第122話 大聖女のプライド
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最後の力を振り絞り放ったエルの水魔法が、巨大熊の胸部を貫通し討伐に成功した。
僕は血抜きの終わった巨大熊を収納ボックスへ入れると、皆と一緒に森を出ることにする。
「クラウ、エルをお願いできるかな?」
「承知した。アタシに任せてくれ」
カルラに支えられていたエルを、クラウが優しくお姫様抱っこした。
魔力切れを起こして気を失っているエルは、クラウの腕の中でぐっすりと眠りについている。
念のため僕はエルにエクストラヒールをかけておいた。
僕が魔力切れを起こしたときに、リゼが同じようにしてくれたのだが、ポカポカして心地良かった記憶があるので無駄ではないはずだ。
「リゼは大丈夫? 魔力切れの心配はないかな?」
巨大熊に何度も結界を破られて、ひたすら二重結界を維持し続けたのだ。かなり魔力を消費したはずである。
「うーん、戦闘中は少し焦りましたが、今は平気です」
さすが大聖女、疲れた様子も見せずにリゼが眩しい笑顔を僕に向けている。
「大変だったよね。良く持ちこたえてくれた。リゼ、お疲れ様」
僕はリゼの頭を優しく撫でた。
「えへへー、もっと沢山撫でて欲しいです」
リゼが気持ち良さそうに目を閉じている。
「はいはい、平家に戻ったらね」
「約束ですよ、お兄様」
リゼが僕にギュッと抱きついてきた。
「クラウもお疲れ様。大切な剣がボロボロになってしまい、申し訳ない」
「旦那様……、気にしなくて大丈夫だ。ずっと使い続けていた剣だし、そろそろ新しいものをと考えていたからな」
クラウが微笑んで僕を見ている。
「首都アベリアの町に戻ったら、クラウの新しい剣を作ろう。もちろん費用は、パーティーの経費として出すから心配いらないよ」
「良いのか? アタシも手持ちの範囲で負担するけど」
クラウが心配そうに僕を見つめている。
「問題ないよ。こういうときのために、今までの報酬を積み立ててあるのだから」
「でもアタシだけ剣を新調してもらうのは気が引けるな」
「ああ、大丈夫だよ。そのうちリゼとエルの魔法の杖とかも作る予定だし」
「そうか、それなら遠慮なく剣の新調を頼むとしようか」
クラウが燃えるように美しい赤髪のポニーテールを風になびかせて、微笑しながら僕を見ている。
僕はクラウのアメジストみたいに奇麗な紫の瞳を見つめて、黙って頷いた。
「カルラもお疲れ様」
「お疲れっす、クリスっち。といっても自分何もしてないっすけどね」
カルラが困ったように苦笑している。
「そんなことないさ、カルラがエルをしっかりと支えてくれていたから、僕たちは戦いに集中できた。それにカルラが居なかったら、巨大熊の血抜きもできなかったし」
「そっすよね。戦えなくても自分、皆の役に立ってるんすよね」
「もちろん」
カルラが嬉しそうに笑みを零している。
「さあ、早くアベリアに帰って、エルをベッドに寝かせてあげよう」
僕が声を掛けるとリゼ、クラウ、カルラが黙って頷いて歩き始めた。
森を抜ける途中、巨大熊を足止めするために僕が作った壁等を土に戻しながら進んだ。
そして、ようやく草原に出たところで新風力車に乗り、一旦プリムラにある冒険者ギルドへ移動し、巨大熊の討伐報告を済ませる。
その後、新風力車でさらに南下して、夕方前に首都アベリアの町に到着すると、郊外にある草原に僕が複合魔法で平家を作り、皆で静養に努めた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
エルが魔力切れから回復して目覚めたのは、翌日の昼頃だった。
ずっと付きっきりで看病していたクラウが、リビングに駆け込んで知らせてくれたのだ。
全員がエルのベッドの周りに集まり、回復を喜んでいる。
「エル、気分はどうかな?」
「沢山寝たせいか悪くないのだわ。それよりもクリス、私のステータスを見せて欲しいのだけど」
