リザードマン討伐(前編)
もう、草原なんか何処にもありやしねぇじゃねーか……!
鑑賞用魔法:https://www.youtube.com/watch?v=Q5t-k3Hi-N0
~翌日~
~街の近くの岩石砂漠~
「さて、と……」
日陰でミーナは荷物を降ろし、紋様が入った双眼鏡で岩山の割れ目を確認する。
クリオネはフードを取りながら、座り込んで水を飲む。
「な、なんですかその道具……」
「望遠鏡は知ってるだろ?」
「はい」
「その戦場版だよ」
「見るための『のぞき穴の数』と『倍率』が違う」
「特に砂漠での戦闘では距離感覚が歪みやすいから、数値測定入りのが必須なんだ」
クリオネは延々と続く砂漠とサボテン、そして低木を見て呟く。
「……北方の有名な導師様から聞いた事があるんです」
「かつてこの世界には緑が溢れていた」
「それを取り戻す事……それが雪原の民が天から与えられた義務だと」
「私は異を唱えるぜ、その説に」
「この世界は元からこうだったんだよ」
「最初、人間はこの世界の環境を良くしようとした」
「けど、どうしようもない奴の方が多かったから、世界が荒れて行った……」
「……導師様が聞いたら怒るでしょうね」
「まー……これは私の考えだから」
「お前は色々経験しながら、真実だと思った方を選べばイイさ」
「因みにゼノスも私と同意見だ」
「そうなんですか?」
「ああ。アプローチは違うがな」
「アイツは学者一族出身だから、明確な証明方法を持っているかもだが」
「今度聞いて見ろよ。私は興味ねぇけど」
クリオネはクスクスと笑う。
「ミーナさんが、資料や論文を理解出来ないだけでは?」
「うっ……!」
「既に私の急所が把握されている……!」
「でも、ミーナさんがおバカだと思った事はありません」
「私とは全く違う世界の捉え方をしているんだな、って」
「私はゼノスさんと同じく、理屈や論理で世界を捉えようとする」
「けど、ミーナさんは自分の経験とまっすぐな眼で世界を捉えている……」
「な、なんだよ、いきなりハズいな……」
ミーナは自分のモノではない胸の高鳴りを感じ取った。
彼女は双眼鏡を仕舞い、クリオネの隣に座る。
「しっかし、リザードマンなんてここいらじゃ『村』を作らねぇハズなんだがな……」
「それに話が通じないワケでもねぇ」
「え!?」
「リザードマンの言葉が喋れるんですか!?」
「昔……砂漠で遭難した時に、リザードマンの部族に助けて貰った事あるんだよ」
「だから少しだけ奴等の言葉が話せる。因みに女将はペラペラだ」
「あと私は『巣』と呼ぶのは好きじゃ無いな」
「巣……」
ミーナはフードを被る。
「アイツ等の文明レベルは、人間が思っているよりもかなりスゲェぞ」
「金属には嫌われていて、身に着けると火傷しちまうが」
「だから自称文明人様達からは劣って見えるワケだ」
彼女は鞘とベルトの結び紐を確かめ、地平線へ眼を凝らし始める。
「スゴい、って具体的には……?」
「火薬と活版印刷は奴等が実用化したらしいぜ」
「遙か昔はこの世界の東に大帝国を築いていたとか、そんな口伝が残っている」
「【教会】の神父にそんな事言ったら、その場で審問送りだけどな」
「何が原因で滅んだんでしょうか……」
「……さぁな」
「ただ、奴等は自分の身に余るモノは捨てる選択をしたんだろう」
「でも、コレは受け取ってくれるハズさ」
ミーナは岩の上に登り、果物の入った袋を掲げた。
すると、地平線の割れ目から数体のリザードマンが這い出て来た。
『熱烈歓迎!!』
彼女はリザードマン達へ向かって叫んだ。
彼等は顔を見合わせ、固まるクリオネの側を通り過ぎてミーナの元へとやって来る。
『驚いたぞ!ここいらの人間で我等の言葉を使えるとは……』
『ちょっと昔な』
『新鮮な果物だ。食べるか?』
ミーナは梨を取り出し、リザードマンへ渡す。
『毒は無いな?』
『もしあったら、その骨刀で私を斬り殺してくれて構わない』
リザードマンは頷き、梨を囓る。
『……美味い』
『もう一つだ』
『ああ、まだまだあるから慌てずにな』
彼等はミーナの果物を次々と受け取り、上機嫌で炎を吐いた。
ミーナは果物を囓る彼等に言う。
『【教会】の軍用船が最近、周囲の街を行き交っている』
『そろそろここも危ないぞ』
『……!!』
リザードマンの目付きが鋭くなる。
ミーナは言葉を続ける。
『戦争で勝ちに勝ちまくって、奴等は図に乗っている』
『図に乗りすぎて、北方支配下の街の一つを丸ごと虐殺した位だ』
