第117話 皇后バルバラ・ブレイズ・ファルケの狂乱
通常はクリストハルトの視点で物語が進行していますが、今回は皇后バルバラの視点となっております。
【皇后バルバラ視点】
半年前、役立たずなメイドのせいで、クリストハルトとリゼットの毒殺に失敗した。
誤算ではあったが、その後更なる大誤算が待っているなんてね。
まさか、その日のうちに二人が城を出るなど、一体誰が予想できるというのか。
その後、全く消息が掴めず、追手を放つにも魔術師団長のリートベルク侯爵が目を光らせているため、実現できなかった。
「だけど、この私が本気を出せば、不可能なんて存在しないのよ!」
私はグラスに入った年代物の赤ワインを一気に飲み干した。
「陛下、あまり飲みすぎますと、お体に障ります」
私専属のメイドが意見してきた。
「うるさいわね! 早く次のボトルを持ってきなさいよ!」
「は、はいっ!」
メイドが慌ててワインセラーへ早足に移動した。
最近自分でも、酒の飲みすぎではないかと思うことはある。
でも、仕方がないのよ。私の邪魔をする忌々しい二人のことを考えると、イライラして気が狂いそうになるのだから。
けれど、大好きなワインを飲んでいる間は、気分が少し落ち着くのよね。
今まで自分の思いどおりにならない事なんて、一つもなかったのに。
リゼットとクリストハルトのせいで、私の予定は狂いまくりだ。
あの二人が居なければ、全て上手くいくのに。
私は帝国の筆頭聖女を維持できるし、長男のレオンハルトは皇太子になれる。
「陛下、お待ちになられていた客人が到着いたしました」
実家の老執事が頭を下げて報告にきた。
「そう、すぐにここへ通しなさい」
「はい、かしこまりました」
今日は私の実家であるアルトマイアー公爵家が、領内で開催する施しに参加するため帝城を出てきた。
皇帝陛下やリートベルク侯爵に怪しまれないようにするためだ。
息子たち二人は施しに参加するため、護衛を連れて教会へ出かけている。
私は一人で実家に残り、父に捜索をお願いしていた人物とこれから面会する。
我がアルトマイアー公爵家の財力を使い、ありとあらゆる情報を集めた。
そして私は最強の傭兵団を見つけ出し、これから依頼するところなのだ。
それにしても驚いたのは、二人が冒険者になっていたことね。
調べたところによると、15歳以上でないと冒険者登録ができないそうだ。
しかし光魔法Sのリゼットと、風魔法Sのクリストハルトは、特別に許可がでたものと推測する。
私の優秀な息子たち、第一皇子のレオンハルト、第二皇子のエーベルハルトにも特別許可くらいは間違いなくでたでしょうけど、冒険者などにさせるつもりは毛頭ない。
そして問題なのは、クリストハルトの火魔法がSらしいことだ。
トリック独立国で巨大サソリのスタンピードを一人で防いだらしい。
さらに所属する冒険者パーティー『インフィニティ』が現在の最高とされるSランクという情報もある。
それにインフィニティのメンバーも調査済みだ。
リーダーにクリストハルト、そしてリゼット、後はリートベルク侯爵の長女、帝国剣聖の長女、帝城の宮廷料理長の長女。
男一人女四人のアンバランスな構成は、分析を担当した者から意味不明と報告を受けている。
とにかく二人がこれ以上成長する前に、倒さねばならない。
そのためにも私の父にお願いして探し出した、最強と名高い『ダークネス傭兵団』に依頼したいと思う。
するとメイドに連れられて二人の男が応接室に入って来た。
「これはこれは陛下、お会いできて光栄です。俺はダークネス傭兵団の団長でリュディガー・ライツと申します」
団長と名乗ったのは、ダークエルフの男だった。
これが世界最強の魔法使いと噂される闇魔法SSの使い手、殺戮兵器の異名を持つリュディガー・ライツ。
絶対、敵に回したくないわね。
「バルバラ遅れてすまない」
挨拶の途中に入室してきたのは私の父であり、アルトマイアー公爵家当主エリーアス・フォン・アルトマイアーだ。
「お父様、お忙しいところ恐縮です」
「なんのなんの、可愛い娘と孫たちのためなら喜んで協力するぞ」
「お父様、ありがとう」
「うむ、ところでこの者が例の?」
