交易と闇商人と酒(中編)
……悪いが、ニヘアンの為だ
苦しまずに死んでくれ
鑑賞用魔法:https://www.youtube.com/watch?v=XwZwz0iCuF0
~ゼノスの店の外~
「と、言うワケでワイは宿に戻るわ」
「明日の昼メシをナベアツ亭で食ったら、キオトへ行く」
「何か用があれば、そん時言うてくれや」
レイカはフードを被り、荷物を背負った。
ミーナは軒下で爪を削りながら言う。
「キオトで何すんの?」
「ロマンス詐欺でもしに行くのか?」
「アホ」
「大事な商談があんねん」
「オマエみたいなヒマ人と違って、ワイは忙しいんや」
「出来ればクリオネに、初心者向け剣術でも教えてやって欲しかったんだがな~~」
「なー?クリオネ」
クリオネはミーナにピッタリとくっつきながらも、レイカと剣を見て頷いた。
レイカはため息を付いて言う。
「あのな、剣は難しいというか習得に時間掛かるんや」
「それに中途半端に覚えたら、逆にクリオネの寿命を縮めるわ」
「オマエもそれは分かっとるやろ」
「?」
「私は適当にぶん回していて、気付いたら使えるようになってたぞ」
「ただ、使い方が人と違うけど」
「言う相手間違うたわ」
「……じゃあナイフの使い方をタダで教えたるから、今日の夜ナベアツ亭に来い」
クリオネはまさか、とでも言うかのように声が出せなかった。
ミーナは彼女の背中を軽く叩く。
「ラッキーだな、クリオネ~~」
「レイカがタダでモノを教えてくれる事なんて、滅多にないんだぜ?」
「オ、オマエが保護者じゃそこの銀髪お姫サマが余りにも可哀想やから、サービスしただけや!」
レイカは僅かに頬を紅くし、そっぽを向いた。
ミーナはその姿をニヤニヤ見ていたが、斬撃が目の前の地面を抉った。
「ホァッ!?」
「オマエからは見物料取るからな!」
「女将ン所で飯食って寝とれ!」
「はいはいホイホイへいへい」
「『はい』だけで」
「ええ!」
耳をほじるミーナの、赤い髪の先っぽを剣が掠め取った。
~夜・ナベアツ亭の裏庭~
「木製のナイフ……?」
クリオネの青い瞳が、レイカに握られた木製の刃を映し出した。
レイカは木製のナイフをクルクルと回す。
「それでも当たる場所に当たったら、痛いじゃスマンで」
「オマエの身体は特に薄いからな」
「バカミーナではかすり傷でも、オマエにとっては致命傷になり得る」
(……もっと食べて鍛えないといけないのかな……)
クリオネは自分の薄い胸や腹を不安げに触る。
レイカは不安げなクリオネを見て言う。
「無理矢理バカミーナや女将の体格へ追いつこうとするのはやめとけ」
「あの二人は例外や。元から骨格がそういう風に出来とる」
「で、でもっ……!」
クリオネはレイカへ縋るように言う。
だが、レイカはため息で返答する。
「バカミーナの食事量見てみぃ、一日ナンボ肉食うとると思う?1kgやぞ」
「チーズだってバカスカ食べるし、ヤギや牛の乳だってバカバカ飲む」
「女将も似たようなモンやが、オマエが真似したら即吐くで」
ナベアツ亭は女子プロ養成所かよ。
クリオネは俯き、銀色の髪が顔に掛かる。
「……」
「オマエはワイと一緒で、そこまで内臓が強くなくて骨格が華奢や」
「多少食う必要はあるが、それなりのメシで背は伸びるタイプや」
「ナベアツ亭の賄い食って良く寝てれば、身長面では平気や」
「……私は筋量や体格じゃなくて、俊敏さと合理性で勝負した方が良いんですね」
「──せや。それが現状正しい」
「ここで食い下がられたら、ワイの寝る時間が無くなる所やった」
「既に150前半はあると見えるし、そこまで気にせんでもええ」
