リザードマン討伐(後編)
わぁ~~……!!
鑑賞用魔法(街から離れた岩石砂漠地帯から):https://www.youtube.com/watch?v=SSrdDzqUZ3M
~翌日・早朝~
~水車小屋の側にあるミーナの家~
「ふわぁあぁ~~……」
ミーナは欠伸をしながら目の縁を擦る。
クリオネは一生懸命彼女を引っ張るが、彼女の華奢な身体ではミーナの大柄な身体は数センチしか引っ張れなかった。
「もう!ミーナさんったら……!」
「暑くならない内に指定の場所へ行かないと……!」
「んな事言ったってぇ……」
「私、朝早く起きるのニガテなんだもん……」
「ちょっとかわいい……」
「いやいや……!」
クリオネはサイドに纏めた銀色の髪を左右に振り回し、必死で彼女を引っ張る。
「んいぃぃ~~……!」
その時、豆だらけのごつい手がクリオネの小さい手に重ねられる。
「引っ張る力が足りませんねぇ」
「懸垂をオススメしますよ」
その手はいとも簡単にミーナを引っ張り上げ、抱き留めた。
黒髪黒目の女は人形の様に整った顔を、笑顔で歪ませる。
「おはようございます、マイハニー」
「お目覚めのキスは如何ですか?」
「ありがとよ、シトマ」
「最悪の目覚めだぜ」
「『最高の目覚め』でしょう、マイハニー」
シトマは黒いセミロングの髪をサラリと払った。
ミーナは服を整え、装備や荷物を確認し始める。
「まさか、お前も付いて来るのか?リン」
「いえ、朝のニュースをお知らせしようかと」
「……なんかあったな」
「言ってくれ」
シトマは簡素な椅子を引き出して座った。
「昨日、聖騎士達が率いるリザードマン討伐隊が到着しました」
「討伐隊の出発は朝の7時」
「急がないと惨劇が起きますよ」
ミーナの緑色の瞳が鋭く光らせ、セレンから託された荷物を担ぐ。
「部隊を率いてる聖騎士は?」
「新米が一人、大大ベテランが一人です」
「新米の方だけならどうにか煙に巻く事が出来るんですが、この大大ベテランが厄介でしてねぇ」
「【ナイト・フォー・ナイト】のガスコーニュです」
「ぅわ……マジかよ」
「こんな田舎町に投入するようなヤツじゃねぇだろ」
「てか新人聖騎士の教育するにしても、もっとマシな場所あんだろ……教会は何考えてやがんだよ」
「さぁ、それは分かりません」
「しかし、ガスコーニュが投入される以上、教会上層部が動いているのは確かです」
「……ミーナ」
シトマは物憂げに目を伏せる。
しかし、ミーナは彼女の肩を掴んで、笑顔で言う。
「大丈夫だって!タダのお使いだ!!」
「普通に生きて帰って来るさ!!」
「知らせてくれてありがとな!!リン!!」
「マイハニー……」
「お別れのセッ……」
「セックスはしないからな!」
「でも……」
ミーナはシトマの頭を抱き寄せ、額にキスをした。
「キスぐらいはしてやるさ」
「帰って来たら、ナベアツ亭で食べ放題の大宴会だ!」
「胃を開けとけよ!」
「──」
ミーナはクリオネと目線を合わせ、熱に浮かされたようなシトマを放って家から出て行った。
~ミーナ達の出発より1時間半後~
~街の外の砂漠~
「全隊整列!!」
「これより岩山地帯に潜むリザードマン達の討伐に取り掛かる!!」
ピカピカの青い甲冑を纏ったロベールはガスコーニュが見守る中、討伐隊の前で声を張り上げた。
彼は言葉を続ける。
「僕は先鋒隊として騎兵の小隊を率い、先行偵察に出る!!」
「中軍と後軍はガスコーニュ殿が中継地点まで率いる!!」
「以上だ!!進軍開始!!」
ロベールは兵士達と共に馬に乗り、手綱を引こうとする。
そこへ重武装したガスコーニュが彼へ声を掛ける。
「ロベール!」
「初陣気張れよ!!だが力むな!!」
「いざという時は、俺が教えた事を思い出せ!!いいな!?」
ロベールは澄んだ青い瞳と共に、ガスコーニュの視線に答える。
「はい!!ガスコーニュ殿!!」
ロベールは馬の腹を蹴り、兵士達と共に砂漠を駆け抜けて行った。
~ロベールの出立から3時間半後~
~街から離れた岩石砂漠地帯~
「足元気を付けろよ!クリオネ!」
