交易と闇商人と酒(後編-①)
そんなおバカなミーナちゃんに、丁度良い依頼があるんだけど……
受けるわよね?
~砂漠のナベアツ亭~
「…………」
ミーナは口を結びながら床に正座していた。
セレンはニコニコしながらしゃがんでミーナを見つめていた。
「ミーナちゃん」
ミーナはセレンの言葉にびくりと身体を震わせる。
ミーナは緑色の瞳を横に逸らして言う。
「じ、自分は……し、仕事あるんでこれで……」
「今日は無いわよね?」
「はい」
「船着き場で物陰に隠れて船に乗ろうとしていたのは、何故?」
ミーナの日焼けした肌から、滝の様に汗が溢れ始める。
「ちょ、ちょっと冒険というか……」
「ひ、一夏の冒険というか~~……」
「ミーナちゃんは今何さい?」
「に、にじゅうはっさい……です」
セレンは笑顔のまま、ミーナの頬を抓んで引っ張る。
「──ミーナちゃん」
「『ほう・れん・そう』は何の略か言ってみて?」
「……放蕩」
「連休……」
「早退!」
ミーナの、もう片方の頬が引っ張られる。
セレンは笑顔のまま唇を動かす。
「報告」
「連絡」
「相談よ。はい、復唱」
「ひょうほふ……」
「れんひゃふ……」
「しょうひゃん」
「良く出来ました❤️」
「で、本題なんだけれど……」
「どうしてレイカちゃんの後を追って、船に乗ろうとしたの?」
ミーナは緑色の瞳で、呆れた顔のクリオネを横目で見る。
クリオネは『助けませんよ、無理矢理連れて行かれたんですから』という顔をした。
セレンは指を離し、ミーナはひり付いた頬を撫でながら言う。
「あ~……アイツの事だから、なんか隠してんじゃねーか、って……」
「ゼノスへ注文してたアイテムも、護身用のソレだし」
「まあ、面白そうってのが主な理由だけど」
「それだけでクリオネちゃんを町から連れ出そうとしたの?」
「彼女、教会に追われているって事忘れてない?」
「あっ……!」
ミーナは驚いて目を丸くしたが、それを見てクリオネはため息を付くしかなかった。
しかし、セレンは一枚の封蝋付き羊皮紙を、専用の棚から取り出して言う。
「そんなおバカなミーナちゃんに、丁度良い依頼があるんだけど……」
「受けるわよね?」
「はい」
「ではお仕事の内容を説明するわね」
「ミーナちゃんとクリオネちゃんにはキオトにあるお屋敷で、メイドのお手伝いをして貰います」
「期間は到着後から4日間。制服は貸与してくれるわ❤️」
「め、メイドぉ~~!?」
「それにクリオネが依頼を受けるのはまだ無理だし、見た目でバレ……」
セレンは赤いリボンを取り出した。
「これを着ければ、髪と目の色を変えられるわ」
「赤い髪と緑色の目にして欲しいんだけど、クリオネちゃん大丈夫?」
クリオネが元気よくカウンターに飛びついた。
「はい!」
「一応ですが……理由をお聞きしても?」
「それに傭兵ギルドの登録もまだのハズ……」
「姉妹という事で既に依頼受けちゃったの❤️」
「あともうクリオネちゃんは、傭兵ギルドへ《仮登録》済みです(偽名で)❤️」
「ごめんね❤️」
「へっ……??」
唖然とするクリオネの後ろから、ミーナが痺れる足を解しながら言う。
「ああ、多分仮登録だなソレ」
「ギルドが信頼可能な身元保証人が居れば、一時的に仮登録の証書が発行されるんだ」
「というか……最初は殆ど仮登録からで、いきなりギルドへ登録するってパターンの方が少ないんだよ」
「にしたって、手回し早すぎるけどな」
「そういう事には詳しいのに、セレンさんの行動を予測出来なかったんですか!?」
「付き合い長そうですし、このパターン多分最初じゃないですよね!?」
「しても結局ワケ分からん事になるから、私は予測するのを止めた」
「考えるな、流れに身を任せろ」
「てか、クリオネは私と姉妹役やるのイヤなん?」
「い、いえ……」
「姉妹というよりは最早親子ほど歳が離れている、というか……」
ミーナは椅子に座りながら、笑顔をセレンへ向ける。
「珍しくミスったな~~女将~~」
「クリオネは姉妹じゃなくて、親子って設定の方が良かったってよ」
「あらあら❤️」
「でも、ミーナちゃん若く見えるから、それでも大丈夫じゃない?」
「うーん、それもそうか」
「というワケで出発の準備だ!クリオネ!」
『一体私はこれからどうなってしまうんだろうか』、そう思ってクリオネはカウンターへもたれ掛かった。
セレンは彼女の銀髪を赤いリボンで結んでやる。
「はい❤️」
「ツインテール❤️」
「わ、私で遊んでませんか、セレンさん……」
