上にその精神が軒並み怪物級です。
人間を決戦兵器化して、最前線に投入する教会はマジで頭がイカレてるよ。
カロリーや栄養を金に置き換えて考えると、現代にも通ずる恐ろしい構図が見えて来るハズです。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「期待している」「想像以上に酷い世界だった」
「征服聖騎士とか、もう名前からしてヤバい」「マジで人間なの、そいつら……」
「ミーナがカッコ良すぎ&強すぎ」「ロベール君、結構根性あるな」「ガスコーニュの師匠ぶりが好き」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。




