第121話 塵も積もれば山となる
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エルが魔力切れまで水魔法Bのウォータースピアを打ち続けると、皆の前で決意を示した。
でもエルは諦めているわけではなく、皆の安全のためにやるべきことを最短の時間でやり遂げると、宣言しているのだ。
そう、やれるかやれないかをハッキリさせると。
エルが魔力切れまでに巨大熊を討伐できれば目標達成。
もし、できないようなら僕とクラウで速やかに殲滅して、皆の安全を確保して欲しいのだろう。
エルにトドメを刺させようと無理をすれば、巨大熊の猛反撃にあって大惨事になることも予想できるからだ。
「作戦開始前に注意して欲しいことがある」
僕の言葉に皆が注目している。
「絶対に火魔法を使わないこと。大規模な森林火災が発生したら大変だし、僕らも全員助からない可能性がある」
皆が黙って頷いた。
「ではカルラ、エルの近くで待機して。もし、エルが魔力切れを起こしたら看病してあげてね」
「了解っす!」
カルラが敬礼して、エルの側に素早く移動した。
「リゼは、このまま結界を二重に維持して」
「了解!」
冷静さを取り戻したリゼが、長く美しい銀髪を風になびかせて、凛々しい顔で答えた。
「クラウは巨大熊の動きを、できる範囲で牽制して欲しい」
「承知!」
クラウがリゼの結界から出て、巨大熊に向け剣を中段に構え迎撃態勢に入った。
「エルは、僕とクラウで巨大熊の気を引くから、その隙にウォータースピアを弱点の胸部へ的確に撃ち込んで」
「了解なのだわ」
「続けて撃つ必要はないから、焦らず狙いを定めてね」
エルが僕を見つめて無言で頷いた。
作戦の打ち合わせが終わると同時に、巨大熊が仁王立ちをやめて、四本足でゆっくりと僕たちの方へ歩いてくる。
まるで勝利が確定しているかのように、ゆったりと歩み寄るその姿からは余裕すら感じる。
口元からヨダレをダラダラと垂らして、誰から食べようか考えているのかもしれない。
「レストリクション!」
僕は巨大熊の動きを止めようと、複合魔法で拘束を試みた。
地面から沢山の輪が飛び出して、巨大熊の四本足に絡みつく。
完全に拘束できたと思ったのだが、次の瞬間ヤツは鋭い歯とツメで拘束具を破壊した。
「マ、マジっすか!? クリスっちの拘束魔法を簡単に破壊するなんて」
カルラが巨大熊の歯とツメの威力に驚愕している。
「うーん、この歯とツメの攻撃力はヤバイね。クラウ、十分に気をつけて!」
「承知した!」
僕の言葉にクラウが警戒レベルを上げたようだ。
そして次の瞬間、巨大熊が二本足で立ち上がると、両手を掲げて大きな声で吠えた。
先ほどの拘束魔法に、かなり怒っていてイライラしているようだ。
ヤツの弱点である胸部が、ガラ空きである。
「聖なる水よ、我が敵をつらぬく槍となれ。ウォータースピア!」
さすがエル、僅かな隙を見逃さずに放った水魔法は、巨大熊の弱点である胸部を的確に捉えていた。
しかしヤツは自分の胸部に刺さった水の槍を鋭利なツメで破壊すると、こんなの効いていないと言わんばかりに、二本足で立ったまま咆哮した。
「聖なる水よ、我が敵をつらぬく槍となれ。ウォータースピア!」
巨大熊が興奮して弱点の胸部をさらしているのを、エルは見逃さずに再び水魔法を撃ち込んだ。
気のせいかもしれないが、水の槍がだんだん深く刺さっているように感じる。
「エル、素晴らしい攻撃だ。このまま続けて!」
「了解なのだわ!」
僕とエルが会話をしている間に巨大熊は、自分の胸部に刺さった水の槍を鋭いツメで破壊すると、仁王立ちをやめて四本足に戻った。
さすが他の魔物と比べて知力が高く、学習能力があるようだ。冷静さを取り戻し、むやみに自分の弱点をさらすのを避けたようである。
そしてエルを無視して、自分の一番近くに居るクラウに狙いを定めたようだ。
巨大熊は、ゆっくりと四本足でクラウに近づいていく。
ところが最初に仕掛けたのはクラウだった。
鋭い出足で一気に間合いを詰めると、巨大熊の両前足に斬撃を叩きこんだ。
「グオー!!」
予想外の攻撃を受けて相当イラついたのか、巨大熊は仁王立ちになると今までで一番大きな声で吠えた。
「聖なる水よ、我が敵をつらぬく槍となれ。ウォータースピア!」
その一瞬の隙を逃さずに、エルが水魔法を巨大熊の胸部へ撃ち込んだ。
その後しばらくの間、クラウが巨大熊の猛攻を剣で受け流してカウンターによる斬撃を加え、怒った巨大熊が仁王立ちして吠えるということが繰り返された。
そしてエルは、巨大熊が仁王立ちする度に水魔法を胸部へ的確に撃ち込んだ。
「クリス! 剣がボロボロで限界が近いかも!」
クラウに緊急事態が発生したようだ。
そういえば旅に同行してもらってから、一度も剣のメンテナンスを受けさせていなかった。
どのくらいの頻度で必要なのか、僕は全く知らない。
後でクラウと話し合わないといけないな。
「クラウ! 巨大熊の気は僕が引くから、一旦リゼの結界内に避難して!」
「承知!」
素早い動きでクラウがリゼの結界内に戻ってきた。
「クラウ、お疲れ様。しばらく休憩して体力を回復させてね」
「了解、後は任せたぞクリス」
「ああ、任された」
さて、どうしたものか。