「そこら辺の大人見たろ?オマエは12の女にしてはかなりデカい方やで」
クリオネは、この町の農場や工房付近で働いていた民達を思い出し始める。
彼らは大人の男でさえ、半分は自分に及ばないぐらいの背だった。
聖騎士達を見たクリオネは、余計に彼等が別の生き物であるかさえの様な気がした。
レイカは指を組む。
「メシをロクに食えんでガキの頃を過ごすというのは……」
「本当に悲惨なハナシや」
「ワイは旅の途中で、飢餓で全滅した運河村や集落なんかも腐る程見とる」
「戦争なんか起きてみぃ、もう人が人を食う状態になるんや」
クリオネはレイカがふと見せた悲しげな表情に、身体と表情を固まらせた。
レイカは突然木製のナイフをクリオネへ投げ、クリオネはそれを慌ててキャッチする。
「お!」
「反応は悪く無いな!」
「ワイみたいに、魔剣士目指すか?才能あるで」
「え!?本当ですか!?」
「冗談や!本気にすな!」
「ワハハハッ!」
レイカの言葉に、クリオネは真っ白い顔を赤くして怒る。
レイカは素手でクリオネを手招きする。
「ワイを仕留める積もりでかかって来い」
「今のオマエのレベルを見たる」
「──はい!」
クリオネは回り込みながら駆け、レイカの膝裏を狙った。
しかし、レイカに更に回り込まれ、手刀を首に当てられる。
「狙い所はエエし、正面から行かないのもエエ」
「やがな、相手もバカばかりやない。同じ事を考えるんや」
「……!」
レイカはクリオネから離れ、笑顔で手を叩いて彼女を急かし始める。
「ホレ、実戦じゃじっくり考えるヒマは無いで!」
「試せ!試せ~!」
クリオネはレイカの腕を狙いに掛かって行く。
今度はナイフを躱されたばかりか、足払いを掛けられて転んでしまった。
「上ばかりに気が行って、足元がお留守やで!」
「特定の部位だけじゃなくて、全体を見ながら動くんや!」
クリオネは砂を払いもせず立ち上がり、レイカへ掛かって行った。
ーー30分後ーー
クリオネ汗と砂利塗れになり、その場に倒れ伏していた。
息は完全に上がり切り、やっとの思いで仰向けになる。
「根性あるやんけ、お姫サマ」
「また学びたい事があれば相手になってやるで」
レイカは一滴の汗も掻いておらず、悠然とタバコを吹かしていた。
クリオネは息を吸おうと、薄い胸と細い喉をを前後させる。
「はぁっ……!はぁっ……!はぁっ…………!」
レイカは青く輝く星に向かって煙を吹かす。
「因みに、ミーナと喧嘩した時……アイツは8時間以上ぶっ続けで動いてたで」
「フフ……目指す場所は遠いなぁ?」
そう言って、レイカは二カッとクリオネへ微笑み掛けた。
ナベアツ亭の裏口が開き、女将がタオルを持って来て笑顔で言う。
「クリオネちゃん、お風呂が沸いているわよ」
「は、はい……」
「い、今すぐ行きます……!」
クリオネは転がりながら立ち上がり、女将からタオルを受け取った。
クリオネは顔を拭きながらレイカへ頭を下げる。
「──ありがとうございました!レイカさん!」
レイカは『ええんや、ええんや』と手首を振りながら、ミーナをからかいに行った。
~夜~
~政庁・市長室~
「申し訳ございません、市長」
「1週間程休暇貰います」
市長はシトマの言葉で、椅子からひっくり返りそうになる。
「もう休暇は使い切っている……というか、普段から遊んでいるようなモノだろう!?」
「失礼ですが、私は職務熱心ですよ」
「今日も巡回中、ミーナの布団の仲で致しました」
「あと、ついでに盗賊を捕まえて牢に放り込んでおきました」
「盗賊を捕まえてくれたのはありがたいけど、熱心の方向性が違うんだよ~~!」
「それに衛兵隊の指揮は誰が執るんだ?えぇ~!?」