『派遣されて来るとしても新米の聖騎士だが、その質は上がっている』
『仕事にあぶれた傭兵達も投入されるだろう、早く逃げた方が良いぜ』
まぁ、仕事にあぶれていた傭兵は私なんだが。
『……』
リザードマンは瑠璃石が並んだ首飾りと、宝石がはめ込まれた石の腕輪を取り、ミーナへ渡す。
『我等に行く場所などもう無い』
『来るべき滅びが、今我等を襲っているだけだ』
『だが、忠告と情報には感謝する。首飾りと腕輪は私からの礼だ』
『お前、まさか【ハーン】クラスか……!?』
『つーか、死ぬ気かよ……!』
『お前の様な人間が多ければ、我等も笑って街で過ごせたのだろうな……』
『だが事ここに至っては、武人の誇りに掛け、限界まで抵抗するしかない』
『それが【草原の英雄】の子孫たる、我々に残った最後の意地だ』
ミーナは下を向き、拳を握り締める。
『もう、草原なんか何処にもありやしねぇじゃねーか……!』
『《草原は常に、心の中》』
『かつて【草原の英雄】が言った言葉だ』
『お前が生きている内に、草原が見られると良いな』
リザードマンのリーダーは少しだけ笑い、果物の袋を持って去って行った。
~街~
~船着き場~
頭ピカピカの市長が、甲冑に身を包んだ聖騎士達にその頭頂部を見せ、土下座していた。
「ロ、ロベール様……!」
「こ、この度はこのような小汚い田舎町にお泊まり下さり、誠に……」
青い甲冑に身を包んだ若い騎士は、穏やかにそして圧力を掛けながら市長へ言う。
「前置きは要りません」
「兵達を宿に、騎士達を政庁に案内して下さい」
「事前の通達通りお願いします」
「は、ははぁ~~~っ!!」
市長は犬の様に走り回り始める。
船が揺れ、若い聖騎士の後ろから、荒々しい目付きをした巨漢騎士が現れる。
「聖騎士学校卒業したてにしては、中々立派な騎士ぶりじゃねぇか!」
「戦場でもそれを崩すなよ!」
「はい。ガスコーニュさん」
「しかし、この街であの【レイス王】の娘が発見された、という情報は本当なのでしょうか……」
「それにリザードマンなんて、影も形も見当たりませんが」
「ここに居るか居ないかなんて関係ねぇ」
「枢機卿が探せと言った以上、俺達は見つけなきゃいけねぇんだよ」
「地の果てまでも駆け回ってな!」
ガスコーニュは笑顔で、ロベールの背中をバンバンと叩く。
(やはりこの人が教育役で良かった……)
(聖騎士として前向きに、そして安心して任務に望める)
(まだまだヒヨッコだ、俺が面倒看てやらねぇとな)
(だが、今回の任務……どうにも臭ェな)
(人捜しやリザードマン討伐なんて、異教徒との最前線から俺を引き抜いてまでやる事じゃねェ……)
(奴隷船の数も増えているし、またデカイ戦争の匂いが漂って来やがった)
2人は市長の後を追い、政庁へ向かって歩いて行く。
「シケた田舎町だが、テトラグラマトより余程落ち着くぜ」
「何故です?教都の方が環境は快適では……」
「人は快適じゃないんだよ」
「お前も【教都番】が回って来たら分かる」
ガスコーニュは書類を挟んだバインダーで、ロベールの頭を軽く叩く。
「本当に兵隊が60人で足りるか?ロベール。馬や人足の事も忘れてないか?」
「必要なら俺が集めて来るぞ」
「それと武器商人と魔道具整備士の居場所は把握してるか?」
「拠点の交差都市までは往復2日掛かるんだ、武器や魔道具が消耗したら苦戦するぜ」
お母さんかよ。
「も、目算では60でギリギリ足りるハズです……」
「あと、この町の武器商人については、その……」
「減点2な」
「戦場では常に予測を超える事態が発生すると思え」
「だから常に予備戦力として、試算の1.5倍は人・モノ・カネを用意しておけ」
「はっ、はい!」
ロベールは真面目にも、羊皮紙の手帳へメモを書き込んでいく。
ガスコーニュは言葉を続ける。
「それと武器商人は探すモンじゃない、連れ回すモンだ!」
「専属契約を結ばせ、こちらの需要を満たす為の【仕事をさせる】んだ!」
「買い食いみたいに、こちらからカネを落としに行くワケじゃない!」
「は、はい!!」
「良いか!?俺達は個人個人が前線指揮官であり、兵站参謀だ!」
「行く先々で目的の為の組織化をして行くんだ!それを肝に銘じろ!」
「カネなら金持ちの坊主や役人共がジャンジャン出してくれる!積極的にネゴしていけ!」
「経理が文句言ってきたら、聖句でねじ伏せろ!」
「はい!!」
ベテランの叱咤にロベールは身を震わせながら、その身と気を引き締めた。
《登場人物紹介》
(ガスコーニュ)
Age:40 Sex:男