「そんなことないわよ~~?」
「うふふ……」
「かわいい❤️かわいい❤️」
そしてリボンを結び終わったらセレンは、クリオネへ言う。
「そのリボンの効力は8時間」
「魔力の充填に2時間かかるわ」
「クリオネちゃん、魔術ってどの程度使える?」
「い、いえ……」
「それが使った事無いので、どの程度やれるのか分からないんです」
「えっ」
セレンの頬に一筋の汗が伝う。
彼女はクリオネへ言う。
「ク、クリオネちゃんにとって【魔術】ってどういう存在……?」
「魔力を道具に込めて、グッと使う感じですよね?」
「だからミーナさんの剣もこのリボンも、『ああ、そういう道具なんだ』って言う……」
「レイス王国の大兵器廠へ見学に行った時乗った魔導鎧も、そんな感じで動かしました」
「クリオネちゃん」
「はい?」
「『魔導鎧を動かせる』、ってコトは誰にも言わないように」
「アレは大量の魔力と、精密な魔力操作を求められるの」
「普通は出来ないのよ?」
クリオネは銀色の毛先を整え、寧ろセレンの言葉が不思議であるかのように答える。
「王族や貴族の人達は、皆手足のように動かしてましたけど……」
「あと軍人さん達とか……」
「あっ。あと作業員のおじさん達も普通に使ってました!」
セレンの顔に大量の汗が伝い始める。
「今のは聞かなかったコトにするわね❤️」
「そのリボンが使えるなら、今回は細かい事を問いません❤️」
ミーナは砂イカ(砂地に住むイカ)のスルメを齧りながら言う。
「女将が慌ててる所久々に見たわ」
「やるじゃねーか、クリオネ」
そこへミーナの前のテーブルに、一冊の本が置かれる。
本には『えにっきちょう』と書かれていた。
「えっと……これはなんでしょうか、女将様」
「ミーナちゃんは報告書が毎回ミミズのダンス状態な上、内容が3行も無いから、今回は絵日記を採用したの❤️」
「行ってから帰って来るまで、毎日書くこと」
「良いわね?」
ミーナは机を叩きながら抗議する。
「え~~」
「仕事終わったら遊びた……」
しかし、セレンはミーナへ顔を近づけて言う。
「良 い わ ね ?」
「はい」
ミーナは観念し、項垂れながら大人しく絵日記帳を受け取った。
~翌日~
~運河・船上~
「ヒマすぎて、到着までにする事が釣りしかねぇ」
「しゃあねぇ、船員と賭けポーカーでも……」
ミーナは懐からトランプを取り出したが、白く細い指に取り上げられる。
「あっ!何すんだよ!クリオネ!」
「セレンさんから、『ミーナさんがギャンブルをしようとしたら、止めてね』と言われてますので」
「一瞬レイカみてぇな引き笑いが出そうになったわ」
ミーナは船の甲板に寝転がり、夕暮れの地平線を見ながら寝ようとする。
その時、クリオネが下半身を押さえてもじもじしながら、ミーナの服を引っ張って来た。
「あ、あの……トイレとかは……」
ミーナは船の縁を指さす。
「そっからケツ出せば良いじゃん」
「快速船だし、トイレとかは備えてないんだ」
「で、でもっ!」
「これじゃあ他の船員からも、通りすがりの集落からも丸見えですよっ……!」
「大丈夫だって」
「そうやって皆大人になっていくんだよ」
クリオネは顔が真っ赤になり、抗議するかのように涙目でミーナにしがみつき始めた。
ミーナは軽く息を吐き、船長へ言う。
「スマン!」
「ツレがトイレ行きたいんだそうだ!」
「一旦船を岸に泊めてくれるか!?」
船長は手で追い払うかのような仕草をする。
「あ!?」
「アホ言ってんじゃねーぞ!赤髪の姉ちゃん!」
「んなモン、船の上からさせ……」
しかし、船長は悶える銀髪の華奢な少女を見て、手を止めた。
「あー……そういう事か」
「年頃かぁ~……」
ミーナは船倉に行き、リュックからワインを取り出して来る。
「そうだ、年頃なんだ」
「ワイン一本で手を打ってくれないか?」
「かぁ~っ……!しゃあねぇな!」
「おい!野郎共!ここいらで一旦休憩だ!!」
「15分程休むぞ!!」
「「「へい!!」」」
船は水路の端の方へと接岸して行き、板を渡した。
クリオネは怪しい動きになりながら、その板を駆け抜けて行った。
~依頼から2日後~
~交差都市キオト・港~
「……というワケで到着しました」
「クリオネちゃん、寄り道したくなりませんか?」
「良い匂いが漂って来ませんか?」
「しても良いですけれど、そこもキッチリ報告しますよ」
「休むにしたって、まずは荷物置いてからじゃないと」
「真面目だなぁ~~」
「まぁ良いや。まずは建物の配置を把握しないとな」