「落ちたら痛ぇぞ!」
「い、痛いで済むのはミーナさんだけです!」
「ヒャハハハッ!そうだったな!」
ミーナはクリオネの細い手を引き、難所を通り抜けて開けた場所に出る。
壮大な光景に、クリオネの青い瞳が輝いて大きくなる。
「わぁ~~……!!」
円卓の様な赤褐色の岩々と、その隙間から生える曲がった木々、塩湖、それらを囲む様に青空が広がっていた。
ミーナはフードを取り、赤い髪をたなびかせながら笑顔で叫ぶ。
「サイコーの気分だぜ!!!」
「ヒャッハァ~~~ッ!!!」
クリオネもミーナの真似をし、笑顔で思い切り叫ぶ。
「ひゃっはーー!!!」
スッキリしたミーナとクリオネは、円卓の様な岩場を歩いて行く。
ミーナはクリオネの細い肩を抱き寄せて言う。
「このお使いは楽しいか?クリオネ」
「はい!」
「こんな景色があるなんて……城に居る時は思いもしませんでした!」
「……城?」
「え?え?まさかの超お嬢様だったの??」
「……ミーナさん」
「【レイス王家】って知ってますか?」
クリオネの問いにミーナは目を閉じて首を捻るが、恐るべき事に答えが出て来なかった。
クリオネは目を見開いて驚き、悩むミーナを見て言う。
「まさか、自分の国が何者と戦争しているのかも知らないなんて……」
「あーホラ……私は【北方連合】って存在は分かるけど、その中身については良く分かって無いから」
「てか、同盟出身の傭兵達は皆似たようなモンだと思うぞ」
「えぇ……」
「小学校とか無いんですか?ほら、皆が一緒に義務的に同じ教育を受ける様な……」
「歴史とか、地理とか、物理学とか、算術とか、政治経済とか……」
「?」
「なんだそれ」
「軍事学校とか魔術学院とかはあるけど、そんなものは無いぞ」
「因みに私はあまりにも勉強が出来なさ過ぎて、魔術学院は中退したけどな」
クリオネは額に汗をかきながら、銀色に輝く毛先を握る。
「まさか……ロタリの教育レベルって……かなり低い……?」
「低い、っていうより格差が凄いってカンジかも」
「シトマなんて軍事学校を首席で卒業してるしな」
「女将はどっかの学校で、臨時の講師やってたみたいだし」
「うそぉ……」
「じゃあ、ミーナさんはコレでもかなり高い方だったんですね……」
「ショック……!」
「ショックってなんだ!ショックって!」
ミーナの傷だらけの手が、クリオネの輝く銀髪をわしゃくちゃにする。
しかし、クリオネはわしゃくちゃにされながらも笑顔だった。
「そろそろメシにするか!クリオネ!」
「女将に作って貰ってたんだよ!」
ミーナはクリオネを連れて日陰に入り、紫色の包みを取り出した。
「じゃ~~ん!」
「塩結びです!具はお楽しみらしいぜ!」
「シオムスビ……?」
「ああ、北方じゃ米は作れないんだったな」
「米を広げて、具を詰めて三角形に握るんだよ」
ミーナは包みを開け、塩結びを取り出した。
「おー!6つか!」
「奮発してくれたじゃねぇか!女将!」
「私が4つでクリオネ、お前が2つな!」
「ちょっ、ちょっとズルいですよ!ミーナさん!」
「ここは平等に3つずつじゃないですか!?」
「私の方が体がデカいから、これで良いんだよ!」
ミーナは強引に塩結びを頬張り始める。
しかし、3つ目を食べた時に顔色が変わる。
「──!」
「まさか、これ私がニガテな梅干し……」
彼女は途端に口をすぼめ、転げ回りながら悶える。
クリオネは川昆布の塩結びを齧り、クスクスと笑う。
「セレンさんはミーナさんの行動なんてお見通しみたいですね!」
「ふふふっ!」
「ち、ちくしょ~~!」
「おらー!お前も梅干し食え~~!」
ミーナは握り飯を割り、梅干しを取ってクリオネの小さい口に押し込んだ。
~同時刻~
~ミーナ達より5km離れた高台~
双眼鏡を構えていた兵士が、ロベールの元にやって来て片膝を付く。
「ロベール様!」
「怪しい二人組を発見しました!」
「一人は大人で一人は子供です!」
ロベールは馬上で双眼鏡を受け取り、兵士が指差す方向を覗く。
「──!!!」
「アレは記録石で見たレイス王の娘と、恰好こそ違えど瓜二つ……!!」
