第127話 カーム教国教皇アンゼルム・バルリング
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リゼとカルラのファッションショーで二人の制服姿を堪能した翌日、僕たちはバスラー隊長と会うため、孤児院を訪問した。
そして三日後に大聖堂へ出向き、教皇様と謁見することが決まった。
バスラー隊長の話によれば、午後のティータイムに招待されたようで、呼ばれた理由は巨大熊を多数討伐した御礼らしい。
何かやらかしたのかとヒヤヒヤしたが、とりあえず一安心である。
その後僕たちは首都アベリアの町を駆けずり回り、大きくて純度の高い希少な魔力石を探した。
しかし、納得できる物を探し出すには至っていない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そしてあっと言う間に三日が経過し、午後のおやつの時間頃に孤児院でバスラー隊長と合流した僕たちは、アベリアの中心にあるガイラルディア大聖堂を訪ねた。
「お兄様、奇麗な赤レンガですね」
リゼが大聖堂を見て驚嘆している。
高い外壁に囲まれた敷地内に、二階建ての赤レンガ造りで緑色の屋根、建物の左部分に鐘を鳴らす塔がそびえたつ。
そして左隣の敷地には教会が建ち、カーム教の信者たちが大勢並んで順番を待っているようだ。
「本当だね。赤と緑の色合いが、とても美しいね」
大聖堂の正門前には、左右一人ずつ門番が立っている。
バスラー隊長が用件を伝えると、すぐに門が開いて敷地内へ入ることを許された。
良く手入れされた庭園を通り大きな扉から大聖堂に入る。
するとエントランスの空間は、ステンドグラスの窓から照らされる光によって、七色に輝く幻想的な世界が広がっていた。
「「「「奇麗……」」」」
うちの女性陣が、うっとり呟く声がシンクロした。
エントランスを通過して中央の階段を昇り、二階の廊下を右方向へ進み突き当りまで到達すると、ドアの前に二人の剣士が立っている。
「バスラー隊長、お疲れ様です」
剣士の一人が敬礼しながら挨拶すると、もう一人の剣士も慌てて敬礼した。
「ああ、お疲れさん。教皇様は?」
「中でお待ちです」
「そうか」
バスラー隊長がドアをノックすると、中からメイドが開けてくれた。
そして僕たち全員が部屋に入ると、ドアが閉められた音がする。
「教皇様、冒険者パーティー『インフィニティ』をお連れしました」
バスラー隊長の凛とした声が部屋中に響く。
「ご苦労様です、バスラー隊長。インフィニティの皆様も、どうぞお座りください」
正面奥の事務机に座り書類を書いていた中老の男性が、微笑みながら案内してくれた。
穏やかで優しそうな人だ。
そしてどうやらここは、教皇様の執務室らしい。
僕たちは部屋の中央にある長机に、教皇様と向かい合う形で着席した。
席順は奥からカルラ、エル、僕、リゼ、クラウの順である。
クラウを入口のドア側に座らせた理由は、万が一のことが起きたときの備えだ。
リゼの安全を最優先に考えたのだが、ここまでの対応を見るとその心配は不要だろう。
ちなみにバスラー隊長は、教皇様の後ろに立ち、護衛の任務にあたるようだ。
そう言えば教皇様のステータスをまだ確認していなかった。
【アンゼルム・バルリング】
カーム教国 教皇 人族 55歳 男
知力 92/93
武力 53/54
魅力 97/97
剣術 E/D
槍術 F/E
弓術 G/D
馬術 D/C
光魔法 S/S
話術 S/S
算術 A/A
芸術 B/A
料理 E/C
知力が高く、魅力に溢れる人だ。信用できると思う。
それに光魔法と話術がS、まあ教皇という立場からして必須なのかもしれない。
外見は白髪交じりの茶髪に目は茶色、身長は165センチメートルくらいの細身だ。
白い上質なローブを着ており、ローブの首周りから腹部の辺りまでには、美麗な金糸の刺繍が品よく施されている。
「本日は、お忙しいところご足労いただき、感謝いたします。教皇を務めております、アンゼルム・バルリングと申します」
教皇という一番上の立場にありながら、とても腰の低い人だ。
四十歳くらい離れた僕たちにも丁寧に対応してくれる。
「本日は、お招きいただき有難うございます。冒険者パーティー『インフィニティ』でリーダーを務めるクリスと申します。僕以外のメンバーも紹介させてください。奥からカルラ、エル、リゼ、クラウです」
僕が名前を呼ぶと同時に掌を彼女たちに向けると、それぞれ呼ばれたメンバーがペコリと頭を下げた。
