第130話 幸せな日常
今回から通常どおり、クリストハルトの視点で物語が進行します。
教皇様に御礼として希少な魔力石を二ついただいた翌日、僕は珍しく早い時間に目が覚めた。
窓の方を見るとレースのカーテン越しではあるが、うっすらと光が差している。
いつもの起床時刻よりも、かなり早い時間のようだ。
僕の右隣では、丁度カルラがベッドから降りようとしているところだった。
「カルラ、おはよう」
「ありゃ、起こしちゃったっすか? これから朝食の準備をするっすから、もう少し寝ていてくださいっす」
いつもの整えられたサイドテールではなく、寝ぐせのあるストレートヘアでカルラが僕を見ている。
カルラの寝起きって、こんな感じなんだな。
彼女は皆よりも早く起きるので、寝起き姿は超レアだ。
「わかった。もう少し寝かせてもらうね」
カルラが微笑みながら手を振り、寝室を出ていく。
僕も笑顔で手を振り返し、彼女を送り出した。
もう一度寝直す前に寝室の状況を確認すると、僕の左側で眠るリゼを飛び越えたその先で、いつもの光景が繰り広げられている。
左端で眠るエルが、クラウを抱き枕にしながら羽交い絞めにしていた。
幸せそうな寝顔のエルに対し、クラウは苦しそうに呻いている。
以前僕もエルのHカップに顔を挟まれて死にそうになった経験があり、それ以来エルの隣で寝るのを避けてきた。
Hカップの感触は魅力だけど、気になって一睡も出来ないからね。
そんな苦い経験を思い出しながら左隣を見ると、リゼが僕の左腕にギュッと抱きついて静かな寝息をたてている。
十二歳になって成長著しい我が妹は、どんどん女性らしくなってきた。
ムニムニと左腕に当たっている双丘の感触から推測するに、Bカップに届いている気がする。
それにしても、なんて可愛い寝顔なのだろうか。
長く美しい銀髪を撫でると、シルクのように滑らかな肌触りだ。
窓から差し込む淡い光に反射して、髪に美しい光沢ができている。
銀色の長いまつ毛に高く形の良い鼻、思わず指でなぞりたくなる艶のある桜色の唇。
僕はリゼの頬に手を伸ばし触れてみた。
スベスベでとても柔らかい感触だ。
「んん……」
リゼの口から微かに声が漏れた。
危うく起こしてしまうところだったかも。
さて、もう一度眠るとしますか。
「こんな平和で幸せな日常が、ずっと続くといいな」
そうつぶやくと僕は、リゼの頬に優しくキスを落として再び眠りについた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
何だろう?
僕の頬に何かが触れている……
僕が目を開けると、至近距離のクラウと目が合った。
「あっ、おはようクリス。朝食の準備ができているぞ」
顔を真っ赤にしてクラウが僕を見つめている。
「クラウ、おはよう。リゼを起こしたら、すぐに行くね」
「ああ、リビングで待っているぞ」
そう言うとクラウが足早に寝室を出ていった。
どうしたのだろうか?
だいぶ慌てていたようだけれど……
それはそうと早く起きなきゃ。
カルラの作ってくれた朝食が冷めてしまう。
僕はリゼの肩を優しくゆすった。
「リゼ、おはよう」
「ん……お兄様?」
「朝食ができているよ」
「ふあ……むにゃ……」
「おーい、リゼ?」
「……」
ダメだ、また眠ってしまった。
うちの大聖女様は、とにかく朝が弱い。
「仕方ない、このまま運んでいくか」
僕はリゼをお姫様抱っこして、リビングへ移動した。
リビングにあるテーブルには、カルラが作ってくれた朝食が五人分並んでいる。
エル、クラウ、カルラの三人は着替えを済ませて既に着席していた。
「皆、おはよう。待たせてしまってゴメンね」
「問題無いのだわ。寝る子は育つと言うものね」
「エルの言うとおりだ。しかし、いつ見てもリゼの寝顔は可愛いな。アタシも妹が欲しかった」
「わかるっすよクラウ。自分もリゼたんみたいな妹が欲しかったっす。それにしても、この寝顔を見ているだけで癒されるっすね」
皆リゼに甘々である。
とりあえず僕は、パジャマ姿のリゼを椅子に座らせた。
「ん……良いニオイ」
リゼが微かに目を開いた。
「おはよう、リゼ」
「お兄様……おはよう……あれ? 私パジャマのままですね」
ようやくリゼが、現在の状況を把握したようだ。
「大丈夫だよリゼ。僕もパジャマのままだし。朝食が冷めてしまうから、今日はこのまま食べてしまおう」
行儀は悪いけれど、ここは帝城ではないので誰に怒られるわけでもない。
この後リゼは、いつものように二人分の朝食を完食した。
現在、着替えを済ませた僕とリゼは、リビングのソファーに座り紅茶を飲みながら皆とミーティング中である。
「さて、今後の予定についてだけど、意見のある人は?」
僕が女性陣を見回すと、カルラが手を挙げた。
「では、カルラどうぞ」
「はいっす。カーム教国での用事が無いようなら、次はグロリア公国に行きたいっすね。珍しい食材を探して、皆に新しい料理を作るので食べて欲しいっす」
「そうだね、次に行くとしたらグロリア公国かな。でも、教皇様に希少な魔力石を二つもいただいたので、もう少しだけ巨大熊を狩るのはどうだろうか。そうすれば御礼を兼ねて、作ったばかりの魔法の杖を試せるし」
「「「「賛成!」」」」
女性陣全員が賛同し、もう少しだけ巨大熊を討伐した後、グロリア公国へ移動することに決まる。
僕たちは準備を済ませると前回と同じように北を目指し、左回りに教国内の全冒険者ギルドを巡ることにした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あっという間に二カ月が過ぎ、僕たちはカーム教国の南方、グロリア公国との国境近くにあるホリホックの町へ到着した。
ここまで来ればあと少しで、出発地点の首都アベリアへ帰ることができる。
早速冒険者ギルドを訪ねると、昼過ぎということもあり混雑はしていない。
受付カウンターで魔物討伐の依頼を確認すると、特に無かったので次の町へ移動することにした。
しかしギルド内を歩いていると、何だかいつもと違う視線を感じたのだ。
いつもの視線というのは、インフィニティの美少女四人に対するもので、男特有の女性を見つめる視線である。
今回の視線は僕に対するものが混ざっていた。
何だか凄く嫌な感じがする鋭い視線だ。
ギルドの外に出ると、クラウが近づいてくる。
「クリス、冒険者ギルドで変な視線を感じなかったか?」
「感じた。刺すように鋭い視線だったね」
「あの視線の正体が何なのか、アタシには分からないけど注意した方が良いと思う」
僕は黙って頷くと、リゼの手をしっかりと握り、ホリホックの町を出ることにした。
いったいあの視線は何だったのか……僕の心の中に、何とも言えない違和感が残るのだった。




