第119話 巨大熊
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僕たちは、カーム教国最北端の町プリムラにある冒険者ギルドで、巨大熊討伐の依頼を受けた。
まだ昼を過ぎたばかりの時間なので、早速巨大熊が生息しているとされる森へ向かう。
徒歩なら一日かかる場所だけど、新風力車で移動する僕たちは三十分くらいで着いてしまった。
「ほえー、なんか大自然って感じっすね」
カルラの言うとおり、人里離れたこの森は深い緑に覆われて、どこからも日は差し込んでこない。
狭い道は湿っており、歩くと落ち葉の絨毯に靴が沈む。
湿った落ち葉のニオイがたちこめる中、微かに清々しい落ち着きのある香りがする……ヒノキだろうか。
「お兄様、このように見通しが悪いと、巨大熊を探すのは大変ですね」
「そうだね。でも、この前習得した闇魔法Bに索敵というのがあって、これを使えば魔物を見つけることができるらしいよ」
「素晴らしいのだわ。索敵があれば魔物にバッタリ出会ってしまうことも回避できるし、不意打ちをくらうことも無くなるわね」
「さすが旦那様。やはり闇魔法って凄いのだな」
エルとクラウにも索敵の有効性が伝わったようだ。
僕は早速闇魔法Bの索敵を発動した。
範囲は限定的だけど、気配を探る感覚が伝わってくる。
距離にして百メートルくらいだろうか。
「お兄様、どうですか?」
「うーん、近くには居ないみたいだね。しばらく道なりに進んでみようか」
皆が頷くので、僕たちは狭い落ち葉の絨毯を慎重に進んで行く。
僕を先頭にリゼ、カルラ、エル、クラウの順に一列になって進んだ。
十分くらい経った頃、僕の索敵に魔物の反応を感じた。
「皆、止まって。魔物の気配を感じる」
「お兄様、巨大熊でしょうか?」
「どうかな。索敵では、魔物の種類まで特定できないようだね。そこに何か居るとしか認識できないみたい」
僕たちは、しばらくの間止まって様子をみた。
しかし、相手も止まったままで動こうとしない。
「魔物に動きが全く無い。埒が明かないので、こちらから少しずつ距離を詰めよう」
「クリス、気をつけてください。待ち伏せされているのかもしれません」
リゼが戦闘態勢に入ったようだ。
僕に対する呼び方が、お兄様からクリスに変わった。
「リゼ、念のため結界を二重に張って、全員を守りながら進んで」
「了解」
そして魔物の反応があった場所に到達すると、そこは窪地になっていた。
下まで十メートルくらいあるだろうか。
縦横それぞれ五十メートルくらいの正方形のような地形だ。
天井は中心部分を除いて木が生い茂っており、中心部分からは日が差している。
その唯一暖かそうな、日なたがある窪地の中心で、巨大な熊が気持ち良さそうに寝ていた。
「鑑定するから皆、僕の手に触れて」
女性陣が一斉に僕の手に触れた。
【巨大熊】
魔物 10歳 オス
知力 50/51
武力 91/92
魅力 15/27
特徴……大陸北方に多く生息している。他の魔物と比べて知力が高く、記憶力と類推能力に長ける。小さな音でも聞き分ける聴覚と、わずかなニオイを嗅ぎ分ける嗅覚を持つ。運動能力も高く、人より速く走ることができ、泳ぎも木登りも得意なため、一度見つかると逃げきるのは困難である。強い力と鋭いツメを持ち、人の頭部を一撃で吹き飛ばす。よだれを垂らしているときは、空腹でイライラしているので、決して近づいてはいけない。寝ているところを離れた場所から攻撃すること。弱点は頭部のやや下にある胸部の中心。ただし一撃で仕留めないと大反撃をくらうので、勝算がない場合は戦いを避けるのが無難である。
「さすが討伐ランクA、これは今までの魔物で一番強いのだわ。私の水魔法Bで倒せるのかしら」
「人より早く走るとかヤバイっすね」
「人の頭部を一撃で吹き飛ばすのか。前衛のアタシは、特に気を引き締めないといけないな」
「そういえば冒険者ギルドの受付嬢が、すでに死者が十二人出ているって言っていましたね」
エル、カルラ、クラウ、リゼの順に意見を述べた。
今まで討伐した魔物の中でも知力が高く、武力91は強そうだ。
魅力が12減っているけど、これまでに出ている死者も十二人。
これって……
「もしかすると魔物の魅力って、殺した人の数だけ減るのかもね」
「たしかに数値は一致しているのだわ。クリスの言うとおりかも」
僕の推測にエルも同意見のようだ。
「さて、強敵ではあるけれど、いざとなったら僕かクラウが何とか対処できるはず。とりあえず寝ているこのチャンスを逃す手はないよね」
「私の水魔法Bで一番攻撃力の高いウォータースピアを使って、一撃で倒せればよいのだけど」
「エル、大丈夫だよ。自信をもってやってみよう」
エルが決意のこもった真剣な眼差しを僕に向けて頷いた。
ちなみに水魔法Bのウォータースピアは、水を圧縮した槍である。
そこそこ威力があり制御もききやすいのだが、連射ができない。
水魔法がAになればウォータースピアを連射できるので、かなりの攻撃力となるのだが。
「エル、頭部のやや下にある胸部の中心を狙って、一撃で倒そう」
「了解。やってやるのだわ」
エルが大きく深呼吸をしてから右手を前に出し、巨大熊を起こさないように小声でウォータースピアの詠唱を始めた。
「聖なる水よ、我が敵をつらぬく槍となれ。ウォータースピア」
すると、瞬時に2メートルくらいの細長い水の槍が出現し、巨大熊めがけて飛んでいく。
奇麗な放物線を描いて進む水の槍が、うつ伏せに眠る巨大熊の背中に着弾し、突き刺さった。
しかし、巨大熊に反応がない。
深い森の中に静寂が響く。
そして、遠くでさえずる鳥の鳴き声が、かすかに聞こえてきた。
「やったんじゃないっすか?」
「すごいじゃないか、エルネスタ! 本当に一撃で倒すなんて、アタシは感動したぞ」
クラウに褒められて感極まったエルが、クラウに抱きついて破顔した。
僕は死亡を確認するために、巨大熊を鑑定しようとしたのだが、その瞬間皆に緊張が走る。
巨大熊が平然と起き上がり、僕たちの方に顔を向けたのだ。
「う、うそ。失敗なのだわ」
エルがクラウに抱きついたまま驚愕している。
皆が呆然としていると、突如巨大熊が僕たちの方へ四本足で走り出した。
「皆、警戒して!」
僕の号令に皆の表情が引き締まった。
そして巨大熊が崖の下に到着すると、僕たちを睨みながら吠えた。
「グオー!」
気持ち良くお昼寝していたところを叩き起こされたのだ、そりゃあ怒るよね。
巨大熊の口からは、よだれがダラダラと垂れている。
「ク、クリス。空腹でイライラしているみたいですけど、大丈夫でしょうか?」
不安になったリゼが僕の左腕に抱きついてきた。
「大丈夫っすよ、リゼたん。あの熊は崖が登れなくて悔しがっているんすよ」
カルラは、そう言うと巨大熊を指さして笑った。
その瞬間、自分がバカにされていると気づいたのか、巨大熊が怒り狂いながらほぼ垂直の急斜面を登り始めた。
「マ、マジっすか!?」
カルラが発狂すると同時に、僕たちは大ピンチに陥った。