「あとクリオネ。もうそのリボンは今から使え」
「──!」
クリオネはリボンへ自分の魔力を流し込み、たちまち髪と目の色がミーナと同じ赤と緑の組み合わせになっていく。
ミーナは笑ってクリオネの頭を撫で回す。
「おー!マジで姉妹みたいじゃん!」
「そっ、そうですか……?」
クリオネはミーナから視線を外しながらも、照れ笑いを隠した。
~1時間後~
~キオト・依頼元のお屋敷~
ミーナは武装した背の高い門番へ言う。
「ギルドの依頼で来た、ミーナ・Ⅴ・フジワラだ」
「こっちの小さいのは私の妹で、リオ・V・フジワラだ」
「……話は聞いている」
「入れ」
門番達は鉄製の門扉をカギで開け、ミーナとクリオネを招き入れる。
「うお~~……!」
「すっげー芝生……噴水まであるぜ!」
「飲んだら怒られるかな!アレ!」
「恥ずかしいマネしたら、その場で他人のフリですからねミーナさん」
突如ヒールが石畳を踏みつける音が鳴り、二人の目線がそちらへ行く。
「──アナタ達がギルドの依頼で来た代役?」
ミーナは答える。
「ああ、そうだけど」
ミーナの目線の先に居た白髪のミニスカメイド(27歳)は、腕を組みながら言う。
「私はメイド長のクーヤ」
「アナタ達は今日から4日間、この家のメイドとして働いて貰うわ」
「明後日には大事なパーティーがあるから、それまでにごく基本的な事だけでも覚えて貰うわよ!」
「どえらいトコに来ちまったぜ」
「そこ!言葉遣いと態度!言動!髪型!服装!礼儀!その他諸々!」
「なっていないわよ!」
「ぜ、全部じゃねーか!」
「口答えしない!」
そしてクーヤは屋敷から離れた場所にある、使用人の宿舎を指さした。
「15分以内に荷物を置き、用意してある着替えて屋敷の前に集合!」
「アナタ達の部屋は2階の一番右端だから!覚えておくように!」
「ほら!何をボーッとしてるの!?お客様やご主人様達は待ってくれないわよ!」
ミーナとクリオネはクーヤに睨まれながら、宿舎へ駆け出した。
~15分後~
クーヤは怒りで瞼をピクつかせていた。
「そっちの大きい方……」
「なんでリンゴなんか食べているのかしら」
「え?」
「腹が減ったからだけど??」
「(ピクピクピクピク……)」
クリオネは慌てて仲裁に入る。
「も、申し訳ございません、メイド長……!」
「後で姉によ~~く言い聞かせておくので……」
クリオネはミーナの手から食べかけのリンゴを奪い、袋へ放り込んだ。
クーヤは唇と瞼をピクつかせながらも言う。
「まずは立ち方から!」
「背筋はピンと伸ばすだけでなく、品を問われないように足は小幅に開く!」
ミーナとクリオネはクーヤの言う通りにした。
しかし!メイド長のお眼鏡は厳しい!
クーヤは定規を取り出し、ミーナの足元を叩いた。
「いてっ!?」
「カカト同士はつけない!」
「足と足の幅は2センチ以内!」
そしてクーヤはクリオネの両肩を持って反らし、腰を叩きながら言う。
「肩は巻かない!」
「下のお腹、骨盤を突き出すように!」
「は、はい!」
そしてクーヤはカチコチになった二人へ言う。
「これをなるべく自然体かつ、スムーズに、そして常にやるのよ!」
「次は食事の配膳と、部屋の中での立ち位置!」
「実際の部屋を使って練習するから、付いて来なさい!」
クーヤはカツカツと歩き出したが、振り返って二人へ叫ぶ。
「分かったら返事!」
「はい!」
「へーい」
クーヤは定規でミーナの顎を掬い上げる。
「こら!そこのダメイドミーナ!」
「返事は『はい』よ、『はい』!!」
「はい」
「ったくもう、手間のかかる……!」
クーヤは灰色の瞳でミーナの緑色の瞳を睨みつけ、再度屋敷へ向かって歩き始めた。
キオトの人口は約10万人前後で、地域の交易ハブです。
闇も光も、人が集まればそれなりに強くなります。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「期待している」「女将には敵わねぇや」「なんだこの28歳!?」
「絵日記帳は草」「女将が焦るの初めて見た」「クリオネの才能、そっち方向かぁ~~」
「年頃の少女は繊細なんだ」「船長優しい」「ケツ出せば良いはホント草」
「色んな意味でキツそうなメイド長来たな……」「27歳でミニスカメイドはちょっと無理でしょ」「先が思いやられるぜこれは」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。