髪の色:鉄灰色 目の色:鷹のような黄色
職:聖騎士
聖騎士ランク: 金十字(功績的にはもっと上だが、本人が出世を固辞)
主な収入源:教会からの俸給
身分:聖騎士長
経歴:第二帝都のスラム育ちの悪ガキだったが、当時の聖騎士団長に才能と可能性を見出され、聖騎士として数々の功績を打ち立てた。800の兵で敵軍4万の包囲を破り、補給物資を持って教都へ堂々入城した事で、一躍名を馳せる。
好きなモノ:肉料理・レスリング・拳闘
趣味:トレーニング・部下達とのスパーリング・食道楽
身長:195cm
体重:120kg
組織での評判:組織の中核。その圧倒的な白兵能力と統治能力には目を見張るモノがある。
最近の出来事:キャベツとトンカツの組み合わせに魅了された
(以下、騎士団人事での能力評価)
筋力:SSS 頑丈さ:SS 敏捷:B+ 生命力:AAA 魔力:C+ 魔術:B+ 器用さ:AA+ 学力:B+ 教養:貴族並み 格闘:SSS+ 剣:SS 弓・弩:S+ 銃:S+ 騎乗:SS 操船:S- 指揮:S+ 顔:B 素行:荒っぽいが信頼できる 評判:教皇の拳 危険度:A+
聖騎士団長からの一言:私の代わりとなり得るべき人材
総合評価:最前線で磨き上げられた、百戦錬磨の名将。
(ロベール)
Age:22 Sex:男
髪の色:金色 目の色:澄んだ青
職:聖騎士(新任部隊長)
聖騎士ランク: 鉄十字(若手のエリート)
主な収入源:教会からの俸給
身分:聖騎士
経歴:某都市の土地なし貴族の長男。だが、容姿端麗で文武に優れ、聖騎士試験をスムーズに突破した。
好きなモノ:家族・時事本・魚料理
趣味:部屋掃除・インテリア設計・弟や妹の世話・読書
身長:188cm
体重:82kg
組織での評判:将来が期待出来る、未来の超エリート。だが、まだ挫折を経験していない所が不安。
最近の出来事:妹が結婚し、祝いとして初任給を送った。お姉様方からのラブレターで、支部の郵便部門がパンクした。
(以下、騎士団人事での能力評価)
筋力:B+ 頑丈さ:B 敏捷:A 生命力:B 魔力:A 魔術:A+ 器用さ:B+ 学力:秀才 教養:聖職者並み 格闘:A 剣:A+ 弓・弩:B 銃:B+ 騎乗:AA 操船:B 指揮:B 顔:SS+ 素行:潔癖 評判:期待のホープ 危険度:C
聖騎士団長からの一言:経験を積み重ね、才を磨く事怠るなかれ。
総合評価:清廉で真面目だが、想定外の事態に対して脆い所あり。
(聖騎士についての説明)
聖騎士は教会組織が各国の支部に抱える、政治将校と騎士、参謀将校とエリアマネージャーを兼ねたような存在です。
どこの軍においても、兵士や傭兵、軍将校達からは畏怖と嫌悪の的です。
ですが、彼等は長い時間を掛けて育成された、体制側の超エリートでもあります。
詳しい育成・選抜過程とかについてはまた。
スタートからして既に司令官だからな。
部隊経営に関しても、軍事学に関しても、最先端のノウハウをビシバシ叩き込まれる。
ただ、3年は先輩騎士が付いて、新人聖騎士の面倒を見るのが習わしになっています。
これが組織としての足腰を強くしている気はする。
そして、彼らは超一流の戦士達で、治癒魔術と神聖魔術の使い手でもあります。
格闘から武器の扱い、戦術、魔術まで徹底的に叩き込まれ、試験に合格したもののみが晴れて聖騎士へ叙任される。
ロベール君も相当強いです。
ガスコーニュはこんな口調ですが、数々の功績で教皇から表彰されたレベルの聖騎士です。
エリート中のエリート、しかもガツガツの体育会系で有力者達とのコネも信頼も厚い。
彼には教都テトラグラマトでの、輝かしいキャリアが既に用意されています。
アレだよ、一流大学医学部かつラグビー部キャプテン出身で、超一流外資でバリバリ鳴らしているみたいな感じだ。
間違っても、こんな田舎町に投入するような人材じゃ無い。
教会は気でも狂ったのか?
いや、元から狂ってるわ。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「期待している」「世界観好き」「クリオネとミーナの会話がいい」
「熱烈歓迎」「リザードマンが想像以上に理性的な生き物だった」「火薬も!?」
「エリート新人騎士と歴戦ベテラン騎士の組み合わせ……イイ!」「クリオネ、王族だったの!?」「コイツは手強そうなベテランだぜ」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。