巨大熊に適度なダメージを与えられそうな魔法攻撃……ふむ、洗濯魔法から試してみるか。
こうしてる間にもヤツが、ゆったりとした足取りで僕たちの方へ近づいてきている。
「とりあえず洗濯魔法を試してみるね」
僕は皆に聞こえるように宣言してから複合魔法を使い、巨大熊を水の膜でできた箱に閉じ込めた。
以前巨大蜂のときに使った作戦だが、果たして巨大熊に通じるのかどうか。
僕はヤツが閉じ込められている水の箱の中に、水魔法で大量の水を一気に注入した。
すると巨大熊が溺れたように水中でジタバタともがいている。
「クリスっち、いい感じっすよ。このまま気を失ってくれれば、エルが水魔法で攻撃し放題っす!」
確かにカルラの言うとおりになれば最高だ。
エルに魔力切れまで水魔法を連打させることができる。
しかし次の瞬間、巨大熊が水の箱の中で正面にツメ攻撃を左右一回ずつ入れると、水の箱はあっさり崩壊した。
「そ、そんな。たった二回のツメ攻撃で、クリスの洗濯魔法を破るなんて」
クラウが巨大熊に鋭い視線を向けながら驚愕している。
「洗濯魔法もダメか……強敵だね」
僕がつぶやくと同時に、イラついた巨大熊が仁王立ちして咆哮した。
その怒声からは、イライラ度が上限に達しているように聞こえる。
「聖なる水よ、我が敵をつらぬく槍となれ。ウォータースピア!」
好機を逃さずにエルが水魔法を放つと、巨大熊の弱点である胸部に水の槍が深くめり込んだ。
すると今までエルの水魔法に見向きもしなかったヤツが、あからさまに不快感を示している。
「エル、効いているよ。巨大熊が凄く嫌がっている!」
僕の言葉にエルが微笑み返してくれているけれど、何だか様子がおかしい。
少し苦しそうにしているような……
「エル、もしかして魔力切れが近いの?」
僕の問いかけに、皆が一斉にエルを見つめた。
「次の一撃が最後かもしれないのだわ」
弱々しい口調で、エルが苦笑しながら僕を見ている。
フラついているようで、カルラが後ろから優しくお腹の辺りを支えていた。
「少しでも威力を上げるために、最後の一撃は至近距離から撃ち込んでみるのだわ」
そう言うとエルは、おぼつかない足取りで前へ進んだ。
そしてリゼの結界内ギリギリで立ち止まると、両手を大きく広げて巨大熊を挑発した。
エルの挑発に反応した巨大熊は、四本足で一直線にエル目掛けて突撃してくると、リゼの結界と衝突した。
その瞬間、リゼの外側の結界が破壊された。
「マ、マジっすか!? リゼたんの結界を一撃で破壊するなんて!」
カルラがあまりの衝撃に一歩後ろへよろめいたが、彼女の両手はエルのお腹をしっかりと支えていた。
「リゼ、急いで結界を二重に保って!」
「了解……今、内側に結界を張り直しました。以後、結界を二重に維持します!」
リゼの凛とした美声が周囲に響いた。
しかし巨大熊の攻撃力が半端ない。
エルとカルラが通常のパーティーに所属していたら、さっきの突撃で即死だったかもしれない。
通常のパーティーに大聖女の結界は無いのだから。
そして興奮した巨大熊は再び仁王立ちになると、エル目掛けて左右のツメ攻撃を浴びせてきた。
左、右の順にリゼの結界をツメ攻撃が襲うと、結界が破壊されてしまった。
慌ててリゼが残った結界の内側に、新しく結界を張り直した。
結界が二重に保たれた瞬間に、巨大熊が外側の結界を破壊するといったことが数回繰り返されている。
リゼが必死になって結界を二重に維持するのだが、やれると確信した巨大熊は自信満々に左右のツメ攻撃を連打してくる。
しかし弱点の胸部がチラチラと見え隠れしており、ずっとタイミングを計っていたエルが最後の一撃を至近距離から放った。
「聖なる水よ、我が敵をつらぬく槍となれ。ウォータースピア!」
エルが残りの魔力を全て注ぎ込んだ渾身の一撃を巨大熊の胸部に撃ち込むと、水の槍が貫通してヤツの背中から飛び出した。
「グオー!!」
巨大熊が咆哮すると同時に、魔力切れを起こしたエルが意識を手放した。
するとエルの後ろで支えていたカルラが、気を失ったエルをしっかりと抱きしめていた。
そしてエルの最後の一撃に胸部を貫かれた巨大熊は、パタリと後方へ大の字に倒れたのだ。
僕がヤツを鑑定してみると、赤い文字で『死亡』と表示されたのだった。
更新間隔が長くなってしまい恐縮です。実は6/17に人生初の救急搬送、手術、入院となってしまい数日前にようやく退院できた次第で(汗)
この作品の第一話のように女神パラスが迎えに来ちゃうところでした。皆様も睡眠をしっかりと取り、健康にご留意いただければと思います。
医師からも無理はするなと言われているので、今後の更新は一週間くらいのペースを予定しています。
続きまして、こちらは良いお知らせです。
この作品はカクヨムでも公開しておりまして、現在「電撃の新文芸5周年記念コンテスト」に応募していたのですが、なんと最終選考に残りました!
最終結果は今年8月頃の予定だそうです。
このお話は150話前後で完結できればと考えており、今後は新作と並行して取り組んでいきたいと思いますので、引き続き応援していただけると嬉しいです。
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