シトマは肩まで掛からないぐらいの、黒い髪を整えて言う。
「大丈夫です。副隊長が全てやってくれるでしょう」
「シフトも組んでありますし、面倒な事は全て引き継いでおきました」
「あのねぇ、君ぃ~……」
「高級宿と旅の女芸人」
「食事経費と視察予算」
「!!?」
市長のハゲ頭に脂汗が浮き始める。
シトマは薄笑いを浮かべて敬礼し、焦る市長を尻目に部屋を出て行った。
~翌日・昼~
~運河の船着き場~
「用を済ませたらまた仕入れにくるで、女将」
「息災でな」
「ええ、レイカちゃんも元気でね」
レイカは財貨が入ったリュック、そして部下達と共に船へと乗り込んでいった。
女将は船へ手を振りつつも、物陰に蠢く怪しい影を見逃さなかった。
~物陰~
「……よし!女将が船着き場を離れたぞ!」
「後ろの船に駆け込むぜ!」
「ちょ、ちょっとミーナさん……!」
「バレたらとんでもない事に……!」
「ヘーキ!ヘーキ!」
「冒険にはムチャが付き物なん……」
ミーナの襟首が突如、分厚い手に掴まれる。
クリオネはそれを見て額を抱えた。
~ミーナ達の住む街から北西に約140km~
~キロキ山~
~ある猟師の家~
「ニヘアン……」
「調子はどうだ?」
背の高い金髪の男は、ベッドに横たわる少女へ調子を尋ねた。
少女は薄い紫色の瞳を男へ向けながら、静かに答える。
「ボクは大丈夫……おとうさん」
「薬と神父さんのおかげで、前よりはだいぶ……」
「ごほっ……!ごほっ……!」
突如、ニヘアンは咳き込んだ。
父親は彼女の背中を撫でる。
「……済まない」
「俺は仕事の為、数日家を空ける」
「その間は猟師仲間やシスター達が、お前を看てくれる手筈になっている」
父親はニヘアンの灰色の髪を横に流してやった。
ニヘアンは父親へ言う。
「お金……」
「その為には……沢山のお金……必要だよね……?」
「神父様に魔術を掛けて貰うのだって……」
「……お前はカネの心配をしなくて良い」
「ただ治す事に専念しろ」
ニヘアンは息継ぎをしながら言う。
「死んだおかあさんから聞いたコトが……」
「おとうさんはむかし、戦う仕事をしていたって……」
「──昔の話だ」
「ただ、今回の仕事は相手が大物なだけだ……」
そうだ、相手が人間の形をしているだけの獲物だ──
撃って仕留める。やる事は変わらない。
変わらないハズだ──
「ボク、おとうさんがヒトを傷つける所、見たくないよ……」
父親は緑色の瞳を伏せ、ニヘアンの小さな手を握り締めて言う。
「……誓って言う」
「今回の獲物は人間じゃ無い……」
父親は水で布を絞り、娘の額に置いてやった。
そして布団を肩まで被せ、頭を撫でて部屋を後にした。
彼は懐から記録石を取り出し、映像を確認する。
「まさか、お前と殺し合う羽目になるとはな……ソードヘッドランド」
「……悪いが、ニヘアンの為だ」
「苦しまずに死んでくれ」
父親は猟師の毛皮を脱ぎ、大型の魔導狙撃銃を手に取って構える。
銃を持つ腕には、ダガーナイフと兜を被った髑髏、そしてΩの文字が刻まれていた。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「レイカ、面倒見が良いな」「クリオネ、根性があって好き」
「レイカ、カッコいいな……」「はいはいホイホイへいへい」「タオルを持ってくる女将が好き」
「安定のミーナ」「冒険終了のお知らせ」
「市長お前……」「シトマの動きが怪しい」「この猟師、まさか……」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。