「はい」
お父様が二人の男をジッと見ている。
「これはこれは閣下、本日はお招きいただき感謝いたします。俺はダークネス傭兵団の団長でリュディガー・ライツと申します。こいつは、副団長のオイゲン・マガトです」
「初めまして閣下、陛下、副団長のオイゲン・マガトと申します」
二人の男が頭を下げた。
どうやらダークエルフなのは団長だけのようだ。
メイドがローテーブルに四人分の紅茶を提供し終えると、お父様が従者の全員を部屋から出した。
これから話す内容は、極秘なのだから当然よね。
「閣下、護衛も無しに俺たちと商談をするなんて、その度胸に感服いたします。これは信用されていると受け取ってもよろしいので?」
団長のダークエルフが、微笑みながらお父様に質問を投げた。
「勿論だ。これから契約してパートナーになるのだ、二人を信用している。ただ言い足すならば、屋敷の庭園で現在二百名の私兵が訓練中だ。それと、この部屋から出るには私か娘の許可が必要であると、廊下で待機している従者に厳命してある」
さすがお父様、安全面もしっかりと確保している。
「ぷっ、あははは。これは一本取られました。さすが帝国の筆頭公爵家ご当主様。安心してください、俺たちは依頼主を裏切ることは絶対にしません。俺の傭兵団は信用を大切にするので」
「そうか、それなら安心だ。では、早速話を進めようじゃないか」
お父様が笑顔で場の進行役を務めてくれ、この後依頼内容の確認とその報酬について合意した。
そしてお父様が、懐中時計を見て立ち上がった。
「すまないが、この後別の用事がある。残りの詳細は娘と話し合ってくれ。バルバラよ、自分のやりたいようにやりなさい。アルトマイアー公爵家にとっても大事な話ゆえ、私が全面的にバックアップする」
「はい、ありがとうお父様」
私は立ち上がり、お父様と抱擁を交わしてからソファーに座り直した。
そしてお父様は廊下に向けて合図をし、従者に扉を開けさせて部屋から退出していった。
「では陛下、最終確認をさせていただきます。依頼内容は、帝国の第三皇子クリストハルト・ブレイズ・ファルケと第一皇女リゼット・ブレイズ・ファルケの捕縛でよろしいでしょうか?」
団長のダークエルフが微笑みながら私を見ている。
「いいえ、捕縛では困るのよ」
「では、どのようにすればよろしいので?」
「二人とも殺してしまいなさい。ただし、死体は必ず持ち帰ること。それと顔は損傷のないように注意して。後で確認ができないと困るから。ああ、頭部と胴体は離れていても構わないわ」
どうしたのかしら? 団長も副団長も驚愕しているようだけれど。
「えーと、陛下のお子さんを二人とも殺して構わないと?」
「あなた勘違いをしているわね。第三皇子と第一皇女は私の子ではないのよ」
「なるほど、そういうことでしたか。しかし遺体を持ち帰るとなると、季節によっては腐ってしまい顔の判別が困難かもしれませんが」
団長のダークエルフが困り顔で私を見ている。
「大丈夫、魔道具で冷暗保存機能がついた棺桶を二つ用意してあるわ」
「なるほど。そんな高価な物を二つも用意できるなんて、さすがアルトマイアー公爵家。ですが重すぎて、殺害前に棺桶を二つ移動させながら戦うのは困難かもしれません」
「問題ないわ。この収納ボックスへ入れて持ち運びなさい。これは報酬の前払いとして追加で団長に差し上げます」
「おお! これは有難い。ずっと欲しかったので助かります」
団長のダークエルフが笑みを零している。
「まあ、容量は小さめだから期待しすぎないでね」
「いえいえ、手ぶらで移動できるだけで充分すぎる恩恵です」
団長のダークエルフが左腕に、収納ボックス機能内蔵のリングを装着して、満面の笑みを浮かべている。
「では、よろしく頼みますよ」
「はい、お任せください陛下。俺が必ず二つの棺桶に、お望みの物を入れて持ち帰りますので」
そう言い残してダークネス傭兵団の団長と副団長は、颯爽と屋敷から出ていった。
さあ、クリストハルト覚悟なさい。
今度こそ、息の根を止めてあげるわ。
皇太子になるのは、レオンハルトよ!
そしてリゼット、帝国筆頭聖女の座は、絶対誰にも渡さないわ!




