第118話 久々の討伐依頼
今回から通常どおり、クリストハルトの視点で物語が進行します。
【クリストハルト視点】
僕がバスラー隊長に闇魔法の指導を受け始めてから二週間が経過した。
集中的に闇魔法のみ使い続けた結果、僕の闇魔法はDからBへ上昇している。
インフィニティの女性陣も平穏な環境の中で、安心して課題に向き合うことができているようだ。
そして昨夜、エルから冒険者ギルドの依頼を受けるよう勧められた。
デス砂漠で巨大ミーアキャットを討伐してから、もう少しで三か月になるらしい。
三か月に一度冒険者ギルドの依頼を受けないと、パーティーランクの降格があるのだ。
うっかり忘れてしまいそうになるが、インフィニティには優秀な軍師がいるので助かった。
現在は朝食後、皆でリビングのソファーに座り会議中である。
「前回の巨大ミーアキャット討伐から、そろそろ三か月になるとエルが教えてくれた。今日はアベリアの町にある冒険者ギルドで依頼を受けようと思う」
僕が発言すると皆が頷いて賛成してくれた。
「お兄様、あれからもう三か月が経とうとしているのですね。なんだか、あっという間の気がします」
リゼが少し上を向いて、目を閉じながら過去を振り返っているようだ。
たしかに色々あった。光魔法の情報を集めまくったり、シュトラウス伯爵家の末裔を探したりと。
そしてついにリゼが大聖女となって、帝国に帰国し皇帝陛下にも報告をした。
移動手段が徒歩ならば、数年かかっていたかもしれない。
「うん、良く頑張ったね。リゼ」
「はい! えへへー」
左隣に座るリゼが、僕に抱きついて甘えてくる。
僕は右手でリゼの頭を優しく撫でてあげた。
「クリス、もしまた以前のように巨大蜂と巨大蛙の依頼しかなかったら、どうするのかしら?」
エルが真剣な眼差しで僕を見ている。
「エル、縁起でもないことを言わないでくれ。本当になったらどうするのさ」
「そうだぞエルネスタ。旦那様の言うとおりだ」
「大丈夫じゃないっすか? 地域が変われば、魔物の種類も変わるっすよ」
カルラの言うとおりかもしれない。
まあ心配しても仕方がないことなので、皆で出発の準備を始めた。
「そうだ、エル。水魔法をBからAに上げるためにも今日の魔物討伐は、エルに水魔法で止めを刺してもらう予定だからよろしくね」
「任せてなのだわ。特訓の成果を見せるときがきたようね」
エルの瞳に炎が宿っているように見える。
まあ通常のBランク程度の魔物なら、水魔法Bでも何とかなるはずだ。
時間は掛かるかもしれないが、練習の成果を出せるのではないだろうか。
「それから、クラウ」
「ん? どうした旦那様」
「クラウには前衛で盾に徹するため、いつもの軽装備ではなく、厳重に防具の着用をお願いしたいのだけど」
「承知した」
クラウが右手の親指を立てて、任せておけと合図をくれた。
事前の打ち合わせは、こんなところかな。
僕も残りの身支度を整えることにした。
今日の女性陣は、皆が長ズボンを着用している。
十一月に入り寒くなってきたので当然ではあるが、皆の美脚が見れないのは寂しいものだ。
まあ夜になれば、風呂で僕が髪を洗ってあげるので、皆の水着姿を拝めるのが救いではあるけれど。
しばらくして皆の準備が整い、僕は平家を土に戻し徒歩で移動を開始した。
各々が厚手のコートを着用し、防寒対策は万全のようだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アベリアの町に入り冒険者ギルドに到着すると、早速受付カウンターへ直行する。
「こんにちは。依頼を受けたいのだけど」
「はい、こんにちは。薬草採取の依頼がたくさんありますよ」
受付嬢が微笑みながら対応してくれた。
「いえ、魔物討伐の依頼を受けたいのだけど」
「ごめんなさいね、魔物討伐はCランク以上のパーティーでないと受けられないの。冒険者カードを見せてくれる?」
受付嬢が申し訳なさそうに僕を見ている。
ああ、このやり取りも何だか懐かしい気がするな。
三か月に一度くらいしか冒険者の活動をしていないから、つい冒険者カードの提示を忘れてしまう。
「はい、どうぞ」
「確認しますね……ん? はあ!? エ、エス!」
受付嬢が目を見開いて驚愕している。
「ちょっ、しー。目立ちたくないから、静かにお願いしたいのだけど」
