第123話 ロータル・ヘンゼルト
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バスラー隊長が紹介してくれた店主のロータルさんは、自分に剣を作らせたかったら珍しい素材を持ってこいと要求してきた。
「ねえ、バスラー隊長。ロータルさんの腕前は?」
僕は、ロータルさんに聞こえないように小声で尋ねた。
「気難しいヤツだが腕前は確かだぞ。教国でも一二を争う鍛冶師だと思う」
ふむ、バスラー隊長が認めるほどの鍛冶師なら、是非剣を作ってもらいたい。
「クリス、この店の剣スゴイぞ! どれも逸品だ」
店内に飾られている剣を見たクラウが驚嘆している。
「そうじゃろう。お前さんは、剣の良し悪しが分かるみたいじゃの」
ロータルさんがクラウの目利きを認めているようだ。
褒められたクラウも嬉しそうに笑みを零している。
そういえば、店主の能力値をまだ見ていなかったな。
僕はロータルさんのステータスを確認してみた。
【ロータル・ヘンゼルト】
カーム教国 鍛冶師 ドワーフ 75歳 男
知力 59/60
武力 97/97
魅力 90/90
剣術 B/B
槍術 D/C
弓術 F/E
馬術 F/F
話術 C/C
算術 C/C
芸術 S/S
料理 B/A
武力97のパワータイプと予想する。
芸術Sは、鍛冶能力で間違いないだろう。
何気に料理が得意のようだ。ドワーフの料理って、何を作るのだろうか?
「で、誰のために剣を作るのかのう?」
「クラウの、彼女の剣を作って欲しいのです」
ロータルさんの質問に僕は、掌をクラウのいる方向へ向けながら答えた。
「ほお、嬢ちゃんの分か。剣を見る目はあるようだが、ワシの剣を使いこなせるかのう?」
店主が挑発するように長いヒゲを触りながらニヤリと笑った。
「では、実際に彼女の剣術を見てもらいましょう。バスラー隊長、相手になってもらえますか?」
「私か? フッ、いいだろう。相手になってやろうじゃないか。だが私は手加減が苦手でな」
「手加減は必要ないです。全力でお願いします。でも魔法の使用は無しで、純粋な剣術勝負で良いですか?」
「おもしろい。闇魔法が無くても私の武力は98だ。小娘に世の中の厳しさを教えてやろう」
さすが第一特殊部隊長だ。戦いを前に体から闘志が溢れ出ている。
並みの剣士なら闘気にビビって、萎縮してしまうだろう。
まあ、クラウにその心配は無用だけれど。
「おお、何だか面白い試合が見れそうじゃの。店の裏庭を使ってくれ」
ロータルさんが笑顔で裏庭の方角を指さして、僕たちを案内してくれた。
裏庭に到着すると僕は、収納ボックスから木刀を二本取り出して、クラウとバスラー隊長に渡した。
「では、僕が審判をするね。まずは、試合を始める前に確認します。この試合は魔法の使用を禁止とし、剣術のみの戦いとする。なお、真剣の使用を禁止とし、木剣のみ使用可能とする。それと相手を重症にする急所への攻撃は禁止とする。両者ともよろしいか?」
「ああ!」
「承知!」
バスラー隊長とクラウが了承の返事をした。
リゼ、エル、カルラ、ロータルさん四名の見学者は邪魔にならないよう隅の方に立っている。
すると一陣の風が吹いて、裏庭の落ち葉がカサカサと音をたてて流された。
そして突風がおさまると、裏庭に静寂が響く。
「では……始め!」
僕の合図で試合が始まった。
まずはバスラー隊長が先に仕掛けた。
一気に間合いを詰めると、上段からの振り下ろし、横なぎ、右下から左上に斬り上げる逆袈裟切りなどのコンビネーションでクラウに連打を浴びせている。
凄い迫力だ。普通の剣士なら受けきれずに一瞬で勝負がつくだろう。
だが、クラウは全ての攻撃を剣で受け止め、完璧に防いで見せた。
「なんだと! 私の攻撃が当たらないなんて」
バスラー隊長がクラウの腕前に驚愕している。
二人とも武力98だが、剣術はバスラー隊長がAでクラウがSだ。
僕からしてみれば当然の結果だけれど、知らない人からしてみれば驚くに違いない。
「では、こちらからも参る!」
クラウが宣言と同時に攻勢をかけると、バスラー隊長が必死に防御しているが、とても苦しそうだ。
そして一瞬の隙をついて、クラウがステップを踏みバスラー隊長の後方へ回ると、彼女の首に優しく木剣を添えた。
「はい、チェックメイト」
「な、なんだと! 私が、こんな小娘に負けるなんて」
バスラー隊長が膝から崩れ落ちた。
まあ、ここが戦場で魔法もありの状況なら、闇魔法Sのバスラー隊長が勝利している可能性が高いと思う。
「何なのだ、この強さは。まるで剣聖のようではないか」
疲れきった顔でバスラー隊長がクラウを見ている。
「アタシは剣聖じゃない。剣聖は父上だ」
「はあ!? お前、帝国剣聖の娘だったのか! それならこの結果も納得できるが、お前ほどの人材をよく帝国が国外に出したものだ。ん? だとすると護衛のためか? 一体誰の?」
バスラー隊長が目を細めて僕たちを見比べている。
まずいな、目立ちたくないので皇族であることは、秘密にしておきたかったのだけど。
「カルラは……違うな。話し方からして普通の少女だ。クリスは……違うな。ボクっ娘聖女だし」
「ちょっと待てよ! 僕は男だって何度も言ってるだろ!」
「ん? ああ、そんなことはどうでもいい。もう少しで答えが出そうなんだ。静かにしていてくれ」
ぐぬぬぬ、僕にとっては一大事なんだけど!