「情報は本当だったのか……!!」
彼はクリオネの横に居るミーナへ視界を移す。
「……アレは傭兵か?」
「まさか、護衛に雇ったと……?ギルドを通さずに……!?」
「しかし、支部の【要注意人物リスト】では見た事が無い……厄介な人物では無さそうだ」
ロベールは剣を抜きかけたが、彼はガスコーニュの『自分の五感を使え』という言葉を思い出す。
「……もしかしたら、交渉でどうにか出来るかもしれない」
「もし傭兵ならギルドと教会の名を出し、金を渡せばこちらの言う事を聞く可能性は高い……」
彼は兵士に双眼鏡を返し、兵士達へ言う。
「あの赤髪の女傭兵に追いつき、交渉の後レイス王の娘を捕縛する!」
「続け!」
ロベールは手綱を引き、見事な馬術で崖を駆け下りて行った。
~ミーナ達が休んで居る日陰~
「さ!そろそろ行くか!」
「あともう少しだ!」
「はい!」
ミーナはクリオネの引き、立ち上がらせる。
二人は荷物を背負い、強い陽射しの中を歩き始める。
「気になってたんですけど……」
「ミーナさんって右の上腕に刺青入れてますよね?」
クリオネは僅かに目線を逸らし、ミーナへ言った。
だが、ミーナは服を捲って笑顔で応える。
それは兜を被った髑髏を二つのダガーナイフが刺し、額にはΩの文字が刻まれたデザインだった。
「ああ、コレか……」
「アレは二十年戦争末期の時、傭兵部隊の仲間全員で同じモノを入れたんだ」
「兜は『背中を預け合う戦友との固い絆』、髑髏は死への『恐怖の克服と死んだ戦友達への想い』、ダガーは『殺し合いの覚悟』、Ωは『終わりをもたらす者』って意味だな」
クリオネは刺青を観ながら言う。
「……その部隊にはどんな人達が居たんですか?」
「魔導鎧使いで機械オタクのクライヴ、手品と空間魔術が得意なアリス、恋人思いの猟兵トラヴィス、鞭でマゾ男を躾けるのが大好きな自由騎士アントワーヌ……」
「アイツら、今頃何やってんだろうなぁ~~」
(最後の人に関しては、聞かなかったことにしよう……)
ミーナは服を戻し、クリオネの肩を抱いて言う。
「逆に聞くけどさ、お前と仲が良かった奴等の事を私に教えてくれてよ」
「うん!」
「家庭教師のマルファ将軍、メイドのレイシィ、執事のトーレス、ヨハン伯爵かな!」
「私も……あれ……?」
クリオネの目からは自然と涙が溢れて来ていた。
流れた涙は涸れ川の様に、あっという間に蒸発して行く。
「おかしいな、なんでだろう……」
「止まらない……」
ミーナはクリオネにフードを被せ直し、無言で頭を抱き寄せた。
(要注意人物リストについて)
要注意人物リストの中には、衛兵殺しだったり、人斬りや盗賊行為の常習犯だったり、麻薬の売買に手を染めていたり、シリアルキラーだったり、人体実験をしていたり、民衆を率いて教会の批判をしたり、国家転覆を図ったりしたヤツらの名前が並んでいます。
教会の情報部門が作った、いわゆる『この世のロクデナシ共』リストです。
一旦このリストに載せられると、審問時に如何なる言い訳も通用しなくなります。
ゼノスはこれに載る寸前だった。プリヤのクロを造ろうとしたようなモノなので。
当局からの追放は寧ろ温情なんだよなぁ。
ミーナちゃん28歳はダメな生活してるだけで、教会基準では悪党では無いので、リストへの掲載からはかなり遠い。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「期待している」「寝起きのミーナかわいい」
「セッ……」「シトマ、イイ奴だな」「クリオネかわいい」
「ロベール君のフレッシュな若武者ぶりが良い」「ひゃっはーー!!!」
「同盟の教育水準が酷すぎる」「女将の深謀遠慮(梅干し)」「見つかるの早すぎでこわ……」
「ロベール君の能力、やっぱりかなり高い」「まさか、それって特殊部隊……」「かなり個性的な仲間達だな」「ミーナのクリオネに対する心遣いが好き」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。