僕が自分の口に右手の人差し指を立ててポーズを取ると、受付嬢が慌てて口を両手で押さえている。
「し、失礼しました。まさかSランクだなんて……」
「いいよいいよ。それで魔物討伐って、今なにがあるのかな?」
僕が受付嬢に尋ねると、インフィニティの女性陣が両手を組んで祈りを捧げるポーズを取っている。
「現在ございます魔物討伐依頼は、二つです」
おお、とりあえず選ぶ余地があるのは嬉しいな。
受付嬢が引き出しから二つの書類を出して見せてくれた。
「巨大蜂と巨大蛙になります。どちらにいたしますか?」
最悪の結果に僕が恐る恐る女性陣の方を振り返ると、皆が勢いよく首を横にブンブン振って、拒否のサインを送っている。
「ごめんね。今回は見送ることにするよ」
「そうですか、残念です」
僕たちは受付嬢に別れを告げて冒険者ギルドから出ると、次の町へ移動することにした。
「お兄様、どの町へ移動するのですか?」
「うーん、とりあえず北上してみようか。最北端まで行けば、今までと違う種類の魔物がいるかもしれないし」
僕たちはアベリアの町を出て草原に戻ると、新風力車で北上してペンタスの町へ移動した。
しかしペンタスの冒険者ギルドには、巨大蛙の討伐依頼しかなかったので、再び北を目指すことにする。
「いやー、まいったっすね。巨大蛙はカーム教国でも嫌われ者なんすね」
「まあ、とにかくクサイからね。あのニオイが好きって人は、なかなか居ないのでは?」
僕は、以前巨大蛙の呪いにかかって超クサイ臭いになった、クラウの方をチラリと見た。
「ちょっ、旦那様。まるでアタシがクサイもの好きみたいに見るのやめて! アタシだってあのニオイは大嫌いなんだからね!」
クラウが必死に否定している姿を見て、皆がクスクスと笑っている。
「ああ、ごめんごめん。今のクラウなら昔みたいに、勝手に一人で突っ込んだりはしないよね」
「あ、当たり前だ。今のアタシは以前より賢くなっているからな」
クラウが胸を張って主張している。
「うんうん、そうだね。じゃあ次は、カーム教国最北端の町プリムラへ行ってみようか」
皆が頷いたので、僕たちは新風力車で更に北上した。
そしてプリムラの町へ到着したのは、お昼ごろだった。
お腹も空いていたので、とりあえず町にある食堂で昼食をとり、その後冒険者ギルドへ移動する。
到着すると僕たちは一直線に受付カウンターを目指した。
「こんにちは。魔物討伐の依頼を受けたいのだけど」
僕が冒険者カードを提示すると、受付嬢が一瞬驚いたようだけど、務めて冷静に一枚の書類を見せてくれた。
「現在ある魔物討伐依頼は、一つだけです」
またこのパターンかと女性陣が警戒感を強めている。
「巨大熊しかありませんが、よろしいでしょうか?」
僕が女性陣の方を振り返ると、皆が抱きあって喜んでいる。
まあ、巨大蜂と巨大蛙以外なら何でも良いのかもしれないが、結構強そうな気がするのだけど大丈夫だろうか。
「えーと、巨大熊の討伐ランクは?」
「Aになります」
それはもう良い笑顔で受付嬢が答えてくれた。
「もしかしてこの依頼、ずっと残っていたものだったりします?」
「そうですね。インフィニティの皆様が来てくれて、本当に良かったです。ありがとうございます」
いや、まだ受けるとは決めていないのだけど、絶対に逃がさないオーラが受付嬢から漂っている。
「エル、どうする?」
「受けるに決まっているのだわ」
おお、エルはやる気満々のようだ。
「じゃあ、巨大熊の討伐依頼を受けます」
「ありがとうございます!」
僕は歓喜した受付嬢から討伐依頼書を受け取った。
「ねえ、エル。本当に良かったの? 今日の魔物討伐で止めを刺す役目はエルだけど」
一瞬エルの動きが止まった。
ああ、これは失念していたな。
巨大蜂と巨大蛙を回避できたことがあまりに嬉しくて、今日の役目を忘れてしまったのかも。
「えーと、今からキャンセルは可能かしら?」
エルが受付嬢に尋ねた。
「不可能です。もしキャンセルをされると討伐失敗の扱いになりますが、よろしいでしょうか?」
勝利を確信した受付嬢が満面の笑みで答えると、エルが頭を抱えて座り込んでしまった。
弘法にも筆の誤り、といったところだろうか。何でも完璧にこなす人など存在しないのだ。
こうして僕たちは、巨大熊の討伐依頼を受けたのだった。




