第128話 教皇様は御礼がしたい
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僕とリゼが、教皇様とイルムちゃんに『どちらの仲が良いか対決』で勝利した後は、皆でお菓子やフルーツを堪能し大満足であった。
特にリゼはショートケーキ、焼菓子、フルーツを全種類制覇して満面の笑みを浮かべている。
ちなみに僕は、リゼからショートケーキを半分にした物を『あーん』してもらい、全種類食べたところでギブアップした。
焼菓子とフルーツには全く手を付けていない。
エルは体重を気にしているのか、フルーツばかり食べていた。
男の僕からしてみたら全然太っていないと思うのだけど、女性は色々と気になるのかもしれない。
クラウは淑やかに、バランス良く食べていた。
こういう緊張する場面でも平静でいられるあたり、流石伯爵家の令嬢である。
カルラは焼菓子の中に自分の知らない珍しい物があったようで、メイドに材料や作り方を聞いていた。
「さて、お腹も満たされたところで、そろそろ本題に入らせてもらおうかな」
教皇様が微笑みながら、僕をジッと見ている。
僕たちは姿勢を正し、教皇様の言葉を待った。
「バスラー隊長から聞いているかもしれないが、今回インフィニティの皆さんに来てもらったのは、多数の巨大熊を討伐してくれた御礼がしたかったからです」
「教皇様、僕たちは冒険者パーティーです。魔物を討伐するのは当り前で、教皇様から御礼を頂くなど畏れ多いことかと」
僕が遠慮すると、教皇様は困ったように笑い僕を見つめた。
「クリス殿、討伐ランクAの巨大熊は、討伐して当たり前ではないのです。過去にBランク冒険者パーティーが、討伐に失敗して全滅した記録が複数ある。Aランク冒険者パーティーでも、ケガ人は当り前で最悪死者もでます。つまり巨大熊と連続で戦うこと自体が難しい」
教皇様の後ろに控えるバスラー隊長が、ウンウンと頷いている。
「そんな巨大熊を短期間に十数頭も討伐するなんて。しかも無傷で……私が教皇になってから、いや過去の記録を調べても、おそらく初めてのことかと」
「……まあ、うちは優秀な魔法使いが多いですからね」
僕たちが無傷で巨大熊を討伐できたのは、大聖女であるリゼが居るからだ。
光魔法Sの結界が、ずっと守ってくれたお陰である。
大聖女リーゼロッテが残した光魔法の魔術書を読んだけれど、結界は侵入者を察知したり、同時に認識阻害をかけて身を隠すのが通常の使い方と記されていた。
魔力消費量も多く、連発するような魔法ではないらしい。
リゼの結界が強固だったので防御用に使ってきたが、本来は脆く壊れやすいものと魔術書に記述があった。
おそらくリゼが大量の魔力を注ぐことにより、強度が増したのではないだろうか。
それとリゼのように結界を二重に張るという発想は過去には無かったようだ。
しかも戦闘中に二重結界をひたすら維持し続けるなんて、普通の聖女ならすぐに魔力切れを起こすだろう。
底なしの魔力量を誇るリゼにしかできないことだ。
そんな大聖女リゼの二重結界内部からエルは水魔法、クラウは風魔法をひたすら巨大熊に叩き込んだ。
インフィニティ全員が、無傷で帰還するのは当然である。
「ふむ。とにかく君たちのお陰で、国民が安心して生活することができる。毎年、数十人が巨大熊に襲われて亡くなるのです。それが最近では、被害報告が無くなった。これは凄いことなのですよ」
教皇様が微笑みながら、僕たち全員を見回している。
「そこで君たちには、首都アベリアにある屋敷を贈りたいと思う。もちろん土地の権利書付きだよ。是非これからは、カーム教国を拠点に活動してみてはどうだろうか」
ふむ、首都にある土地付建物となると資産価値も凄そうだ。
でも僕たちは、住む家に困っていないのだけど。
「大変ありがたい申出なのですが、少し軍師と相談させていただいても、よろしいでしょうか?」
「ほお、軍師がいるのか。どうぞどうぞ」
僕は左隣に座るエルに耳打ちする。
『エル、どうしようか』
『うーん、屋敷に定住するのは危険かもしれないのだわ。皇后様に見つかる可能性が高くなるし。今までのように、クリスが複合魔法で作った平家に住む方が安全なのだわ』
『だよね……』
さて、どうやって断ればよいのやら。
「教皇様、僕たちは世界中を旅してまわっています。一国に長く滞在し続けることは難しいのです。今回は僕が闇魔法をバスラー隊長から教わっていたため、長期の滞在となっているだけでして」
「そうでしたか。でも屋敷がダメとなると、他に何が良いでしょうかね。うーん……」
教皇様が目を閉じて両腕を組むと、難しい顔をして考え込んでしまった。
「ですから教皇様、僕たちのことはお気になさらず。御礼など不要です」
「いやいや、それはダメだ。国民の安全のために巨大熊を十数頭も討伐してくれた恩人に、なんの御礼もしないとなれば、カーム教国の恥になってしまいます。何か欲しい物、探している物などありませんか?」
教皇様が真剣な眼差しで僕を見つめている。
これは断れそうにないかな。
欲しい物、探している物か……あっ!