「丁寧な挨拶をありがとう。しかし本当に皆若いのですね。バスラー隊長から聞いてはいましたが、この若さでSランクパーティーとは素晴らしい。まずは紅茶とお菓子を召し上がってください。詳しいお話は後ほどいたしますので」
教皇様がメイドに目配せすると、控えていたメイドたちが一斉に提供を開始する。
まずは、お菓子がどんどん並べられていく。
数種類の焼菓子にショートケーキ、フルーツの盛り合わせもあるようだ。
これは女性陣が喜びそうである。
小腹が空いていたのか僕の右隣に座るリゼは、瞳をキラキラさせて笑みを零している。
次に紅茶が皆の前に置かれていく。
この香りは覚えがあるな。
おそらく帝国の城で飲んでいたものと同じ茶葉だ。
僕たちをもてなそうとする気持ちが伝わってくる。
準備が整うと教皇様が、両手を組んで何か唱え始めた。
おそらく食事前にする、カーム教の作法なのだろう。
僕もとりあえず両手を組んでみた。
すると女性陣も僕の真似をして、一斉に両手を組んだ。
「では、いただきましょう」
教皇様の言葉に僕たちも続く。
「「「「「いただきます」」」」」
「さあ、遠慮せずに沢山食べてくださいね。おかわりも用意していますので」
皆で紅茶に口をつけると、女性陣は次々にお菓子へ手を伸ばす。
リゼは最初にショートケーキを選択したようだ。
満面の笑みでケーキを口に運んでいく。
「はい、お兄様。あーん」
突然リゼから『あーん』のお誘いである。
ふむ、リゼの狙いはお菓子の全制覇だろうか。
教皇様の前だけど、僕たちはまだ子供だ。
笑って許してくれるだろう。
「あーん」
リゼが自分の使っているフォークで、僕の口にケーキを運んでくれた。
僕は今日も幸せだ!
「ほう、二人は兄妹でしたか。仲が良いですね」
予想通り教皇様は、僕とリゼを怒ったりしないようだ。
微笑ましく僕たちを見ている。
「しかし、これだけの美少女に『あーん』をしてもらえるなんて、羨ましすぎますね」
教皇様は、そうつぶやくとバスラー隊長の方をチラリと見た。
意図を察した彼女はテーブル上にあるフォークを手に取ると、小皿にリゼが選んだのと同じショートケーキを一つ取り、一口大に切り分けてフォークで刺した。
「はい、教皇様。私でよろしければ是非。あーん」
ダークエルフのFカップ美少女、バスラー隊長に『あーん』をしてもらい、教皇様から笑みが零れている。
そして教皇様は『あーん』をしてケーキを食べた後、僕の方を見てニヤリと笑った。
むむ、これは負けられないのでは!?
僕はリゼの頭の上に掌を載せて、イイコイイコをした。
「えへへー、気持ち良いです、お兄様」
リゼが微笑みながらケーキを口に運んだ。
僕はニヤリと笑いながら教皇様を見る。
すると教皇様は口元を引きつらせながら、笑顔を崩さずにバスラー隊長を見た。
「もう、仕方ないですね。はい、どうぞ」
そう言うとバスラー隊長は、教皇様がイイコイイコしやすい位置にしゃがんだ。
「いいの!? イルムちゃん」
「はい。私でよろしければ、どうぞ」
教皇様がバスラー隊長にイイコイイコしている。
ふむ、バスラー隊長のことをイルムちゃんと呼ぶあたり、あの二人はそれなりに仲が良いらしい。
そして再び教皇様が、僕を見てニヤリと笑った。
これは僕も本気を出さないといけないな。
「リゼ、クリームが付いているよ」
僕はケーキを食べるリゼの口元に付いたクリームを、右手の人差し指ですくうと自分の口に放り込んだ。
そしてドヤ顔で教皇様に視線を向ける。
流石に諦めたのか、苦笑しながら教皇様がバスラー隊長を見る。
「ちょっ、無理! 無理ですって教皇様!」
バスラー隊長が慌てて立ち上がり、後ずさる。
「だよねー。流石に私もこれはできないよ」
二人が苦笑しながら見つめあっていると、成り行きを見守っていたメイドたちからも笑いが漏れる。
ふむ、わりとアットホームな職場なのかもしれない。
この後の話し合いも緊張せずに済みそうだ。
もしかして、場を和ませようとしてくれたのだろうか?
だとしたら教皇様って良い人すぎるな。
「いやー、参った参った。私の負けだクリス殿。私にも可愛い妹が居れば良かったけれど、弟しか居なくてね」
「いえいえ、僕もムキになって済みませんでした。でも、バスラー隊長がもう少し頑張れば、負けなかったと思いますよ」
「ちょっ、クリス! あれ以上はムリィー!」
バスラー隊長が悲鳴をあげると、皆が一斉に笑った。
イルムちゃんは、わりと乙女なのかもしれない。
今まで散々ボクッ娘とかクリスティーナとイジられていたので、思いがけずリベンジができて、スッキリした僕なのであった。