「となるとエルかリゼが皇女なのだろうな。それならば、クラウが護衛についているのも納得できる。エルは……とても美しく気品に溢れているな。リゼは……なんて可愛らしいのだ。私の妹にしたいぞ。さて、どちらが皇女なのか……」
どんどんバスラー隊長の推理が進み、リゼが皇女だとバレそうだ。
僕は、さり気なくエルに近づいて、相談することにした。
「エル、どうしようか? 皇族であることがバレそうだけど」
僕が小声で尋ねると、エルが顔を近づけて耳打ちしてきた。
あ、何だか良い香りがする。香水だろうか?
「ここまで知られてしまったのなら、仕方がないわね。バスラー隊長とロータルさんには、内緒にしてもらうのだわ」
エルの助言に僕は黙って頷いた。
「解ったぞ! 今のクリスの行動で全ての謎が解けた」
まるで名探偵のように掌で顔を覆ったバスラー隊長が、僕とエルの方を見ながら自信満々に微笑んでいる。
「皇女はエルに間違いない。クリスは主であるエルに相談したのだ。皇女なのがバレそうだと」
うーん、惜しいな。半分くらいは正解に近いのだけど、何だか色々ズレている。
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、リゼは一体何者だと?」
「う、リゼか? うーん、リゼは……そう! リゼはエルの従者だ!」
どうだと言わんばかりに、バスラー隊長が胸を張ってドヤ顔をしている。
従者に間違われたリゼは、バスラー隊長の迷探偵ぶりを見て、必死に笑いを堪えているようだ。
そんな仕草もとても可愛らしい。
しかし会う度に聖女認定されるのも、最近ストレスになりつつあるのだ。
なので僕は男であることを、この場で証明することにした。
そのために僕は収納ボックスから皇族手帳を取り出して、バスラー隊長に見せた。
「ん? 何だこれは? ……皇族手帳だと!? クリスが第三皇子で、リゼが第一皇女……」
手帳を持つバスラー隊長の手が小刻みに震えている。
そして唐突に深呼吸をしてから片膝をついた。
「クリストハルト殿下、リゼット殿下、遠路はるばるようこそカーム教国へお越しくださいました」
「いや、そういうのは止めて欲しいのだけど。僕たちは冒険者として教国へ来たんだ。僕のことは今まで通りクリスでお願いします。それにバスラー隊長は、僕にとって闇魔法の師匠ですから、堂々としていてください」
僕の言葉にバスラー隊長は立ち上がると、歩み寄って僕のことを抱きしめた。
「クリス、お前良いヤツだな。今までボクっ娘聖女とかクリスティーナとか言ってゴメンな」
「ええ、これからは男として見てくださいね」
「勿論だ。あと……私が色々粗相をしたが、国際問題にしたりしない?」
バスラー隊長が泣きそうな顔で僕を見つめている。
「しませんよ。僕もリゼも気にしていませんから」
「はーあ、良かった。これで今まで通り何の問題も無しだな。ってことでロータル、是非クラウに剣を作ってやって欲しいのだが」
すっかり元気になったバスラー隊長が、ロータルさんに頼み込んでくれた。
「そうは言ってもなあ。クラウの腕前は文句なしだが、ワシは今珍しい素材で剣が作りたいんじゃ。いくら殿下の頼みと言ってもこれは契約だし、ワシにも断る権利くらいはあるじゃろ?」
うーん、どうしても珍しい素材じゃないとダメなようだ。
今から探すにしても、一体何を探せば良いのやら……待てよ、デス砂漠で討伐した巨大ミーアキャットはどうだろうか? ギルド長も珍しい素材だから売らずに持っておけって助言してくれたし。
「ロータルさん、これを見てください」
僕は収納ボックスから巨大ミーアキャットの死骸を取り出した。
「うおお、なんじゃこりゃ!?」
「巨大ミーアキャットの死骸です」
「はあ!? これが? そんな超レア魔物、ここ数十年発生しておらんはずじゃが」
ロータルさんが小首を傾げて僕を見ている。
「いや、ちょっと待てロータル。少し前にデス砂漠で、巨大サソリのスタンピードが発生してな。その原因が巨大ミーアキャットだったという情報があるのだ」
「本当なのかバスラー」
「ああ、確かな情報だ。それにクリスが嘘を言うとも思えないし、間違いなく巨大ミーアキャットの死骸だと思うぞ。で、どうするロータル。珍しい素材も揃ったようだが」
「そうじゃな」
ロータルさんが僕を真剣な眼差しで見つめている。
「殿下、どうかワシに巨大ミーアキャットの剣を作らせてください。報酬なんて無しで構わんから是非」
「ロータルさん、殿下は止めてください。僕たちは今冒険者なので、クリスと呼び捨てにしてくれると助かります。それに報酬は普通にお支払いしますので、貰ってくれないと困ります」
僕が苦笑しながら答えると、ロータルさんが握手を求めてきた。
僕とロータルさんはガッチリと握手を交わして、無事にクラウの剣を作ってもらうことになった。




