第129話 皇后バルバラ・ブレイズ・ファルケの執念
通常はクリストハルトの視点で物語が進行していますが、今回は皇后バルバラの視点となっております。
【皇后バルバラ視点】
世界最強と名高い『ダークネス傭兵団』に、クリストハルトとリゼットの殺害を依頼してから約半年が経過した。
今日は依頼の経過報告のため、私の実家であるアルトマイアー公爵邸に、ダークエルフの団長が来ることになっている。
実家に移動するため帝城を出ようとすると、背後に皇帝陛下やリートベルク侯爵の視線を感じてしまう。
気にしすぎなのかもしれないが、警戒を怠ることはしない。
今日はアルトマイアー公爵家が、領内で開催する施しに出席するため帝城を出てきた。
レオンとエーベは施しに参加するため、護衛を連れて教会へ出かけている。
これで低下した息子たちの魅力を、回復することができるはず。
私も施しに出席して減少した魅力を少しでも上げたいけれど、今はダークネス傭兵団の依頼案件が最優先ね。
実家に戻り昼食後しばらくすると、古くから仕える老執事が頭を下げて報告にきた。
「陛下、お待ちになられていた客人が到着いたしました」
「そう、すぐにここへ通しなさい」
「はい、かしこまりました」
老執事が踵を返して部屋から出ていく。
今日も安全面を確保するため、屋敷の庭園で現在二百名の私兵が訓練中だ。
お父様は仕事が忙しく同席できないが、依頼案件が長期化しているため資金を追加してくれた。
ほどなくしてドアがノックされると、老執事に案内されたダークエルフの男が応接室へ入ってきた。
「皇后陛下、本日もご機嫌麗しゅう。相変わらずお奇麗でいらっしゃる」
「ふん、世辞はいらないわ。今日もこの部屋から出るには、私が廊下で待機しているメイドに命令する必要があるから、変な気は起こさないことね」
「はい、心得ております。俺たちダークネス傭兵団は、依頼人を決して裏切らない。心配ご無用です」
団長が右手を胸にあてて軽く頭を下げた。
「そう願いたいものね。それよりも、二人を仕留めたのかしら?」
「ちょっ、こんな短期間では無理ですよ」
「はあ!? 半年も経っているのよ!」
「いやいや、ちょっと待ってください。相手は世界中を旅するSランク冒険者パーティーですよ? 居所を掴むだけでも大変なんです」
ダークエルフの男が両手を広げて首を横に振り、ヤレヤレといった感じで溜息をついている。
「で、二人は何処にいるのかしら?」
「それをこれから説明させてもらいます」
そう言って団長が、世界地図をローテーブルの上に広げた。
「二人の居場所を探すため、我々は冒険者ギルドを見張ることにしました」
「冒険者ギルド?」
「はい。Sランク冒険者パーティーは、三か月に一度ギルドの依頼を受けないと、降格になりますから」
「なるほどね。ギルドを見張れば、クリストハルトとリゼットが必ず現れると」
「そうです! さすが皇后陛下、察しがよろしい」
ダークエルフの男が、微笑みながら私を見ている。
「そこで我々はファルケ帝国、ブレイブ王国、グロリア公国、五つある独立国の全ての冒険者ギルドを手分けして見張りました」
「待ちなさいな。カーム教国が入っていないじゃないの」
「あー、あそこはちょっと……」
団長が困ったように頭をかいている。
そう言えば、ダークネス傭兵団の調査書に、カーム教国に関する記載があったわね。
この男は教国で色々な事件を起こして、指名手配されていたはず。
「カーム教国で、あなたが指名手配されているからかしら?」
「ご存じでしたか。流石の情報収集力ですね」
ダークエルフの男が、苦笑して私を見ている。
「でも、大丈夫です。どの国に居るのか、予想がつきましたので」
「それは素晴らしいことね。で、二人は何処に居るのかしら?」
「カーム教国です」
団長が自信満々に答えて、笑みを零した。
「どういうことかしら? カーム教国は誰も探していないじゃないの」
「ああ、すいません。説明不足でしたね。カーム教国以外の各国の全冒険者ギルドに部下が張り付いていましたが、三か月以上インフィニティはどこにも現れていません」
「なるほど。その間はカーム教国にある、いずれかの冒険者ギルドで依頼を受けていたはずだと」
「はい、皇后陛下」
あの二人がカーム教国に居たなんてね。
おそらく帝国から一番遠い国に、逃げたということかしら。
しかし、手間を掛けさせてくれるわね。
半年も無駄にさせられて……ああ、またイライラしてきた!
「で、この後はどうするのかしら?」
「それは勿論、ダークネス傭兵団の全軍をもって、カーム教国に向かいます。教国内の全冒険者ギルドで聞き込みをすれば、すぐに居場所も特定できると思いますよ」
「でも、あなた指名手配されているのでしょう? 大丈夫なの?」
「問題ありません。俺は世界最強の魔法使いです。俺の闇魔法SSがあれば、教国軍になど負けはしない。俺の邪魔をするようなら蹴散らすまでです」
ダークエルフの男がニヤリと不気味に笑った。
やはりこの男だけは、敵に回してはダメね。
「皇后陛下、我々は帝国から二手に分かれてカーム教国を目指します。第一部隊は、五つの独立国を通りカーム教国へ。第二部隊は、ブレイブ王国を経由してグロリア公国を通りカーム教国へ。途中で冒険者ギルドに配置していた団員を回収していきます」
「よろしく頼むわね」
「はい。必ずや皇后陛下のもとに、二人の首を持ち帰りますので、もう少々お待ちください」
ペコリと頭を下げた団長に追加経費を渡すと、喜んで帰っていった。
資金を出してくれたお父様には、感謝しかないわね。
さあクリストハルト、お前の命もあとわずか。
これで皇太子は、我が息子レオンハルトに決まる。
そしてリゼット、必ず息の根を止めてあげるわ。
帝国筆頭聖女の座は、私が一番相応しい。
絶対誰にも渡さないわ!