「わかった。皆僕の手に触れてね」
一斉に女性陣が僕の手に触れたので、エルのステータスを表示した。
【エルネスタ・フォン・リートベルク】
ファルケ帝国 リートベルク侯爵家長女(賢者) 15歳 女
知力 99/99
武力 47/53 (46から47へ上昇)
魅力 95/95
剣術 F/F
槍術 G/F
弓術 G/F
馬術 D/D
火魔法 C/C
水魔法 A/S (BからAへ上昇)
話術 S/S
算術 S/S
芸術 S/S
料理 E/D
「水魔法がAに上がっているのだわ!」
歓喜したエルが、クラウの顔を自分のHカップに挟み込んで、喜びを爆発させている。
一見クラウが羨ましく見えるかもしれないけれど、あのHカップに顔を挟まれるということは、幸せではあるが死と隣り合わせなのだ。
以前僕が経験したときは、窒息しそうになり本気で死を覚悟したのだから。
「エル、おめでとう」
「クリス、ありがとうなのだわ」
エルが満面の笑みで僕を見つめている。
「しかし全てのウォータースピアを巨大熊の弱点である胸部へ命中させるなんて、凄いよエル」
「皆が協力してくれたから、できたのだわ。でも最後の一撃では、リゼに無理をさせてごめんなさい」
必死になって二重結界を維持してくれたリゼに、エルがペコリと頭を下げた。
「エル……、頭をあげて。エルは私の結界を信頼してくれたのでしょう?」
「勿論なのだわ」
「それなら私は皆の期待に応えたい。これからも二重結界を維持して、皆の安全は私が守る。大聖女のプライドにかけて」
リゼが凛とした顔立ちで皆に宣言した。
どうしよう……僕の妹がどんどん成長しているのだけど。
僕はリゼが愛おしくてたまらなくなり、思わずギュッと抱きしめてしまった。
「ふええ、お兄様? く、苦しいです」
リゼが僕の背中をペシペシと叩いている。
「ああ、ごめんねリゼ。あまりにもリゼが愛おしくて、気持ちを抑えられなかった」
「もう、お兄様ったら」
リゼが困ったように言うが、なんだか表情はとても嬉しそうである。
「私もリゼが愛おしいのだわ」
「アタシもだ」
「自分もっすね」
エル、クラウ、カルラもリゼが愛おしくてたまらないようで、皆がリゼに一斉に抱きついた。
「うああ、ちょっと皆どうしたの?」
しばらくリゼは皆に揉みくちゃにされていたが、誰かのお腹が鳴って昼食になった。
その後エルもすっかり元気になったので、皆でクラウの剣を作るため首都アベリアの町へ移動する。
しかし闇雲に探しても仕方がないので、孤児院に行ってバスラー隊長に相談することにした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
孤児院に到着すると、庭で子供たちと遊ぶバスラー隊長を発見した。
「バスラー隊長、ちょっといいですか?」
「ん? クリスティーナじゃないか、よく来たな」
「誰がクリスティーナだよ! 僕はクリストハルトだ!」
「あははは! 今日も良い反応だな。満足満足」
くっ……またオモチャにされてしまった。
いかんいかん、冷静にならないと。
「で、クリスどうしたのだ?」
バスラー隊長が小首を傾げて僕を見ている。
「ああ実はですね、クラウの剣を作りたいのですが、どこか良い店を知りませんか?」
「剣か……、知らないことはないが店主が気まぐれでなあ」
「気まぐれ?」
「まあ、行けばわかるさ。案内してやるからついてきな。すぐそこだから」
僕たちはバスラー隊長の後を追いかけたが、本当にすぐ近所だった。
「よう、ロータル居るか? 客を連れてきてやったぞ」
しばらくして奥の方から店主が出てきた。
背の低い筋肉ダルマの男性で、ヒゲがもじゃもじゃ……ドワーフだろうか?
「なんだバスラーか。ワシに剣を作らせたかったら珍しい素材でも持ってこい」
バスラー隊長が紹介してくれた店主ロータルさんは、気難しそうな感じである。
果たしてクラウの気に入る剣を作ってもらえるのか、僕たちは不安になるのだった。




