砂漠の星空
ふふっ
ちょっと下品でおバカですけどね
でも、それが堪らなく愛おしくなっちゃうんです
鑑賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=CTAud5O7Qqk
~草木に覆われた岩場の奥~
~リザードマン達の村・テントの中~
ガスコーニュが去った後、ミーナとクリオネはリザードマン達に村へ案内されていた。
ミーナは背中の辺りを触る。
「背中痛くて今日は仰向けで寝れねぇわ……」
「畜生、あのオッサン……!」
「普通の人間だったら、叩きつけられただけで死んでるぞ!ったく……」
クリオネはミーナの服を捲り、背中を見る。
彼女の背中には巨大な円形の痣と、打撲痕が出来ていた。
「……!」
クリオネはその有様に、思わず痣へ触れようとした。
ミーナはリザードマンの薬師から貰った、痛み止めのジュースを飲みながら言う。
「ヘーキだって」
「それに触れると、お前も痛むぜ」
「感覚共有してんだからな」
しかし、クリオネはそっとミーナの痣へ触れた。
そしてクリオネは呟く。
「……ありがとうございました」
「ミーナさんが居なかったら、私は誰かの道具として死ぬまで使われていたかも……」
「ヒャハハハッ!」
「ガスコーニュのオッサンなら大丈夫だと思ったけどな~~!」
その時、ミーナの背中へクリオネのビンタが炸裂した。
「ぃちっ!?」
「ミーナさんのそういう所キライですっ!」
クリオネはプンプン怒りながら、そのまま外へ行ってしまった。
そして、入れ替わる様に一人のリザードマンが塗り薬を持ってやって来た。
『これを塗れば、痛みも腫れも収まる』
『ん、あんがと』
『それ、私用にわざわざ配合してくれたのか?』
リザードマンはミーナの背中に薬を塗りながら言う。
『──我々の祖先が巨大帝国を築いていた時、その支配下には多くの種族が居た』
『無論人間もだ。その時に異種族の怪我や病気をも治す技が生まれ、発展したのだ』
『その技がほんの一部だけだが、こうして秘伝として伝えられている』
『……教会とかとは考え方が全く違うな』
『あっちは何かあったら神聖魔術か、瀉血か、手足の切断だし』
『北方連合では科学的治療?が発展してるみたいだけど、私はそこの人間じゃないから良く分からん』
『……お前等の治療法って何処まで進んでたの?』
『これは私も祖父の祖父から、ほんの二、三度聞いた事だが……』
『人を麻の実で眠らせ、頭を切り拓いて病巣を直接切り取っていたらしい』
ミーナはその言葉を聞いて、背筋を震わせる。
『ヒェ~~~ッ……!』
『想像するだけで眠れなくなりそうだぜ……』
『私も聞いたその日は、寝付けなかった記憶がある』
『ちょっと気になったんだけどさ……』
『その手ので、他にはどんな言い伝えがあるんだ?』
『【金髪金眼の女が臓腑から血の涙を流し、その血が草木を枯らした】』
『【そして女の骨が星を刻み、金色の髪が雪を編んだ】、と』
ミーナは首を傾げながら言う。
『う~~ん、全くわからん』
『だろうな……私もその意味を読み取れなかった』
『何かの訓話や警句かもしれないが……』
『その内実を問い質そうとすると、長老達は皆口を閉ざした』
『なんかの厄ネタかもな』
『今気にしてもしょうがないけど』
リザードマンは薬を塗り終わり、ミーナは服を降ろす。
ミーナは立ち上がり、リザードマンの背中を軽く叩く。
『助けてくれてありがとな!』
『何か困った事があったら、絶対力になるぜ!』
『──我々こそ、お前に感謝したい』
『我々はお前の姿に太陽を視た』
『ヒャハッ!』
『大袈裟だっつーの!』
ミーナは入口の毛布を開け、テントの側にしゃがんでいたクリオネへ言う。
「なんか良い匂いするな……メシ食いに行かね?」
クリオネは白い頬を紅くして膨らませ、そっぽを向いて言う。
「……もう二度と自分を粗末に扱わない、って約束して頂けたら……」
「はいはい、分かった分かった」
「『はい』と『分かった』は一回だけです!!」
「つまり、私と一緒にメシが食いたいって事か」