「教皇様。僕たちは今、魔法の杖に組み込む魔力石を探しております。大きくて純度の高い希少な物が二つ必要なのですが」
「おお! 魔力石はカーム教国の特産品です。大聖堂の保管庫に気に入る物があると思いますよ」
「本当ですか!?」
「はい。ちなみに使用予定の魔法使いは、どんな魔法を使いますか? 魔法の種類ごとに、対応する魔力石の色が違いますので」
「光魔法と水魔法です!」
教皇様がメイドに指示を出すと、二人のメイドが退出し保管庫へと向かう。
そして、しばらくするとメイドたちが戻ってきた。
僕たちの目の前に大きな魔力石が二つ並べられていく。
一つは金色に光輝き、もう一つは奇麗なマリンブルーだ。
どちらも直径が十センチメートルくらいある球状で、純度が高そうである。
街の道具屋で見た物とは、大きさも純度も比較にならない。
「どうです、クリス殿。気に入ってもらえると良いのですが」
教皇様が微笑みながら僕を見ている。
「これです! 僕たちが探していた物は」
「それは良かった。金色が光魔法用で、青色が水魔法用です」
「本当に頂いても、よろしいのですか? こんな貴重な魔力石」
「ええ、どうぞどうぞ。二つなら屋敷の価値と同等ですし、気に入ってもらえたのなら何よりです」
教皇様は御礼ができてホッとしたようで、にこやかに笑みを零している。
とてつもなく高価な物を頂いてしまったが、いくら探しても見つからず、リゼとエルが一生使うかもしれない魔法の杖の素材である。
僕たちは教皇様に感謝して、ガイラルディア大聖堂を後にした。
それと別れ際に、教皇様が杖の素材として、軽くて丈夫な木材を二つくれた。
教国軍所属の魔法使いも使っているそうで、ありがたく頂戴した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アベリアの町郊外にある草原に戻ってきた僕たちは、複合魔法で作った平家の中で寛いでいる。
「お兄様、魔法の杖を作ってください!」
「クリス、私の分もお願いしたいのだわ」
リゼとエルが瞳をキラキラさせて、待ちきれないといった様子だ。
「了解。杖の形はどうしようか?」
「うーん、お兄様のセンスに任せます!」
「私もリゼと同じ形が良いのだわ」
ふむ、大聖女リーゼロッテの絵本に出てくる物とは、違う形にしたいかな。
僕は前世の魔法少女が出てくる作品を思い出す。
そして好きだったキャラが持っていた魔法の杖を、明確にイメージしていく。
「では、いくよー。 クラフト!」
僕たちの目の前に魔法の杖が二つ完成した。
杖の先端はハートの形をしており、ハートの中に大きな魔力石が組み込まれている。
魔力石を支える部分は木材では無理なので、鉄を追加しておいた。
教皇様にもらった軽くて丈夫な木材を基礎にして、周囲全体を薄い鉄で覆う。
杖の見た目は完全に鉄製だが、これなら今のリゼでも重くは感じないはずだ。
ハート型の先端部分に更に小さなハートを加え、周囲もオシャレな感じでウェーブが掛かっている。
「短くて金色の魔力石がリゼの杖、長くて青色の魔力石がエルの杖ね」
「「奇麗……」」
リゼとエルが手に取った魔法の杖をウットリと見つめている。
「杖全体の素材や長さ、先端の形状も、いつでも変えられるから遠慮せずに言ってね」
「お兄様、ありがとう! 大切に使いますね」
「クリス、ありがとう。リゼとお揃いで嬉しいのだわ」
リゼとエルの二人が抱き合って喜びを爆発させている。
可愛い系美少女代表のリゼと、奇麗系美少女代表のエルが笑顔で抱き合う姿は、まるで国宝の芸術品みたいに美麗だった。