「よしよし」
ミーナはクリオネの銀色の頭を撫で回した。
クリオネは彼女の手を払わず、半ば嬉しそうであるかの様な顔で地面を見ていた。
ミーナの鼻が動く。
「う~~ん、この匂いは洞窟から……」
「行くぞ、クリオネ」
「……はい!」
二人はテントの横の洞窟に入って行く。
洞窟の中は肉と香草と植物の匂いが混ざり合い、芳醇な匂いで満たされていた。
ミーナは料理を作っているリザードマン達へ言う。
『何作ってんだ?』
『キヌアと肉の雑炊だ』
『疲れた体へ特に良く効く』
『キヌア??』
『塩湖周辺で栽培出来る、この地特有の植物だ』
『栄養が良く、軽い病なら数日で元気になる程だ』
リザードマンは木製のレードル(おたま)をミーナへ差し出し、ミーナは肉雑炊を掬ってがぶり付いた。
『う、う、うめぇ~~……!!』
『腹に力が入って来る様な感覚がするぜ!』
『もう一杯貰えるか!?』
リザードマンは愉快そうに笑い、頷いた。
ミーナはキヌアの肉雑炊をもう一杯掬い、呑み込んだ。
「くぅ~~~っ!」
「コレコレ!」
「染み渡るなぁ~~!オイ!」
幸せそうなミーナを見て、クリオネは喉を鳴らす。
ミーナはニヤつきながらもう一杯雑炊を掬い上げ、クリオネの前まで持って行く。
湯気がクリオネの鼻腔をくすぐる。
(えいっ!)
クリオネは目を瞑ってレードルの中に溜まっている、肉雑炊へ食い付いた。
彼女の味覚がたちまちに拡張されて行く。
「おいしい……」
『──やったぜ!王女様のお墨付きだ!』
ミーナは笑顔で、調理番のリザードマンと肩を組み、拳を突きつけ合った。
ミーナは肉とキヌアを噛みながら言う。
「このキヌアっての……ウラで捌けるかもな」
「女将を経由すれば、多分楽勝だろ」
「金持ちのジジババにはウケそうだぜ」
「ミ、ミーナさんまた金の事考えてる……」
「悲しいかな、人間の世界はまだ金が現役なんだ」
「それに……お前の食い扶持稼がないといけないし」
「あっ……」
ミーナは笑いながら、クリオネの肩を小突く。
「まぁ心配すんなよ」
「最低1週間は女将の所でタダメシ食えるし」
「……そこから先は?」
「ノープランです(キッパリ)」
クリオネはポカポカとミーナを叩き始める。
ミーナはクリオネの頭を抑えながら言う。
「光明見えたから心配すんなって」
「リザードマン達と物々交換で交易して、女将や闇商人を経由して売り捌けば良いカネになるハズだから」
「ミーナさんってお金の計算出来るんですか……?」
「おいおい、バカにすんなよ」
「ニケタの計算とか、4ケタの引き算足し算とか、楽勝でこなせるんだぜ?」
ミーナは自信満々そうに胸を張った。
クリオネは彼女の大きな胸を見ながら言う。
「……では7 × 6は……?」
「46だろ?」
「それぐらいチョロいって言ったじゃん~~」
クリオネは軽くため息を付いて言う。
「42です」
「へ??」
「いや、どう考えても……しちろくしじゅーろくだろ??」
「すみません、ミーナさん」
「それ考えるモノじゃないんですよ」
「7個の物を6つずつ揃えたら、42個になるんです」
驚異的な初歩段階で、互いの主張(?)が対立した。
ミーナは顔に汗を浮かべながら言う。
「し、しかしだな……」
「いや……しかしとかじゃなくて……」
「というか、そこに食い下がってどうするんですか?」
「何処までも食い下がって生き抜くのが、私のスタイルだ!」
「1000年食い下がっても、この件はミーナさんの完全敗北です」
「取り敢えずこの話はここでおしまいです」
「あ、あの~~」
「お し ま い です!」
「ふいぃぃぃ~~っ……!」
ミーナは変な呻き声を上げ、その場で横に卒倒した。
そしてミーナは両膝を付き、必死の形相でクリオネに縋りつく。
「た、頼むから女将にだけは……!!」
ミーナちゃん28さいはその緑色の瞳をウルつかせ、クリオネの慈悲に訴えた。
クリオネは縋りつくミーナの頬を押し退ける。
「いえ、この件は報告しなければならない……」
「余計にそう思いました。以上」
答えは無情だった。
ミーナの全身が汗塗れになる。
「あばばばばば……」
「一旦町から逃げ……いや、ダメだ……女将からは逃げられねぇ~~っ……!」
ミーナは口から魂を出して失神した。
クリオネはミーナの魂を引き戻しつつ、砂地に掛かれた図形と計算式に目を留める。
「これ……まさか三角測量の計算式……!?」
クリオネは大きくなった青い瞳を、行き交うリザードマン達へ向ける。
しかしリザードマン達は次々に、その計算式を足の鉤爪で消し去っていった。
~夜~
~焚き火の周り~
ミーナは砕かれ、巻かれた葉の塊を覗いて言う。
『いや~~』
『このハッパ最高だな!なんか、頭が《ポワポワ~~》ってするぜ!』
『前から思ってたけど、なんのハッパ使ってんだ?コレ』
『麻の葉っぱだ』
『へぇ~~麻って服以外にも使えたのか~~』
リザードマンはミーナへ麻の葉を見せる。
5〜9枚ほどの細長くギザギザした小葉が、『やぁ、こんにちは!』とミーナへ語り掛けて来ていた。
ミーナは首を傾げる。
「アレ?」
「葉っぱって喋れたっけ??」
クリオネは半ばラリラリなミーナへ、呆れながら言う。
「……ミーナさん」
「ん?」
「葉っぱは喋りません」
「知ってるよ??」
「では、なぜ話しかけているんですか?」
ミーナは麻のハッパを吸いながら答える。
「向こうから話しかけてきたんだよ」
「『やぁ、こんにちは!』って」
「…………」
ミーナはクリオネではなく、白い石に向かって語り掛けていた。
ミーナは石を軽く叩き、笑顔で言う。
「つれないな~~クリオネ~~!」
「お前もハッパやれよ!」
「お友達が増えるぜ!」
「やりません」
「あとそれは石です」
そこへ石の腕輪を付けたリザードマンが現れる。
ミーナは何かとシャドーボクシングを始めていた。
「白い国の王女よ、料理は口に合ったか?」
そのリザードマンは町で使われている様な言葉で、クリオネへ話し掛けて来た。
「きょ、共通語を……しゃ、喋れたんですか……!?」
(は、【ハーン】!?)
「敢えて言う事でも無いと思ったからな」
「それにこれはある人物から教わったモノだ」
「ど、どんな人からなんです……?」
ハーンの目が星空を見つめ始める。
「大地の女神、その生まれ変わりだ」
(ま、まさか……)
ハーンはクリオネの隣に腰を下ろす。
「白い国の王女……」
「白い国では、【死】をどう扱っている?」
「生命が活動を停止する事……」
「そしてその細胞が壊れて、別の物質になる事です」
ハーンは、岩へヘッドロックを掛けるミーナを見ながら言う。
「かつての我々の様だな……」
「え……?」
「死は存在しない。生きる世界が変わるだけだ」
「死など大した事ではない。苦痛も大した事ではない」
「だが臆病風に吹かれる事は万死に値する罪であり、これ以上の恥辱はないのだ」
「だから、私達を助けたと……?」
ハーンはすりこぎで、麻の葉と木の実をすり潰し始める。
「それは一つの理由に過ぎない」
「だが、それ以上にあの飾らない太陽が、眩しく見えたのかもしれない」
「かつて我々が失った何かが、まだ生きていた……」
「それだけで戦いに赴く価値があった」
クリオネはリザードマンの意図する所の『太陽』が何かを、その時理解した。
「ふふっ」
「ちょっと下品でおバカですけどね」
「でも、それが堪らなく愛おしくなっちゃうんです」
クリオネは石にキスをし始めたミーナを止める為、そこから立ち上がった。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「これから期待している」「もうロリつ……相棒だな!」
「リザードマン達の文明スゲェ……」「う~~ん、全くわからん」「キヌアの肉雑炊美味そう」
「……では7 × 6は……?」「46だろ?」「お し ま い です!」
「おい!主人公がヤクキメてるってどういう事だよ!」「クリオネがもうミーナの生命線だ」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。




